インタビュー

【岩手中部水道企業団 菊池明敏氏:第1話】水道事業の広域統合を実現

菊池明敏
【菊池明敏氏 経歴】
1984年に和賀町役場(現北上市)の税務課として勤務。1991年に、旧北上市、江釣子村、和賀町の市町村合併が起こる。その後、財政課、下水道課、企画課を経て2001年より、水道部営業課、2011年に上下水道部上水道課長となる。2014年、岩手中部水道企業団の設立に際し移籍。その翌年より岩手中部水道企業団局長を務める。
 総務省地方公営企業等経営アドバイザー、地方公営企業法の適用に関する研究会委員、国際公会計学会理事、経済産業省の水道CPS/IoT検討委員会委員などに名を連ねる。著書「地方公営企業経営論」、その他、多数の論文を発表。

-水道業界の先駆者と言える菊池氏のインタビュー。水道事業を統合した目的、背景、経緯、そして、これから全国の水道事業が抱える課題と提言をいただいた。どの自治体も課題として考慮せざるを得ない水道事業を見据えながら、菊池氏自身が持つ水道への熱意を感じていただければと思う。

水道事業の広域統合を実現

加藤(インタビューアー):早速ですが、菊池さんは課題を抱えていた役所の水道事業を変革されました。これはどういったことをされたのでしょうか。

菊池氏:2014年の4月1日に、岩手中部水道企業団というものを立ちあげました。全国で初めてのケースと言われていますけど、北上市、花巻市、紫波町における水道事業の広域統合を致しまして、この企業団設立とともに北上市役所を退職し、一方通行で移籍ということになりました。

加藤:そうなんですね。

菊池氏:そうです。だからもう市役所には帰れない(笑)。同じ地方公務員なんで、ほとんど変わりないんですけどね。

コストカットと職員の専門スキルの維持向上がなされた

加藤:なるほど。広域統合によってどういうメリットが生まれたのでしょうか。

菊池氏:水道に関わる公共設備の統合によるコストカットと、独自採用による専門性の維持向上ですね。前者については、近隣市が単独でやっていた場合だと、どんどん水道料金を値上げせざるを得なくなっていたんです。また、後者については、内部の人事異動で担当が来ても、また数年で異動してしまい、そのたびに専門性がなくなってしまうということがありました。

菊池明敏1-3

統合をしなかった場合は給水原価が上がり、価格に反映せざるを得ない状況だった

加藤:統合することでコストメリットが生まれるわけですね。職員の異動の話は、専門性の高い部署になればなるほど、問題があるという話も聞くことがあります。

菊池氏:新しく作った岩手中部水道企業団の職員は、もともと北上市、花巻市、紫波町の職員だった者が関わっていましたから、それが若いやつも含めて役所を辞め、この組織に来ることになりました。

自治体からの出向ではなく独自採用を行う

加藤:最初の段階で何名くらいの方がいらっしゃったんですか?

菊池氏:65名です。定員が72名だったので、足りなかった7名は2年間出向いただいて、去年の4月1日からは、完全72名の定員全員が、独自採用という形でやらせていただいてます。

人口減少に伴う収入の減少と、設備の老朽化が課題

加藤:全国の水道事業の課題はどういったものがあるのでしょうか。

菊池氏:人口減少に伴う収入の減少と、設備の老朽化ですね。要するに、老朽化に対するメンテナンスや投資が必要にも関わらず、収入は減る一方。これまで日本が経験したことのないインフラの更新投資の始まりですね。

 社会の設備として水道管が最初にできたものですから、そこが最初にぶちあたるということですね。ここから、あと10年、15年遅れて、下水とかそういうようなものも更新時期を迎えるということなんですよ。これは日本が抱える根本の課題だと思っています。

 いまは蛇口を捻れば水が出るので、ほとんど誰も危機感を持っていない。水業事業体を運営する中でも、まだ危機感を持ってないというところはたくさんあります。だけど、それに気がついた水道事業体は何か手を打たないといけない。そういうことで、広域化を最初にやったわけです。いま、もうブームになってきていて、厚労省も広域化を主眼に推し進めていますし、総務省もそういう指導をしています。ある意味、水道事業のトレンドになったのだと思っています。

菊池明敏1-4

兵庫県企業庁50周年記念シンポジウムにパネリストとして参加

北上市の職員時代に下水道事業の問題に気がつく

加藤:全国が抱えるような問題に対して、いち早くお気づきになられました。それは、北上市の水道事業単体としても、何か問題みたいなのもあったのですか?

菊池氏:そうですね、僕が携わったのは下水道の企業会計化でした。もともとは、左遷されてそこに行ったんですけど(笑)、会計的にすごく酷い状態で、親の屋台骨を揺るがすくらい酷かったんですね。それを暴いちゃったわけなんです。

加藤:開けちゃいけないやつがあったんですね(笑)。

菊池氏:パンドラの箱でした(笑)。開けにいった自分でも、「これはあかんわ」と思って(笑)。その時、それがむちゃくちゃ大変なことだって認識があったんで、上には何も言わないで、若いものだけに言いました。

 直属の上司に言うと、多分、話が通らないので、資料を作り込んで、「こんなむちゃくちゃなことになっています。下水道は事業として倒れています」って、いきなり市長のところに行きました。「このままだと料金は値上げしなきゃいけないし、事業もやめなきゃいけない」って、勝手にひとりでポンって言いに行って(笑)。まあ怒られるだろうなと思ったら、市長の顔が青くなりました。そこを理解してもらえたんです(笑)。

加藤:それは、いつ頃ですか?

菊池氏:2006年だったと思います。そこから、大幅な料金改定と事業見直しで大手術みたいなのをやりました。料金改定は、日経一面で「北上市、25.6%値上げ。大幅な値上げ」って掲載されて叩かれましたよ。

加藤:菊池さん個人としては、将来のために良いことをしているんですけどね。

菊池氏:はい。個人としては、ここで下水道事業が破たんするのを止めたつもりなんですが・・・。組織としてはそこまで放置していた、ということだったのだと思います。ある意味、夕張のにおいがするくらい酷かったので。だから、「会計をきちっとやらなきゃ、酷い状態になるんだ」っていうのは、そこで学びました。

 もともと、会計はずっとやってきていたんです。そもそも、なぜ公務員になったかというと、以前に会計士試験を受けて、落ちました。要は、「国破れて山河在り」みたいな。帰って来ると就職先がなかったもんですから、しょうがなくという感じで、不本意だったんですけど(笑)。

菊池明敏1-2

地方公共団体金融機構ファイナンス賞受賞式

左遷先だった水道事業

加藤:前例がないまま、岩手中部水道企業団を立ち上げることは、大変な作業だったと思います。まず、どう動かれたんでしょうか。

菊池氏:そもそも、財政と企画が長くて、企画の時に総合計画担当だったんです。当時、三重県と四日市しかやってないような行政評価ですとか、ああいうのを見て「やりたい」って言ったら、「そんなのどこでやってんだ」って言う上司がいて、やることはやれたんですが、完膚なきまでに形骸化したものになってしまったんです。その時に、ほとんど毎日ぶつかっていました(笑)。

加藤:上司とですか?

菊池氏:当時の事務方トップとぶつかっていまして、「毎日声を荒げて二人でやっている」と、いつもギャラリーができるくらいやっていました(笑)。その方が、当然、人事権を持っていますんで、ぶつかった奴を飛ばす先が必ず水道(笑)。

加藤:菊池さんがそんな風に喧嘩をしているようには全然見えないんですが、当時は気性がけっこう荒かったんですか?(笑)

菊池氏:荒い訳じゃないんですが、面白くないこと、筋の通らないことにはぶつかりますね(笑)。

加藤:全然見えないですね。すごく柔らかい印象です。

※本インタビューは全6話です

他のインタビュー記事を読む

ネイティブアド



頁トップへ