水道事業はコンパクトでスピード感があった
菊池氏:ところが水道に飛ばされてみると、そこだけが市役所で企業会計をやっていて、とてもしっくりきたんです。なおかつ、その当時、水道事業は部長だけ・・・言葉は悪いですが、部長だけ騙せば(笑)、一気に市長決裁だったんです。あのスピード感が、ものすごく私にはしっくりきました。
加藤:組織がコンパクトだったんですね。
菊池氏:そうです。そこだけで完結できるし、事業として水のことだけしかやっていなくてわかりやすい。そこに北上市って20年、30年選手の技術者をちゃんと置いていたんですよ。この道一筋みたいな人が、何人かいて、そこの方たちと動いた時には本当に面白かったですね。
役所の中にこういう部署があるんだと。こういう気合の入った『変なおっちゃん』たちがいて、これは面白いなと。企業会計なので、いろんな財務諸表見て、やばいとこも見えてきますし、そうすると、どこをやればどの数字に跳ね返るかってのがわかる。何かやると、その打ち手がパーンと数字に出て来る。
水道事業の根本治療は水道管の入れ替え
加藤:水道事業に関して具体的に、真っ先にやったポイントはどこだったんですか?
菊池氏:やっぱり老朽化ですね。老朽化すると、水が水道管からどんどん漏れてしまうんです。そうやって、有収率(給水する水量全体から、課金対象となる水量の比率)がどんどん落ちてしまうので、根本治療は水道管の入れ替え。全国でこれからやんなきゃいけないのは管の入れ替えなんですよ。
我々は一番古い、街なかの密集したところを替えていったんです。3年間で何億かかけてやったら、いきなり有収率が3%、4%ポーンって上がるんですよね。1%上げると2~3000万軽く費用が浮いて、それが毎年続きますよね。それに味をしめて、これ面白いねって。そうすると、目に見えて会計も良くなってくるんですよ。
若手・中堅にはものすごく焦燥感と危機感があった
加藤:そこから、どう岩手中部水道企業団設立につながるのでしょうか。
菊池氏:その時、安定的に水道事業者に対して、ダムの水を供給する旧企業団というものがあって、そこにいた僕の同級生が「傘下の三市町の事業との統合は考えないのか」と、議会から質問を受けたんですね。当時、企業団の経営には、まだまだ累積赤字があって、それを解消している途中だったんです。
そこで、質問を受けたからには何か行動に起こさなければいけないということで、「じゃあ、『在り方委員会』ってのを作って、3回ぐらいやってみよう」と。ただ、この対応をしても、残念ながら「時期尚早となってしまうだろう」という話をしていたんです。というのも、いざ統合していくとなると相当大きな話で、役所や上層部にはとても面倒な話だと思うんです。
ただ、委員会を作る中でひとつだけこだわったのは、若手と中堅の間で意見を出そうと。委員会の委員長は所長とか部長クラスですが、「それは単なる傀儡(かいらい)にしよう」というのはふたりで決めたんです。その下に専門部会というものを作って、「そこが実働だ」と。専門部会には、経営財政部会と施設管理部会とがあって、経営財政部会の部会長を僕が務めました。
一回開催したところで「うーん、統合は難しいですね」という結論になるんだろうなと思っていたんですが、全く違う結論が待っていました(笑)。若手・中堅には、みんなものすごく焦燥感と危機感があったんです。毎日、水道管が水を吹いている現状を見ているわけですから、もう、熱が入り過ぎて収拾がつかなかったですね。
「このままで、本当にいいと思っているのか!」と本気でぶつかる
菊池氏:1回目の会合が始まって1時間もしないうちに、「あ、これ終わんねえ」って思って、とにもかくにも必ず飲み会をするってことを決めちゃったんです。1年半で正式には23回の会合を開いて、飲み会が25回です(笑)。
加藤:(笑)。飲み会のほうが多かったんですね。
菊池氏:2回ほど(笑)。その他にも、専門部会ごとに飲み会をやっていますので、すごい飲み会が多かったんですが、ここまで本気で「どうすんだ!」って話し合ったことはなかったですし、ほんとにつかみ合いに近いような感じでした。お酒飲むとエスカレートしますでしょ?(笑) 「このままで、本当にやっていけるか!」みたいな話をずっとしていました。
『在り方委員会』ができたのが全ての起点
加藤:みんながそれぞれ、モヤモヤしていた気持ちを言える場所ができたんですね。ちなみに、それはいつ頃ですか?
菊池氏:2004年ですね。この『在り方委員会』ができたのが、全ての起点です。
そこからは、ずっとどっぷりですね。この委員会を2004年から続けていくに連れて、みんな役職がだんだん上がっていくんですね(笑)。だから、広域化ができた大きな要因は『在り方委員会』の専門部会を作ったというところですね。
覚書を結ぶまでは、夢でしかなかった
加藤:2004年から約10年の時を経て、岩手中部水道企業団ができました。その間に、異動されたりする人は多かったんじゃないでしょうか?
菊池氏:北上市はあまりなかったですね。花巻市も紫波町にも気合の入ったやつもそのまま残っていました。そういうキーマンがいたんです。だから、「どうしても実現したい」って思っていた。でも、統合する3年前に覚書を結ぶまでは夢でしかなかったんです。「やろうよ」って言いながらも、どこかで「でも、夢だしな」ってのが、どうしてもあったんです。だから、覚書を交わした瞬間にやっと現実化しましたね。これでいけるって。
首長を説得することが一番大変だった
加藤:覚書にこぎ着けるまでは、何が一番大変だったんでしょうか。
菊池氏:首長を説得することですね。現実を伝えて、「これからもっと大変なことになるぞ」っていうのを数字で見せて、ずっと説得して。「一般会計の屋台骨がこんなに厳しくなるよ」ってのを全部示した時にようやく、首長がゴーサイン。北上市長は、早めに理解してもらいましたが、あと二人を騙そうと(笑)。紫波町長さんが最後まで抵抗していましたけど、納得してもらってからは完全に応援団になりましたね。
加藤:水道の状況としては紫波町が一番困っていましたよね?
菊池氏:当時、起債残高が最も多かったし、オガール紫波(官民複合施設)のプロジェクトも動き始めたころで、投資もかかっていたあたりでした。
僕の人生、左遷ばっかし(笑)
加藤:この10年の中でも、うまくいったり、そうだと思ったらダメだったりと、気持ちが上下することはありましたか?
菊池氏:めちゃくちゃありましたよ(笑)。もう、言えないようなことはいっぱいありましたし、「あいつ生意気だ」って言われて、とあるところからの横やりで左遷されていますし(笑)。僕の人生、左遷ばっかし(笑)。
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※本インタビューは全7話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 水道事業の広域統合を実現
第2話 夢でしかなかった広域統合
第3話 広域化によって、浄水場の数は34から21へ
第4話 全域で蛇口から直接水が飲める 類まれな国 『日本』
第5話 ノイジーマイノリティの意見を聞くことは全体の幸福にはつながらない
第6話 水ってないと死にますんでね