インタビュー

【野洲市 生水裕美氏:第3話】一人への支援が社会のためになる

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役所内で必要性を理解してもらうことが最も大変だった

加藤:生活困窮者支援や条例作りで、何が最も大変でしたか?

生水氏:役所内でなぜこれが必要かと理解してもらうことです。役所外でも、例えば、地域の民生委員児童委員さんであったり、自治会長さんであったり関わる人達。そういう方々にとっては今の業務にプラスアルファでやってもらわなければいけないので負担になります。負担を押し付けられていると思われるのでは、地域はうまく進みません。

『なぜ』の部分を理解してもらう

加藤:理解してもらうには何が大事でしたか?

生水氏:単にお願いするだけじゃなくて、「なぜこれが必要なんだ」という『なぜ』の部分を理解してもらうことが大事。そのためには明確な目的や理由を、相手にわかりやすく伝わるように、伝えていかないとあかんと痛感しました。自分だけの思いで「必要なのになぜわかってもらえないのか?」ではないです。それは自己満足でしかない。

 役所というのは業務分担をすごく大事にするのです。「なぜ市民部が生活困窮支援をするのか? それは福祉部の仕事ではないのか?」とか指摘されます。

 そういうときに、目的を丁寧に説明する。平成23年度に初めて生活困窮者支援に取り組むことになったモデル事業の前段階では、各部内会議とか総合調整会議とかが市役所の組織にあるので、お願いをしてお話に行きました。新しい会議ではなく既存の様々な関係する会議に出向いて行っては、「お願いします!」と頭を下げる。営業活動です(笑)。

失敗と言わなかったら失敗じゃない

加藤:様々な業務を進めていく中で失敗したことはありますか?

生水氏:失敗はないです。自分が失敗と思わなければなかったら失敗じゃないんでね。諦めが悪いので、目標に向かって何とかなるまでやり続けます。もしかしたら、周りからは「お前、失敗してるやん」って思われていて、私が単に鈍感なだけなのかもしれないですけど。

加藤:そう思えるのは耐性があるというか、一つの能力ですよね。

生水氏:ただ、私のせいで人を傷つけてしまったり、困らせてしまったことはあって、それは今でもものすごく申し訳なく思っています。それについては失敗という言葉では済まされないので、自身の戒めとして忘れてはあかんと思っています。

ヒントは全て相談者の話の中にある

加藤:多重債務者プロジェクトを進めたり、条例を作る中で、上手くいったポイントはどこにあったのでしょうか。

生水氏:相談者の話をよく聞くこと。そこにヒントは全てあります。『相談者が何に困っていて、何をすれば課題は解決するのか』、ここにつきます。何か事業をしようとしても、そこから始めていかないと宙に浮いてしまいます。大切なこと、必要なことははすべて相談者が教えてくれるのです。

「一人への支援が社会のためになる」

生水氏:「一人の相談者も救えなければ失敗だ。一人の支援が上手くいけば制度を普遍化すればいい」という市長の言葉があります。まず一人から始めて、成功すれば普遍化すればいいと。普通、公務員は『公平公正』と言って、まんべんなくやらないといけないという考え方があるんです。

 うちの市長はそういう考えでなくて、「まず、徹底的に一人を支援する。成功すれば、それを制度に変えていけばいい」と言ってくれます。それが、社会のためになるのだと。

ようこそ滞納いただきました条例

生水氏:うちの市長はめっちゃ面白いんです。滞納すると普通は悪質滞納とか色々言われるでしょ? でも、納税推進課が所管する「野洲市債権管理条例」の記者発表のときに、市長はそれを「ようこそ滞納いただきました条例」と言いました。滞納を生活困窮のSOSのサインだと捉えて支援ができるというんです。さすがに新聞記者はびっくりして「市長、すごいこと言ってはります!」みたいな感じでした(笑)。

国と連携して制度作りに関わる

加藤:生水さんのお仕事の成果が注目され、国からも声がかかっています。具体的にはどのようなお仕事をされましたか。

生水氏:最初は2006年に金融庁とお仕事をさせていただきました。貸金業法が改正されたあと、全国の多重債務者をしっかり受け止めて丁寧に相談ができる窓口をどう作るかなど、それを実際にどうやって全国に広めるかを一緒に考えさせていただいたのです。当時の金融庁の職員の皆さんはが法律や制度を作るだけじゃなくて、そこに魂を入れるという思いでやられていた。その魂を入れる作業を一緒にさせてもらいました。

消費者問題の委員会で参考人として出席

生水氏:2008年に野田聖子大臣が国務大臣になられたとき、野洲市役所に視察においでくださいました。その際、「消費者庁という立派なものが国にできても、地方の消費者行政が疲弊したら何にもならない」と、野田さんに言っていただけたことがすごくありがたかったです。その後、消費者庁法案を議論するため開催されました、2009年4月8日第171回衆議院、5月28日第171回参議院それぞれの「消費者問題に関する特別委員会」に参考人として出席しました。参議院特別委員会では、松井議員から「今消費者相談の最大の問題点はなにか?」との質問があり、「消費生活相談員に権限がないことが最大の問題である。職責にあった権限が必要だ」と答えました。その参議院特別委員会で消費者庁法案が成立したのですが、大事な場面に立ち会えたことを心から感謝しています。

講演

さまざまな場で意見を求められる

基礎自治体が拠点となって相談体制を整える必要がある

加藤:今日も消費者庁に行かれていましたよね。

生水氏:「生水さんちょっと来て、魂入れる研修してくれ」ということでお伺いしました。少しさかのぼりますが、2011年に「社会保障改革に関する集中検討会議」の委員をさせていただきました。

 総理大臣も出席される偉いさんが集まる会議なのですが、「何を言ってもいい」と言われたので、「市民と一番近い基礎自治体が拠点となって、地域に相談体制を整える必要がある」と散々そればっかり、アホの一つ覚えみたいに言ってきました。

 その後は生活困窮自立支援法の制度改正を検討する委員をさせていただきました。それからもずっと関わらせてもらっていて、今はえらいことにしょちゅう東京に来ないとあかんのです。今年の7月からは社会保障審議会「生活困窮者自立支援及び生活保護部会」の委員として、制度見直しに向けた現場の意見を伝えています。

 変わらず好き勝手言い続けているんですが、アドリブではなく原稿を作って、何度も読み返してチェックします。やはり制度改正に関わるものですから緊張しまくってビビってしんどいです。それでも、委員の皆さんの貴重なご意見をうかがえるのは、すごく勉強になるし、また、つられてその場で思ったことをつい口走ってしまいます・・・。

※本インタビューは全6話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

 

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