『何を言ったか』という中身にきちんと向き合おうとする職員が増えた
加藤:将来的には、『誰が言ったか』ではなく、『何を言ったか』にもっと変わっていきそうですよね。選挙についても、いわゆる3つのバン(地盤・看板・鞄)みたいなものがだんだん変わっていく、民間企業からも政治に人が入ってくる。
小田氏:昔からの政治をそんなに経験していないから語弊があるかもしれませんが、40代くらいの私と同世代か、それより若い職員の方は、『何を言ったか』という中身にきちんと向き合おうとする方が増えた気がします。
「議員が言ったことが簡単に通るようじゃいけないし、行政も隠したりしないでどんどん情報を出せばいいじゃないか」って。「きちんと議論して、政策的な話をしていこうよ」と主張する職員は結構多いんですよ。彼らがもうちょっと偉くなってくると、行政もすごく変わるんじゃないかなって本当に思っています。
理想は議員に対して「陳情とかばっかりやらないで、もっと大きな視点で数字とかデータの話をしてくださいよ」と職員が、立場を気にせず突っ込んでくるようになっていくこと。私たち議員は職員とざっくばらんに話して、私たちの言ったことがおかしかったら、「ここが、こうおかしいよ」って反論してもらえるような関係性を作るのが大事だと思っています。
加藤:職員は変わっているということですが、議員も変わってきているという感覚は持たれていらっしゃるのでしょうか。
小田氏:政治的に今は過渡期だと思っています。職員が変わってきたように議員も変わってきていますし、少しずつですが議会が多様化していると感じます。毎年の変化は小さくとも、10年、20年単位でみると大きく変わっていくと思います。この変化をどこまで加速させることが出来るのかは、各議会の考えや力量によって今後大きな差が出てくると思います。
市民の生活のために活動する素晴らしい職員がたくさんいる
加藤:普段関わる職員の方にはどのような印象をお持ちですか
小田氏:すごく真面目な方が多いですよ。例えば、福岡市の今村さんとか砥部町の田中さんのような、目立ったスター職員みたいな方の発想力や行動力は素晴らしいなと思います。本当に敬意を払っています。
でも、スポットライトが当たらない地味だけど、市民の生活に密着していて、大事な部分を本当に一生懸命やっている職員が、実はその裏にたくさんいて、そういう人たちこそ尊敬できると思っています。
例えば、生活保護の自立支援をしている職員の中には、市民の方が将来的に生活保護になるのを防ぐために、通常業務が終わって退庁してから支援団体に会いに行かれて、夜の11時くらいまで現場を見たり意見交換をしたりして、次の日、朝の8時半から働いたりしている人もいるのです。
こういった職員の方々が、身を粉にして住民の生活を陰で支えてくれているということは、議員にならないとわからなかったことです。公務員関連で記事になるのは、不祥事とかネガティブなことが多いですが、「スポットライトの当たらない場所で真面目に地道に活動している職員が多く存在している」、本質的にはそこが一番大事なことだと思っています。
加藤:そうですよね。最近、児童虐待の担当の方にお話を聞きました。多くの市民から目立つような、華々しいお仕事ではないんですけど、とても大切な役割だと思います。
そういった人の命や、安心安全をしっかりと支える職員の方の情報を、どんどん発信したいなと思っています。
小田氏:そういう目立たない地味な環境の中で、頑張れば頑張るだけ燃え尽き症候群になってしまう方もいらっしゃいます。そこは本当に報いていけるようにしたいと僭越ながら思っています。なるべく予算と人を投入したいなって。
1000人の職員が決裁業務しかしていない計算となる
加藤:小田さんから見て、地方自治体が改善できるポイントはどういうところにあると思いますか?
小田氏:もともと業務改善を手掛けていた立場からすると、効率化の余地はまだまだあると思っています。いまは仕事のやり方を変えないで、単純に人を減らしている部分が大きいから、職員の負担が増すばかりです。
例えば、役所では決裁で押す判子の数がとても多い。承認者だけでなく「一応見ておいてね」みたいなのが積み上がって1件の決裁を通すのに数十人を経由するものもあります。
これは議会で話をしましたが、決裁の件数と平均所要時間から1年間に決裁業務にかかる総時間を計算してみたところ、うちの市役所では1年間1000人がずっと決裁だけをやっているという結果がでました。職員1万3千人のうち、1000人が決裁しかしてないのですよ。ここは真っ先に効率化すべき分野であると考えています。
決裁プロセスの簡素化というと簡単そうに聞こえますが、じつは組織の在り方そのものに関わってくる話で難易度は高いです。情報を組織間でどうやって共有して、どこが意思決定するのか、最終的にどこが責任を持つのかを決めること、つまり「責任と権限の明確化」を行うことが大前提になります。
公務員って権限と責任を曖昧にしているから、何か問題が起こった時に、「これは誰がミスして、誰がやったのですか?」っていうのがわからないようになっているのですよ。「組織の中で決裁も通していますから全体の責任です」みたいな。
責任の追及の話じゃなくて、「原因分析と対策をしたいので、そこをきちんとしましょう」と言っても、「いや全体が・・・」となる。たぶんミスをしたら罰せられて、そのまま上がれないっていう文化があるから、みんなでリスクを分散する力が働くのでしょうね。
ですからそういう文化でずっと仕事をしてきた人たちにいきなり「責任と権限を明確化しましょう」なんて言ってもまず無理です。トップである首長が本気になって取り組んで初めてどうにかなる話だと認識しています。
自治体は組織で動いているように見えて、人で動いている
小田氏:もう1つ改善できるのは異動でしょうか。いま、だいたい2年おきくらいで異動があるんですが、正直、引き継ぎも民間のようにきちんとやらないから、担当が変わるとゼロクリアされてしまう。「ここ異動してきたばっかりでわかんないんですよ」って何百回も言われました。
また、やる気がある職員が異動して、やる気のない職員に担当が変わると、その時点でいままでの話が全部終わってしまう。例えば、民間企業が特定の事業や規制緩和をやっていこうと国や自治体に何年も働きかけて、いままで本当に一生懸命積み上げてきたものが、担当者が異動した瞬間に全部なかったことになる。これは国際的な競争力をも失う原因になるので、日本全体の損失なんです。
加藤:意外と自治体って組織ベースで動いているように見えて、実際に動かしている要因としては個人の力が大きいですよね。
小田氏:そうなんです。実はそこに誤解があって、そこに想いとやる気のある職員がいるかどうかで、政策の進捗度って大きく変わるんです。官僚も同じで、国も組織で動いているように見えて、人で動いている。
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※本インタビューは全7話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 漫画を通じて社会課題を楽しく知ってもらいたい
第2話 新年会の案内状が100通届く
第3話 自治体は組織で動いているように見えて、人で動いている
第4話 議員の「これは私がやりました」は、ほとんど嘘
第5話 「俺、予算書開いたことないよ」と言う議員が存在する
第6話 改革をしたい自治体の方、ご連絡ください