インタビュー

【中野区 酒井直人氏:第5話】区民にお得感がないといけない

酒井直人5

改善運動の実務を共有する組織を創設

加藤:K-NETというグループも作られました。これはどういうものでしょうか。

酒井氏:K-NETというのは、山形市の後藤好邦さんと尼崎市役所の吉田淳史さん、立石孝裕さんという方がいて、その4人で作りました。全国の自治体の改善を進めるための取り組みなんですよ。

 発端は2009年度に中野で、全国自治体の改善事例の発表会があり、その打ち上げの最中に設立の話が進みました。発足は2010年です。具体的な活動としてはメーリングリストを立ち上げて情報交換する。それと2011年から改善サミットというものを作って、第一回目を北上市で開催したんです。改善事例の発表会との違いは、改善サミットは改善運動の実務、やり方をみんなで共有しようというものでした。

 ただ、改善サミットも年1回なんですよ。せっかく改善のいろんな情報があるのに、それを蓄積していく仕組みがないとなったときに、現在、自治体改善マネジメント研究会の代表を務める元吉由紀子さんに相談しました。

 元吉さんは、中野のおもてなし運動の講演会に講師でいらしたんですよね。それで、「改善運動の改善方法が分からなくて困っている」と相談したことがきっかけです。そして、元吉さんと私とさいたま市の柳田香さん、所沢市の林誠さん、横浜市の鈴木一博さん、三重県の後田和也さん、福岡市の吉崎謙作さん。この7人で自治体改善マネジメント研究会を立ち上げたんです。

改善運動に困った人の力になる

加藤:具体的にはどのような活動をしていますか?

酒井氏:最初の3年間は試行錯誤しましたが、1冊本を出しました。「自治体経営を変える改善運動」(元吉由紀子編著。東洋経済新報社)です。また、今5年目になりますが、毎年受講生を自治体から募集して各自治体の事例を研究し、自分たちの組織の中で改善運動はうまくいっているのかいないのか、何がいけないのかというのをワークでずっと学んでいます。

 それ以外に、ステップアップセミナーというものを開催し、改善を深堀りしていくようなことを行っています。同時に、ホームページで全国の改善の情報をナレッジ化して蓄積し、提供していく。改善運動の進め方に困った人が具体例を見て、詳しく知りたいと思ったらそこに書いてあるところへ連絡すれば、すぐ話を聞けるようなものです。我々が昔改善を進めたときに、「こんなものがあったらいいな」と思ったものを提供していきたいです。

加藤:しっかりとお金をとって運営していることがすごいですよね。

官房系の職場には改善の余地がある

加藤:自治体の仕事の領域を見て、もっと改善出来そうな領域はどこだと思いますか?

酒井氏:私はそんなにたくさんの部署に行っているわけじゃないのですが、いわゆる官房系の職場ですね。例えば、人事が職員採用や育成も行っているわけだから、最も先を見て動かなきゃいけない部署だと思うんですよ。でも、そうなっていない自治体が多いと思います。生駒市とかはすごいですよね。ああいう採用をしたほうが絶対良いと思うんです。

加藤:具体的にはどういう人材を採用すべきだと思っていますか?

酒井氏:それは、地域の将来ビジョンを住民と共有して、一緒に汗をかいて共感する仲間と共にまちづくりに取り組む公務員ですね。私自身もそうなろうと思っています。

自ら動く職員を増やさなければいけない

酒井氏:地方自治体は自分たちで課題を解決していく力をつけていかなければいけなくて、「国から言われたからやります」とか言っていると、地域の課題はいつまで経っても解決されないと思います。

 現場にいる自治体が課題を見つけて自ら解決していくには、職員の能力を上げていかなきゃいけない。それは国から言われたことを忠実にこなす職員じゃなくて、自ら動く職員を増やさなければいけない。今少ないんですよ、そういう職員が。

区民にお得感がないといけない

加藤:なぜ、酒井さんはそれが出来ているんですか?

酒井氏:「役所で嫌われてまで、なんで改善するの?」とよく聞かれるんですよね(笑)。目の前で非効率のものがあったら、税金を預かっている身としては、単純に無駄使いしたらまずいと思うじゃないですか。それと同じ感覚で、区民からお金をいただいている以上、最大のパフォーマンスで応えたいと思いますよね。区民にお得感がないといけない。「こいつ、この給料でこんなに働いてくれたんだ」と思ってくれるのが本望かなと思いますね。

妥協してはいけない

加藤:日々意識していることはありますか?

酒井氏:役所ってどこか甘いんですよ。民間だと本当に頑張らないと会社が潰れたり、部署がなくなるというのは普通にあるじゃないですか。でも、役所は「ここら辺までやっときゃいいかな」というのが多いんですよ。「でもそれは違うでしょ」と思う訳です。

 私は今、地域包括ケアの仕事をやっているんですけど、例えば、住民の介護予防にしっかり取り組んでいただき、健康寿命を伸ばしていかなければならない。高齢者の増加だとか、社会保障がどうなるのとか、将来見えている課題がそこにあるんです。それを解消するために「しょせんこの程度」という向き合い方はないと思うんですよね。自分が妥協すると住民が損するんだなとか、税金無駄使いしちゃうんだなとか、非効率になっちゃうかなとか思うと、「しょせんこの程度」と妥協するのはだめだと思うんです。ついつい課題から目を逸らしたくなるんですけど(笑)、常に自分にも言い聞かせています。

公務員は不作為病にかかっている

酒井氏:そもそも、公務員っていうのは不作為病にかかっていると思っています。確かに何かをやって失敗したら叩かれるんです。でも、本当はやらないことによる損害がものすごく大きい。目の前に課題があるのに後回しにする。その不作為によって実は損害が大きくなっていく。そんなのがやたら多いんですよ。

 広報にいたときに強く思ったことがあって、広報は引き算ではなくて足し算の職場なんですよ。例えば、一生懸命発信して「新聞社の何社に取り上げられました」っていったらみんな評価してくれる。でも発信しなければ、ただ何も起きないだけ。だから、不作為であっても済んでしまう。広報担当には、常に外からたくさんの情報が入ってきます。ちょっと忙しいからとそれらの情報を逃すと、結果的に大きな損失を生じることになります。だから当時思ったのが、とにかく不作為だけは止めようと。

※本インタビューは全6話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

 

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