(文=金治 諒子)
数百人もの公務員が一堂に会するイベントをご存知だろうか。総務省官僚である脇雅昭氏を代表とする、『よんなな会』だ。
【よんなな会】
47都道府県の地方公務員と中央省庁で働く官僚をつなげることで、日本全体を有機的につなげることを目的とした会。
「著名なスピーカーによる講演」と、「参加者同士の交流会」の二つのコンテンツをセットにして実現しており、関東ではこれまで12回開催、一度に800人以上の公務員が集まった実績もある。
1月27日(日)にこの『よんなな会』が、大阪工業大学梅田キャンパスで開催された。関西初のよんなな会の開催にも関わらず、400人の公務員と100人の学生が一堂に会し盛況を博した。
いま最も勢いのある若手首長、四條畷市・東市長をファシリテーターとしたパネルディスカッション、『若手首長セッション』が開催され、京都府与謝野町・山添藤真町長、北海道江差町・照井誉之介町長、奈良県三宅町・森田浩司町長、新潟県津南町・桑原悠町長が登壇した。
世間では「お役所仕事」「ぬるい」とバッシングされることも多く、地域では身を潜めている公務員だが、そのイメージはすでに過去のものとなりつつあるのかもしれない。筆者がそう感じた会場の熱気を文字に乗せて、皆様にお届けしたいと思う。若手首長は会場の500人にどんなメッセージを伝えたのか。そして、公務員はどんなメッセージを受け取ったのだろうか。
四條畷市・東修平市長(ファシリテーター)
大阪府四條畷市生まれ。大阪府立四條畷高校、京都大学工学部を卒業し、同大学大学院工学研究科を修了。専攻は原子核工学。2014年に外務省に入省し、環太平洋経済連携協定(TPP)をはじめ、貿易協定の交渉に関する業務に従事したのち、野村総合研究所インドにて、自動車業界のグローバル事業戦略・経営戦略の策定を支援。2017年に四條畷市長に初当選。全国で最年少の現役市長となる。
京都府与謝野町・山添藤真町長
京都府生まれ。京都府立宮津高校を卒業し、2008年にフランス国立社会科学高等研究院パリ校2年次修了。2010年に与謝野町議会議員に初当選し、2014年から与謝野町長となる。現在2期目。
北海道江差町・照井誉之介町長
東京都目黒区出身。私立明治学院高等学校を卒業し、2008年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業。同年4月、北海道新聞社に就職。2009年から2012年までの3年間、江差支局に勤務した。2014年に北海道新聞社を退社し、江差町長選挙への出馬を表明。当時29歳で最年少首長として初当選。
奈良県三宅町・森田浩司町長
奈良県磯城郡生まれ。奈良県立上牧高校を卒業し、大阪商業大学を卒業。三宅町議会議員を経て、2016年に三宅町長選挙に初当選。町を二分する選挙を制し、当時の現職を大差で破り県内最年少町長となった。
新潟県津南町・桑原悠町長
新潟県津南町生まれ。新潟県立国際情報高校卒業後、早稲田大学社会科学部に入学。在学中に、1年間米国オレゴン大学に単位交換留学を経験。2009年、東京大学公共政策大学院入学。2011年、長野県北部地震を機に津南町議会議員選挙に初当選。2018年に津南町長に初当選。
若手首長はふわふわしている?!
東修平氏(以下、東氏):僕を含めて、若手首長はどうしても「楽しいことばかりやっているんじゃないか」とふわふわした印象で捉えられることもありますが、今日はまず、なぜまちを変えていきたいのか、より良くしていきたいのか、根底にある熱い想いの根源を、それぞれの町長からお話いただければと思います。
山添藤真氏(以下、山添氏):その問いに対しては、10年ほど前の町議会議員選挙が思い出されました。当時、私の目の前に映ったまちの風景は、どこか挑戦的ではない、どこか閉塞感がある雰囲気でした。そうした閉塞感を打破するためには、「若い私たちが挑戦的である姿勢」が、一つのきっかけになるのではないか、と考えました。その想いから、政治の道に自分の役割を見出していったと思います。以後、住民の皆様の共感を通じて、そのチャレンジングな機運が少しずつ広がりつつあるのではないか、と感じています。
東氏:いま皆様が感じられたことを代弁させていただきますと、山添町長、めちゃめちゃスタイリッシュですよね(笑)。
会場:(笑)。
東氏:僕も初めてお会いしたときビックリしたんですよね(笑)。町長とお会いすると思っていたのに、最初出てこられたときは「ものすごい秘書の方が現れたなぁ」と思いました(笑)。
こんなスタイリッシュな町長はなかなかいらっしゃらないですが、「挑戦するという想いをまち中に伝播する。それによってまちを変えていく。」という、とても熱い想いをお持ちですね。ありがとうございます。
それでは次に、照井町長お願いします。
照井誉之介氏(以下、照井氏):私は、今日登壇された町長とは一つ違う点がありまして、江差町の出身でも、北海道の出身でもありません。新聞記者をやっていて、就職で北海道に行ったのがきっかけでした。その中で、江差町というまちに3年間住んで、新聞記者をやりました。
着任して最初の1週目に、ある男子中学生と出会いました。彼に、「将来どんな職業に就きたいの?」と問いかけたところ、具体的な職業についての返答はありませんでした。ただ、「江差で働きたいんです。」と、その中学生は言いました。私が生まれ育った東京に、そういう魅力はあったのかなぁ、と。ふるさとを想う気持ちは、どうして生まれたんだろうか、とその時疑問に思いました。この子どもが成長し、地域社会の中で生涯を全うできる地域でありたい、そういう地域になれるよう後押しする記事を書きたいと思って、新聞記者として3年間過ごしました。私が思い描いた『ふるさと』、まさにその姿が江差町にありました。少しでも人口減少や少子高齢化を食い止める施策をうっていかないといけない。小さなまちですが、決して日本全体のお荷物ではないと思っています。
例えば食物自給率は100%を超えていますし、自然エネルギーによる自給率も風力発電により100%を超えています。また、育った子ども達が都市部に行って活躍する、人材を派遣するという役割もあります。そういう意味合いからも、東京一極集中により地方が衰退すると、日本全体がダメになる。江差町がダメになれば、日本全体がダメになる、と思っています。そういう想いの中で、江差町を変えていく、人口が減っても、持続可能な地域を作っていくことに、私の人生を掛けていきたいと思っています。
私は最大の移住者だと自分で思っているので、地方から日本全体を考える取り組みができればと思っています。
会場:(拍手)。
東氏:「移住」というのは地方創生でもよく言われることですが、「移住して町長をやる」という選択肢がここにありますね。ご自身で言いづらいと思うので補足を加えると、3年間、江差町で新聞記者をされた後、他の地域に赴任されたそうですが、町長選挙の前に地元の方から「照井さんに出て欲しい」と言われたそうです。そのくらい、たった3年間でまちの人たちを引き付ける熱意を持っていたんでしょうね。
それでは次に、森田町長お願いします。
森田浩司氏(以下、森田氏):私は、町長選挙の1年前に町会議員の選挙に立候補したのですが、「自分の感覚とずれたところで物事が勝手に決まっていく」と議会や行政に感じたことがきっかけでした。外で文句を言うのは簡単ですが、決めている方々は、リスクをとって立候補しているわけですよね。自分もリスクをとって、「自分はこう思う」と同じ立場に立って発言したい、と思いました。議員をやりながら多くの疑問を行政にぶつけてきたのですが、1年後の町長選挙の時に対抗馬がおらず、現職による無投票選挙になりそうだったんです。そんな時、まちを歩いていたら、住民の方から「出てくれ」と泣きながら言われまして、住民の皆様と一緒にまちづくりをしていきたい、という想いが固まりました。いまもこの想いで取り組んでいます。
会場:(拍手)。
東氏:「まちをより良くしていかなければならない」という、圧倒的当事者意識ですね。他に誰もいないなら、自分がいくしかない。それを周りからも泣いてお願いされる状況というのは、おそらく森田町長が姿勢を見せ続けていらっしゃったのだろうと思います。
それでは、桑原町長、お願いします。
桑原悠氏(以下、桑原氏):だんだん目が慣れてきまして、後ろの方が見えるようになりました。老若男女ご参加いただきありがとうございます。
会場:(笑)。
桑原氏:今日は私服で来てくれと言われて、着任以来毎日スーツだったので、何を着てくればいいか迷いながらきました。
私のまちは、冬は雪が3メートルほど降る、日本でも1、2位を争うような豪雪地帯です。高齢化率も40%を超えています。住むのには厳しい環境ですが、そのまちで、医療や教育を当たり前のように受けられる環境にしないといけない、という執念があります。また津南町の景観は、「本当にここに住んでよかった」と心を動かされるほどの素晴らしい景色です。それを多くの人に伝えていきたいなぁという想いで、7年前に町議会選挙に立候補しました。町議会議員を勤める間に、結婚、出産を経て、現在は4歳と2歳の子どもがいます。子育てを通して、子ども達が大人になったときにもっと良いまちにしたい!という、親としての想いが強くなったことから、町長選挙に挑戦しました。厳しい選挙でしたが、まちの人からの「閉塞感を変えて欲しい」と支援いただき、なんとか当選することができ就任半年です。
東氏:ありがとうございます。感じてくださった方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、皆様、言葉の端々に、「あたたかい支えがあって」とか「変えてくれという願いがあって」なんとか当選できました、と仰っておられますが、僕は逆だと思っています。きっと皆様その前に、「自分がこのまちを良くするんだ」という圧倒的に熱い想いがあって、結果的に周りの方々が応援してくださったんだと思うんですよね。
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・月額500円から、地方公務員や地方自治体を支援することが可能です
※本セッションは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 いま、地方から起こせる変革とは
第2話 まちの変革のためには「寛容さ」が重要
第3話 住民の顔が見えるまちだから、東京にはできないことを目指す
第4話 1億円の範囲なら失敗しても大丈夫
第5話 公務員のさまざまな個性が組織力につながる