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石破茂

HOLG編集室

石破茂氏と総務省官僚の脇雅昭氏が地方創生を語る(前編)

 6月9日(水)に早稲田大学が主宰する大隈塾[正式名:たくましい知性を鍛える]の授業の一環として、地方創生をテーマに石破茂前地方創生担当大臣と、総務省から神奈川県庁に出向している脇雅昭氏が講義を行ない、早稲田大学の学生を中心として約100名の講義生が集った。
 大隈塾は早稲田大学が2002年に開講した、リーダーを輩出するためのプログラムである。もともとは政治家が中心となって講義をするイメージが強いものであったが、最近では政治家のみならず、経済界その他、さまざまなその道の練達の士に講演をしてもらうことで、学生が多様な考え方を身に付けるためのプログラムに、変わりつつあるように思えた。
 実際に、今年度からカリキュラムを衣替えした大隈塾の狙いには『地方から日本と世界を変える』というコンセプトがあるようだ。

人口減少の実態と課題

 「日本はこれから恐ろしく人口が減少していくというのは明白です。今は1億2700万人いますが、このまま西暦2100年を迎えると、日本は5200万人になる。200年経つと1391万人になり、300年経つと423万人になる。2000年経つと4000人になる。3000年経つと1000人になって、やがてこの国はなくなる」

 石破氏の大隈塾における5時限目の講義は、上記のような極めてショッキングな出だしとなり、学生たちの緊張をいやがうえにも増す。

 「日本人が5000万人を超えたのは明治の終り頃で、その頃に戻るだけではないか、という考えもあるがそれは全然違う。明治の終りの5000万人というのは若い人が多くて、だんだん歳をとるにつれて人口が少なくなるという、正三角形みたいな5000万人だったんですね。これからの5000万人というのは、逆三角形とは言わないけれど、若い人が少なくて、歳が上の人が多いという5000万人ですから、中身は全然違うのです。そうなった時に社会保障や財政をどうやって維持をして行くのか、ということを今考えないでどうするのか」

 人口ピラミッドについて言及した後に、『地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減』の著者である増田寛也氏の見解を取り上げ、女性の人口分布、出産、結婚へと統計解析を織り交ぜながら論を進める。

 「赤ちゃんがいっぱい生まれる地方から、ダントツ生まれない東京にドンと人が来るので、縮小再生産が起こるのは当たり前のことですよね。このままいくと日本は人口が減っていくし、高齢化が進みますね。
 食料を作って、エネルギーを作って、赤ちゃんがいっぱい生まれる地方が滅んで、食料も作らず、エネルギーも作らず、出生率最低の東京だけが残る日本というのは、国家として成り立つだろうかな、と私は思っています」

 と、厳しい現状に触れる。

地方創生が失敗すると 国全体が潰れる

 「歴代政府は地方の振興をずっと図ってきたが、これに失敗したら国が潰れるという危機感はなかった。私は今の地方創生というプロジェクトが失敗すると、本当に国全体が潰れる、だから、これに失敗するわけには絶対にいかないと思っている」

 という認識のもと石破氏から強い意思が発せられた。そして、数々の成功事例と課題を列挙しながら講義は進む。

 「ベルサイユ宮殿は一般に開放されます。お金を払うとシャンパン会社やワイン会社等が晩餐会を開くことができます。ディナーの一番最後を飾るデザート、そのお皿は土岐市の焼物屋さんのお皿でした。そのジャパンブルーの綺麗なお皿の裏側に、Diorと書いただけで5倍の値段で売れるので、そういうものは伸ばしていきたいと思いますが、同じものを安く沢山、大勢の人で作る訳ではないから、それで雇用と所得を地方に取り戻すのは、かなり難しいと言わざるを得ない」

農業 漁業 林業は目一杯伸ばしていける余地がある

 成功事例をあげた中にも、それが雇用や所得を取り戻す政策に大きく繋がらないケースがあることを示す。その一方で、これからの地方創生を考える際に、日本の農業、漁業、林業にはまだまだ伸ばしていける余地があり、多くの地方にはその資源があると訴えた。

 「じゃあどうするのかというと、ポテンシャルを目一杯伸ばしてこなかった産業ってありゃしませんか。日本ほど農業、漁業、林業に向いた国は世界にない。農業というのは土と光と、水と温度の産業なので、日本ほど四つの条件をすべて具備した国は、世界中にそんなにあるものではありません。これって伸ばす余地がありゃしませんか。農業、漁業、林業は目一杯伸ばしていける余地があるもので、それは地方にしかないものです」

 続いて、観光の可能性に話が及ぶ。

 「観光って何で決まるかというと、春夏秋冬の四季がはっきりしていて、自然が豊かで美しくて、歴史・伝統・芸能・文化・芸術が奥深くて、食べ物と酒が美味しい、この4つで決まるそうです。日本ってこの全てを持っていませんか。どこの町でもどこの村でも持っていませんか」

町をどうやって伸ばすかは そこの町でないとわからない

 講義は終盤を迎えつつある。石破氏は地方創生大臣として、実際に現地へ赴く中で自らが感じたことを学生に伝えていく。
石破茂2

 「ローカル経済を伸ばすには、それぞれの市町村で考えないとわからない。地方創生担当大臣をやってみて、今まで自分が『そもそも日本が』、『そもそも北海道が』、『そもそも九州が』と言っていたことが、いかに無意味なことであったのか気がついて愕然としました。
 北海道だけでも179の市町村があって、稚内と網走と帯広と根室は全然違う。そこの町をどうやって伸ばすかは、そこの町でないとわからない。そんなことは霞ヶ関でわかるわけがない」

 石破氏は50分の講義の最後を、次の言葉で締めた。この言葉には揺るぎない信念が籠っていたように見えた。

 「この国を何とか次の時代に残すのは、今の時代を生きている我々の責任なのであって、それぞれの町、それぞれの村がどんな町であり、どんな村であるべきか考えていく必要がある。しかし、考えるだけではなく、それを実行し検証していく必要がある。
 地方創生の営みとはそういうことで、東京と地方、東京の負荷を減らすために、地方は何ができるのか。地方を発展させるために、東京は何ができるのか。お互いにそれを考えて行かないと、この国に未来なんかありはしません。私たちは、自由で平和で豊かなこの日本を、次の時代に残したいと思っています。
 横文字を使えばサスティナブル(維持可能)な、インディペンデントな(自立した)国を創りたいと思っています。その国が創れるか、創れないかはまさしく国民の意識にかかっているのであって、政治家だけに頼ってはいけません。国民がどういう国を創るか、その意思表示をするのが、それこそ主権者の責務というものなのでしょう。この国に国家主権はあるのかということです。国民主権はあるのかということです。
 どういう国を創りたいのか、それは皆さん方が考えることだし、私たちはその議論を正面からしていって、そして、良い国を次の時代に残したいと思っています」

 国民主権という言葉が重い。我々は主権者として、正しくその権利と責務を果たせているのだろうかと自問せざるを得ない。
後編に続く
※後編は明日更新します

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加藤年紀(かとうとしき)
株式会社ホルグ代表取締役社長。株式会社ネクスト(東証一部:2120 ※現「株式会社LIFULL」)に2007年4月に新卒入社し、営業グループマネージャー、WEBプロモーションにおけるグループマネージャーなどを経て、2012年5月に同社インドネシア子会社『PT.LIFULL MEDIA INDONESIA』の最高執行責任者(COO)/取締役として出向。子会社の立ち上げを行い、以降4年半ジャカルタに駐在。2016年9月に同社退社後に、株式会社ホルグを設立。

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