石破氏に続いて、総務省官僚で現在神奈川県庁に出向している脇雅昭氏が6時限目を担当した。
脇氏は講義の初めにあたり、このようにコメントした。
「商店街が疲弊して行く過去体験」「観光客の動きやニーズを把握しながらの戦略」「公と民の差異と共存」「民泊法案通過にともなう利害関係者の立ち位置」等々、小気味よい講義が続く。
コミュニティを再構築しなければならない
地方創生というと、国が施策としてやっている、国からのアプローチというところがすごく取り上げられるんですけど、実は、民間の人たちや、個人の力をどれだけ発揮できるか、そのための仕掛けをどう作るかというのが、すごく大事なことなんじゃないかなというのを、やりながら感じています。
行政としてもコミュニティがあると助かるんです。なぜかというと、本来、自助、共助、互助、公助とかがある。自分でできることは自分でやりましょう。コミュニティでできることはコミュニティでやりましょう。だけど、「コミュニティでできないことは、公がやらなければいけない」という世界でやっていかないと、これから立ちいかない。
そうしないと、何か困ったら「これは市町村がやるべきだ」、「県がやるべきだ」、「国がやるべきだ」となるわけですよ。それに一定の歯止めを掛けるという意味でも、また、個人にとってみても、共助、互助という世界が機能していた方が、困った時の素早い対応が可能になるので、もう一回コミュニティができる仕組みを作らなければいけないな、と思っています
だからこそ、僕はこうやって皆と出会ってここにいる訳ですけれども。そういったものというのをもっと生かしながらやれるような、志が集まれるような組織体、カチカチでない今の時代だからこそできる、志を集めた『にゅるっとした組織体』を創って行きたいと思っています
脇氏は講義の中で『デコボコの日本』という表現を使っているのだが、これは石破氏の「全国の市町村は全く違う」という視点と同様であろう。次の総理候補と目される石破氏と、スーパー官僚と呼ばれる脇氏が、同じ認識を持っていたことについては率直に安堵し、そして同時に、頼もしく感じた。
その地方に存在する人々に 力を発揮してもらう必要がある
「町をどうやって伸ばすかは、そこの町でないとわからない」という石破氏の考え。この延長線上に話を進めると、地方はその地方に存在するさまざまな人々に、力を発揮してもらう必要があるのではないかと思う。
もちろん、外から移住して来てもらうという手段もある。しかし、仮に全国で移住者を取り合ったとしたら、優秀な人材を確保することのできない地域もあるだろうし、確保を進めるにあたり、時間や手間、そしてコストもかかる。このコストは呼び込むコストだけではなく、地域に定着してもらうコストも存在する。
移住を促進するうえでも、ビジョンやポリシーがあるべきだと私は思う。人々の夢や希望を叶えるような、まさに、『生き方を提示できる移住』というものであれば良いのかもしれないが、安易に厚遇することで、移住者を呼び込む競争が、悪戯に激化することは危険だとも思う。
一時期、返礼品が過熱した『ふるさと納税』と同じく、地方間の身を削る競争が全国的に生じ、地方にとっての個別最適が、日本にとっての全体最適とならないリスクもあるからだ。
地方公務員は『人』と『人』を繋ぎ 実行ができる立場にある
やはり、即効性と実現性を考えると、既に地域に存在している「産官学金労言」の人々の『連携』を、より一層促進することが望ましいのではないかと私は思う。なぜなら、その連携によって、既に、地方が抱えている資産ともいえる、人的資源の力を限りなく引き出すことができるからだ。
そこで思うことが、『人』と『人』を結びつける役割において、社会的な信用を持つ地方自治体や地方公務員こそが、力を発揮できるのではないかということだ。地方自治体の役割は、ただ計画を策定するだけでなく、実行と結果が求められる。その実行のフェーズにおいては、行政の枠を超え、国の最少単位である多様な能力を保持する『人』と『人』を結びつけることが、大きな成果と価値を生むのだと思う。その役割は民間よりも公(おおやけ)である地方自治体に軸足を置く、地方公務員にこそ期待できるのではないだろうか。
総務省から神奈川県庁に出向しているため、幾分かの違いはあれこそ、公務員である脇氏が自身の活動を通じて、独自にコミュニティを構築していることは、そのひとつの証左ではなかろうか。
本当に議論の場が必要なのは 学生よりも大人なのかもしれない
この講義の中で、他の参加者と意見交換をするワークショップがあった。学生たちが石破氏、脇氏の講義をもとに、時間の許す限り「地方創生において何が課題なのか」、「学生である自分たちに何ができるのか」ということを議論、発表した。
学生にとって、政治行政のまさにど真ん中で活躍する人物に直接出会い、質問をし、周りの学生とフラットに語ることができる場を持つことができたことは、とても貴重であったと思う。
政治、宗教、さらには野球の話すらもしてはいけない、と言われる日本。特に、政治の話については、特定のイデオロギーや、それに類する何かを恐れ、議論すること自体がタブーとなりがちだ。そういった中で、この日、学生がニュートラルな立場で議論のできる場が設けられていたことは素晴らしいことだ。
大隈塾は今年から学生が主体的に運営をし、事前準備や当日の司会なども学生が行なっていた。本講義をリーダーとしてまとめ、当日、司会も務めた早稲田大学社会科学部4年生の田中渉悟さんは「会の運営について反省もあるが、自分たち学生には何ができるのかを考えるヒントになったのであれば、これ以上の喜びはないです」、「これを機に、今日関わった皆さんと一緒に何かを生み出したい、一過性のイベントにはしたくないと感じました」と述べていた。
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株式会社ホルグ代表取締役社長。株式会社ネクスト(東証一部:2120 ※現「株式会社LIFULL」)に2007年4月に新卒入社し、営業グループマネージャー、WEBプロモーションにおけるグループマネージャーなどを経て、2012年5月に同社インドネシア子会社『PT.LIFULL MEDIA INDONESIA』の最高執行責任者(COO)/取締役として出向。子会社の立ち上げを行い、以降4年半ジャカルタに駐在。2016年9月に同社退社後に、株式会社ホルグを設立。
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