民間企業で14年間、営業、マーケティング等を担当。流山市のまちを売り込むための任期付職員公募に応募し、前例のない自治体マーケティングの道に入る。首都圏を中心に話題となった「母になるなら、流山市。」広告展開や、母の自己実現を応援する「そのママでいこうproject」、年間14万人を集客する「森のマルシェ」の企画・運営などを手掛ける。
講演、執筆ほかTV、ラジオ、雑誌等メディア出演多数。
-「母になるなら、流山市。」、シティプロモーションに関わる自治体職員ならば、このコピーを知らない者は存在しないと言えるほど、多くの自治体へ強い影響を及ぼした。電力会社から流山市役所に転職し、約10年に渡り広報官として従事し、自治体のシティプロモーションの礎を築いた河尻和佳子氏に、今までの活動から、シティプロモーションのあり方、民間企業からの転職などについてお聞きした。
加藤:現在の部署の役割と、広報官としてのお仕事を教えていただいてもいいですか。
河尻氏:市長が主導して、2004年にマーケティング課ができました。今後、急速に少子高齢化が進行すること、そして、つくばエクスプレス開業に伴う区画整理事業が売れ残ると、市の財政を逼迫するというリスクを抱えていました。
自治体間競争というのは、肯定的な面と、否定的な見方があるものの、競争が始まっていく時にマーケティングという視点を持って、流山市の知名度やイメージを高めないといけなかったんです。
もともと、流山の知名度は全国的にみて正直ほとんどゼロみたいな自治体でしたし、住宅都市なので何か観光資源があるわけでも産品があるわけでもない。だからこそ、住んでいただくには知名度とイメージが重要になる。その基本的なミッションが今も変わらずマーケティング課の役割です。
市長は「税金をお預かりして市民にサービスを提供する自治体には、一定の経営視点が必要」と話をしているんです。NPOなどにも経営視点が存在するのに、自治体には経営の視点やマーケティングの視点があまりないですよね。
主語は市であるべきではない
加藤:「母になるなら、流山市。」がすごく広まりました。あのコピーはどういう経緯で生まれたんですか。
河尻氏:2009年に首都圏向けに交通広告を出すこととなり、翌年からそのコピーが使われて今も継続しています。
交通広告の枠は代理店さんじゃないととれないので、委託をしてコピーを提案してもらいましたが、そのコピーはどれも市を主語にしていたんです。自治体のPRって大体そうですよね。でも、そのまちに興味がない人が『○○がすごい流山市』と聞いても、別にどうでもいいじゃないですか(笑)。
市長もコピーには相当こだわりがあり、「今までにない新しい視点でコピーを考えて欲しい」と言って出し直してもらいました。その後、50個ぐらい候補が出てきて、「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」に決まりました。
お母さんたちには自分みたいになってほしくない
河尻氏:よく「母になるなら…」が、「子育てするなら…」と読みかえられるんですが、それは違うと思っているんです。「子育てするなら…」にしなかったのはこだわりがあって、母だからって子育てだけしなきゃいけないわけじゃない。子育てしながら自分の夢や実現させたい事をやっていただきたいというメッセージを込めています。
これは、自分の体験でも感じたことでした。私は2人の子どもがいるんですけど、子どもが小さい時は、勝手に理想の母のイメージにがんじがらめになって、子どもに100%自分の時間と愛情を使わなきゃいけないと思い込んでいました。
何もかも背負い込んで、子どもと家に引きこもり、本当に子育てが楽しくなかった時があって、自分のためにも子どものためにももっと自由に行動しても良かったと後悔しているんです。一度しかない子育て時期に自分みたいに息苦しい育児をしてほしくないので、このメッセージを発信することで届く人がいればいいと思っています。
子育て世帯向けの施策は市民全体に好影響を与える
加藤:今までにないタイプのコピーについては、役所の中ですんなりと通ったのでしょうか。
河尻氏:これはプロモーションのためのコピーなので通りました。ただ、「母になるなら、流山市。」と言うと、「子どもを生まない人は要らないのか」と言われるリスクは想定しました。プロモーションは対象を絞ることで活きてくるものですが、もちろん、実際は市民を選ぶわけではありません。
たまに、市長が作った課で話が通しやすくて良いね、と言われることがあるんですけど、決裁フローは普通に積み上げていかなきゃいけないので、通らない時も結構あります。
加藤:その状況でもキャッチコピーが採用された理由はどこにあったのでしょうか?
河尻氏:マーケティング課ができて既に5年ぐらい経っていたので、理解される素地があったんだと思います。
流山市は最重要施策が子育て世帯向けの施策と言っていますが、それは最終的に市民サービス全体を維持するためだ、と地道に市民の方々へ説明するようにしています。まちの活力を失わないために選択している手段だということです。ぶれないで伝え続けるのが非常に大事で、愚直に粘り強く話していくことによって市民の方々の理解が進んでいくことは、身をもって体験しました。
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※本インタビューは全7話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 「母になるなら流山市。」に込めた想い
第2話 市民協働は市民へのリターンを意識する
第3話 行政が場所を用意すればママの夢も叶う
第4話 港区の人を流山に移住させることはできない
第5話 隣のまちの人口減少を喜ぶのはナンセンス
第6話 役所に染まっているようで染まっていないスタンス
第7話 私は流山市。任期付職員として2度採用10年目を迎え