“未来を作るために いまを頑張れる人”を尊敬
加藤:これまで関わった公務員の方で、尊敬する方はいらっしゃいますか。
石塚氏:たくさんいますが、あえて言うなら、今のボス(林琢己横浜市経済局長)ですね。私が金沢区にいた当時の金沢区長で、私に『育なび』をやれと言ってくれた人です。
10年にひとりくらい「ICTのことは全然わからないけど、それがとても必要なことだというのは分かる。」って言える方に出会うんですけど、局長はまさにそういう方で、それっていままで経験や実績を重ねていないと言えないことですよね。ぶっちゃけ私が同じ立場だったら言えないかもって思いますし。(笑)
それ以外にも、区役所が自律性を持って活動できるように、区の独自予算や環境などの下地を作られたり、目先のことだけじゃなくて未来を作るためにいまを頑張れる人は、すごく尊敬します。
横浜が末永く続いていくために できることをしたい
加藤:それは、ご自身が理想とする公務員像でもあるのでしょうか?
石塚氏:そうありたいですね。子育てとか家事とかも含めてやらなきゃいけない目の前のことに忙殺されてしまいがちですけど、横浜市が50年とか100年って続いていくため、常に何をすべきか考える必要がある。
これまで横浜のために尽力してきた方や、実際に行動した方はすごく尊敬できますし、自分自身もそうありたいと思いますね。そして、それを良い形で若手に引き継いでいきたいとも思います。
横浜というまちをリスペクトしている
加藤:お仕事はいつまで続けるのか決めていますか?
石塚氏:市役所の中に自分のやれることがあるうちは頑張ろうかな、と思っています。これからオープンデータやSociety5.0などが本格化していく中で、ITでもっとやれることがあるんじゃないかとも思っています。
横浜が開港して150年。戦争とか占領とか急激な人口増とか、いろいろなことがありつつ、みなとみらいには大勢の方が訪れて憩いの場になっていたり、横浜が住みたいと思われる街になっていたりしていますよね。私自身、そういう横浜という地をリスペクトしています。
加藤:それが、横浜市役所の採用試験を受ける理由だったのでしょうか?
石塚氏:そうですね。もともと横浜以外の場所で働くことは考えてなかったですし、「横浜のために働くんだったら、横浜市役所でしょ!」という至極単純な理由です。
お金をもらって理想を追いかけられる
加藤:横浜市役所で働いている醍醐味はなんですか。
石塚氏:日本最大の政令指定都市なので何かをやれた時のインパクトが大きいですよね。『育なび』もそうですけど、発信力や都市のバリューがあるので、すごく広がりを持って受け取ってもらえます。
あとは、市役所の仕事はマクロに見る仕事が多いので、いまがどうかというより最終的にどういう形にしたら良いかということが考えられる。「お金をもらって理想を追いかけられる」、そういうところが醍醐味だと思います。
民間企業だと、将来の理想より目先の利益を追わないといけない時もありますよね。でも、行政は目先の利益みたいな指標がない分、本当に“どうあるべきか”を考え抜かなければいけない。
横浜を市民力のあるまちにしたい
加藤:人生でやりとげたいことはありますか?
石塚氏:横浜を「市民力と創発のある街」にしたいですね。
2009年に市民創発を掲げてイベントやった時には、最初に300人の市民が集まって、最終的には数万人が関わったんです。Y150自体はちょっと色々あって残念な評価になってしまったんですが、「創発メンバー」が創り出したその場所は、間違いなく市民自身の手により作り出した素敵な空間でした。
力のある市民が横浜にはたくさんいるので、そういう人たちが想像力を発揮して、つながりを持って次々に面白いことが生まれていくまちになってくれたら良いですね。
面白いと思っていない土地のためには何もできない
加藤:そのために自治体職員は、どういった後押しができそうですか。
石塚氏:自分自身が街を“面白がる”ことだと思います。常に自分の街を好奇心の対象として見ることで新しい発見もありますし、面白いと思っていない土地のためには何もできないですよね。
私自身、自主勉強会「よこはまYYラボ」や「Code for YOKOHAMA」というサードプレイスを持ち、庁内の仲間達や民間のエンジニアと面白いと思ったことを実際に形にしたり、発信したりしています。
行政職員としては多少覚悟のいることです。でも、つながることでしか開けない道もあると思っています。色々な人とまちを良くしていきたいという意識を共有し、お互いに学ぶ経験を通じて、横浜の未来が少しでもより良いものになれば最高です。
編集後記
石塚氏とお話をして、強い信念と寛容な心が強く印象に残った。舌鋒の鋭さがあってもそれが許されているのは、横浜市役所において残してきた実績による信頼があるからではなかろうか。
本インタビューの後半に、石塚氏の横浜という地への愛が多分に伝わってきたが、私も横浜で生まれ育った。もちろん、私自身も横浜が好きなのであるが、横浜で育ったから好きなのか、横浜が素晴らしいから好きなのか、正直、その境はいまとなってはわからない。多かれ少なかれ自分のルーツである地域に、ある種のノスタルジーを感じることは多くの人が否定はしないだろう。 最近、自治体財政の話をHOLGで扱うことが増えた。様々な制約の中で自治体は、このノスタルジーと財政を天秤にかけなければいけない時代となり、残酷だなと思うこともあるし、大いなる努力の果てに、そのふたつを出来る限り並立可能な解決策を模索する有能な公務員が全国にいる。
一方で、横浜は相対的にまだまだ恵まれた地であることは間違いない。だからこそ、今のうちに先を見据えて、様々な下地を作っておくことが重要なのだろう。おそらく石塚氏は横浜市の長所短所を熟知した上で、地域のつながりを作り、それを資産として蓄積しようとしているのだ。
石塚氏が役所の外に出て、市民とつながることがその下地となる。そうやって、様々な力や知恵を巻き込みながら、いずれ大きな力になっていくに違いない。世の中はそれぞれの持ち場を良くしようとする局地戦の積み重ねで、少しずつ改善されていくのだ。
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※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 市民のステージに合った子育て情報を届ける
第2話 行政が率先してデータを出すべき
第3話 インターネット? 何それ、おいしいの?
第4話 「正しいことを言えば正しく伝わる」わけではない
第5話 面白いと思っていない土地のためには何もできない