1997年一橋大学法学部卒業後、環境省に入省。2002年に米国に留学し、行政経営学修士、教養学修士(国際政治)を取得。帰国後は、NPO法人プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)を設立し副代表理事に就任。また、環境省を変える若手職員の会を設立し代表に就任、業務外の活動として勉強会の開催などを行った。2011年環境省を退官し、公募で生駒市副市長に就任。その後2015年生駒市長選挙で初当選し、職員の採用改革や残業削減を実施し、大きな成果を上げている。執筆など多数。
―国家公務員と市長、国と地方両方の立場を経験している数少ない人物が小紫市長である。市長が生駒に来てからさまざまな実績が生まれているが、特に、採用改革や残業削減などの実績は目を見張るものがある。
今回、前半部分では人事領域に関する大きな実績と、人材活用への手法について伺った。さらに、後半では人材活用の延長線上に見える『理想とすべき市町村の姿』についても語っていただいた。
これまでと同じ人材をずっと採用しているのはおかしい
加藤:2013年度から人材採用の改革を進められ、生駒市役所の採用試験の受験者数が約4倍になりました。どういう想いでここに取り組まれたのでしょうか。
小紫市長:国家公務員を辞めて、公募を通じて2011年に副市長、その後2015年に市長になりました。生駒市の取り組みを学ぶ中で、市町村があまりにも採用をないがしろにしていることに大きな衝撃を受けました。
世の中では地方分権とか地方創生という言葉が飛び交って、「これからは地方がもっと頑張るんだ」なんて言っている割に、びっくりするほど採用をさぼっているんです。
そもそも、市町村職員は地元で働くことができて、比較的安定した仕事でもあるので、告知さえすれば、それなりの受験者数は集まるんですよ。それで、全然危機感がないんだろうと思います。
でも、この激動の時代の中で、今まで通りのやり方で、今まで通りの人材を採用しているのはおかしいのではないかという疑問がありました。
採用改革を成功させた3つの施策
加藤:具体的には、採用フローをどのように変更されたのでしょうか?
小紫市長:副市長に着任してすぐ、本気で人材を採りに行こうと大きく舵をきって、PRに力をいれたことが一つ目です。ポスターや動画作成、大学や予備校での採用説明会にも力を入れました。やはり我々自身や我々の仕事を知ってもらわないと話にならないですから。
2つ目は、従来型の「公務員試験」を廃止しSPIにして、面接回数を増やしました。世界史・日本史などの一般教養試験があるがゆえに、公務員試験対策をしている人しか受験しないんです。公務員になるのに、世界史や日本史が必須とも思えない。
SPIが万能だとは思っていませんが、公務員試験よりはよっぽどましですよ。結果的に間口が広がり、人物重視の採用ができるようになりました。
3つ目は、試験の時期を日本一早くしました。4月1日から募集をかけています。通常、公務員試験の世界では、まず国家公務員、その後に都道府県、最後に市町村という意味不明な不文律があって、市町村の受験の受付は早くても毎年7月頃に開始なんです。通常の就職活動は終わっている時期なんですよね。そこで、募集開始を国家公務員試験よりも前に変更したことで、受験しやすくなり、内定も早く出せるようになりました。
この3つが大きかったと思います。
採用活動はトップセールス
加藤:市長が説明会で話をする時には、何を伝えていましたか?
小紫市長:採用活動をトップセールスと位置づけ、副市長時代は各大学や公務員予備校の説明会もすべて自分で説明し、全ての質問に答えていました。市長になった今でも、公務員予備校と、生駒市役所での説明会は私自身がプレゼンテーションをし、すべての質問に答え切るスタイルです。説明会の終わりが夜の7時になったりしますけど(笑)。
そのような場で皆さんにお伝えする最大のポイントは、『生駒は違う』ということです。「自治体が全部同じだと思ったら帰ってほしい」なんて言うから、みんなびっくりします。
「地方創生の時代、国から言われたことや法令に基づいたことを、ただかっちりこなすだけではなく、新しいことをつくりだそう」、「市町村職員は受身ではおもしろくない。まちの人とつながっていかなければ意味がない」といった話は、やっぱり受験者にすごく響くんですよね。手ごたえも感じましたし、受験者も一気に増えました。
採用改革を行った環境省時代の経験が生きている
加藤:環境省での経験も改善に生きているのでしょうか。
小紫市長:それもあります。国家公務員の採用は、係長以下にも比較的裁量があります。私も環境省の係長時代に採用を担当していたんです。ただ、その当時は環境省の採用も課題が多かったんですよね。
国家公務員の採用は、他の役所との取り合いとか、外資系のコンサルとの奪い合いみたいなところがあるので競争意識がある分、頑張ってはいるんです。だけど、ウェブサイトがしょぼいとか(笑)、受験者に興味をもってもらうための採用フローや説明会の工夫などがまだまだでしたね。
当時、私は「環境省を変える若手の会」の代表をしていました。「採用のプロセスをもっと改善できるのではないか」と、後輩から問題提起があったので、彼らを中心に、自主的に『採用改革ワーキングチーム』を作ってもらい検討を進めていきました。そこで出てきた提案を反映し、告知や説明会を改善することができたんですね。そういう経験は、生駒市でも役に立っていると思います。
受験者のフェーズに合わせて アプローチを変える
加藤:新しく作成したムービーやポスターは、堅苦しくなく、むしろポジティブな雰囲気があります。採用したいターゲットを考えて、着想されたんですか?
このチラシが採用改革の取り組みと呼応して、ヤフーニュースのトップページで掲載されたり、五大紙の全国面でとりあげられたりと大反響を呼びました。それ以降、担当者は毎年、プレッシャーと戦いながら頭をひねってくれているようです。
採用のメディア戦略は、受験者とのフェーズによって役割が異なっています。今年は、「公務員なんてつまらない」と思っている民間企業志望者をメインターゲットに据え、職員がやりがいを持って働く動画を作りました。ただこの正統派の動画をホームページに埋め込むだけではリーチしないので、SNSで話題にしてもらえるようなポスターをつくりました。一見ふざけているようですが、ハッシュタグの一つ一つまで、担当者が議論してつくりこんでいます。
そして最後、動画やウェブサイトを見て説明会に来てもらった時に、私や頑張っている職員が直接語りかける。そういう一連の流れで、繋ぎこみをしています。
すごく良い人材を採れているのは間違いない
加藤:受験される方の質は変わったという感覚はありましたか?
小柴市長:そうですね。受験者数は5年連続1000人を超えていますし、競争率も上がってきています。その結果、採用できる職員の質ももちろん上がっていると思います。新人を配属したあとに、「よくやってくれています」と話す管理職も多いですよ。
僕からすれば、正直、「まだまだもっと頑張れるんじゃないか」と思うこともあるし、「小さくまとまってんじゃないの?」っていうのはあるんですけど(笑)。
それでも採用改革で入ってきた職員がさらなる採用改革を考えるプロジェクトに携わったり、若手職員が自主的に勉強会を始めたりと良い動きにつながっていると思います。そういう意味では良い人材を採れているのは間違いないと思いますね。
成功体験から 職員のスイッチが入った
加藤:採用改革を進めていく時に、人事課の方に動いてもらうことは大変ではなかったですか?
小紫市長:いえ。それが、人事課のみんなは早い段階から協力的に動いてくれたし、2年目からは指示を待つのではなく自主的に動いて形にしてくれたんです。
公務員試験を廃止したり、採用を4月からにしたり、年間1、2回だった説明会を10回、15回と増やしたり。一気に改革したので、最初は戸惑いも大きかったと思います。でも、僕自身が参加者一人一人に丁寧に向き合う姿を見てくれていたので、「新しい副市長なんやねん」と反発するわけにもいかなかったんだと思います(笑)。
そもそも大学の公務員合同採用説明会って、都道府県や政令市しか参加していなかったんです。12万人都市の生駒市が「ブースを出したい」なんて言うので、大学の採用担当者がびっくりしていたそうです。ポスターで話題をつくって期待を高め、ブースで生駒市職員として働くことのやりがいや思いを熱く語るうちに、多くの受験生が、生駒市のブースに集まってきました。それを見て、職員も手ごたえを感じたんだと思います。帰りの車では、「副市長、京都市や神戸市よりもうちのブースの方が多かったですね!」と高揚しながら、みんなで盛り上がりました。
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※本インタビューは全7話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 採用改革によって 受験者数が4倍に
第2話 ミドルが変わらないと 優秀な若手は辞める
第3話 2万時間を超える残業を削減
第4話 「民間志望」「公務員志望」という言葉を死語にしたい
第5話 体調管理ができれば 職員が土日に副業してもよい
第6話 市町村行政の肝は 住民の『わからない』をなくすこと
第7話 総理大臣でもできない仕事ができる