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「全然失われていない10年」~地方で伸びる企業と今後~

 8月28日にSENQ霞ヶ関で地域発の事業創造や成長企業投資をテーマにしたイベントをJASISAが開催し、「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークス、藤野英人社長が「地域の未来を創る成長企業の見つけ方」と題して基調講演を行った。

全然失われていない10年

 この講演はあまり聞きなれない事実から始まった。失われた10年と言われる、2002年12月から2012年12月の10年間では、日本の上場会社全体で70%の会社の株価が上がっていて、その70%の会社の平均株価は約2.1倍、利益は約2.0倍となっている。「全然失われていない10年であった」という。
藤野英人

失われた10年 東証二部は43% ジャスダックは67%の株価アップ

 藤野氏は有名で大きな上場企業は全体の4%、残りの96%は上場はしているが中堅、中小企業であったという。TOPIX Core30(※東証一部上場銘柄のうち、時価総額、流動性の特に高い30銘柄)は2002年12月からの10年間で24%株価が下がった。一方、同期間において東証二部上場企業は43%、ジャスダック上場企業では67%株価が上がった。
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地方は元から元気

 また、「日本は東京の中央の一部の会社だけが成功していて、地方の会社は東京の会社に吸い取られている」と思っている人が多いが、実際はそうではなく、地方の上場企業が伸びているという。

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非帝都銘柄の方が伸び率が大きい

 藤野氏は地方に年間120泊程度する。「地方を元気にするためですか?」と聞かれるが、「地方は元から元気だから、元気な会社の所に行って元気な会社に投資をしている」と答えているという。

私たちはチャンスに恵まれている

 「日本にはチャンスが沢山有ると周りの人に伝えて欲しい」と参加者に呼びかける藤野氏。「起業もその一つだが、起業をしなくても日本の上場している会社の中であまり知られていない会社には、チャンスが沢山有ると認識して欲しい」と言い、さらにこう続ける。

 TOPIX Core30のような大手企業では、35歳で役員になれるかというと厳しい。しかし、上場している中堅企業には30代の役員も沢山いて、年収1500万という人も沢山いる。今は、有名な大手の企業に入ることが必ずしも幸せとは言えない時代になっている。皆が大手に殺到して、そこで入れなかったら人生が終わりという訳ではない。今私たちはチャンスに恵まれている。

300億円~3000億円未満の会社に投資

 次に、直近3年間における日本の株式市場を時価総額で分類し、それぞれの分類毎の成長率を表したグラフが目の前に現れる。TOPIX Core30の株価成長率が最も低く+24%、時価総額3000億円以上(TOPIX Core30を除く)の325社は+48%、300億円~3000億円未満の1032社は+61%、時価総額300億円未満の2168社は+41%だそうだ。

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TOPIX Core30の株価の伸びが最も悪い

 それらを鑑みて、藤野氏がファンドマネージャーを務める「ひふみ投信」は+61%の伸びを見せる300億円~3000億円未満の1032社の領域を中心に投資しているという。

特定の地方で勝てれば 全国でも勝てる可能性が有る

 藤野氏曰く、東京発で巨大企業になったリテイラーというのは、セブンイレブンや無印良品くらいで、ナショナルブランドのほとんどが地方発だという。ユニクロのファーストリテイリングは山口県宇部市、コメリは新潟県三条市、ニトリは北海道札幌市、「ココイチ」の壱番屋は愛知県清須市という事実を挙げた。

 地方発が多くなる理由は、地方で勝ったモデルは他の地方でも勝てるから。東京で勝ったモデルは地方で勝てるかはわからない。東京はあくまでも2000万人の市場、残りは地方にいる。山梨で勝ったモデルは新潟でも群馬でも勝つかもしれないし、宮崎でも勝つかもしれない。だから、特定の地方を席巻する力があれば、全国でも勝てる可能性が有る。

 また、地方には有利な点として、人件費やオフィス代などが安く、トライアンドエラーが低コストで可能となることも付け加えていた。

伸びる会社の特徴

 伸びる会社の特徴は、「シンプルな意思決定」「長期目線」「徹底した顧客目線」だという。日本の大企業は全部が逆、大企業が伸びる会社の特徴を持つことが出来れば、もっと業績は伸びる可能性が有るという。また、「結果的にはサラリーマン社長より、オーナー経営者であるところが伸びている」とも触れた。

地方に存在する魅力的な会社

 藤野氏は具体的な事例としていくつかの会社を挙げた。例えば、富山県富山市にある朝日印刷という会社は、医薬品の箱の印刷をしている会社だ。印刷はどこでも出来そうな気がするが、医薬品のパッケージや添付文書には薬事法に基づいた決まりがあり、特殊な印刷技術が必要となる。医薬品パッケージで国内シェア4割を占め、売上と株価は右肩上がり。今後も高齢化で薬の需要が増えることが見込まれる。藤野氏が最初に投資した20年前に比べて、売上高は20倍以上に増えている。

 また、栃木県宇都宮市にあるマニー株式会社は、医科・歯科治療機器を扱う医療機器メーカーで、注射針などを作っている。世界一の品質以外は目指さない、ニッチ市場しかやらないという特徴を持つ。こういった魅力的な企業が地方に多数存在するという。

地方創生に必要な「ヤンキーの虎」

 また、別のプレイヤーも存在する。藤野氏は著書「ヤンキーの虎」で、地方経済の主役の交代について見解を示している。

 「ヤンキーの虎」とは、建設など地場企業を軸にコンビニ、介護、中古車販売、飲食などを手広く行い、ミニコングロマリットを確立している地方会社のことを指す。藤野氏によるとこういった会社は、全国各地に存在する。

 しかし、彼らは正当な評価をされてこなかったという。なぜなら、行っている事業に目新しさがなく、付加価値を感じづらいからだ。東京などの都市を中心に、先進的な技術とビジネス手法で大きく成長する『ベンチャーの虎』が存在する一方で、地方には年率10%~20%程度売上を伸ばす「ヤンキーの虎」が多数存在している。地方の雇用や税金に貢献しているのはこの会社群であるため、もっと評価されるべきだという。

 また、「地方創生においても、お金もあり、リスクテイクも行う『ヤンキーの虎』を巻き込むことが非常に重要だ」と続けた。

2025年頃 ヤンキーの虎同士の競争の激化が起こる

 ヤンキーの虎は縮小するマーケットの中でも伸び続けている。藤野氏は2025年頃には、ヤンキーの虎同士の競争の激化が起こると予測し、「この時期に負けないようにするために、上場を狙おう」と経営者に持ちかける。もし、上場したくないという会社がいた時には、「他の地域から上場企業となってやって来るヤンキーの虎とどう戦うか、シミュレーションする必要がある」と警鐘を鳴らす。
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「ヤンキーの虎」の次に来るのは「社員の虎」

 日本や地方を良くする上で、「ベンチャーの虎」「ヤンキーの虎」はとても重要であり、その次に来るのは『社員の虎(トラリーマン)』だという。
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 最後に藤野氏は重要なプレイヤーである3者を挙げ、このように締めた。

 「ベンチャーの虎」は日本を良くしようとしている。東京でネットワークがあるし、情報量もお金もある。「ヤンキーの虎」はまだ注目度は薄いが確実に成長していく。

 そして、今後期待されるのは「社員の虎(トラリーマン)」。会社員や公務員でありながら、会社の社命よりも使命に従い、会社のリソースを使って自由に活動し、顧客のために働く社員。こういう人たちがこれから活躍し、評価される時代が出て来る。

 勤めている会社に不満があるため起業し、「ベンチャーの虎」や「ヤンキーの虎」を目指す道もある。ただ、辞めるくらいなら一回社員として暴れてみてはどうだろうかと感じている。今後、日本の大企業を良くするのもこの人たちじゃないかと思っている。

パネルディスカッション「ボトムアップではじめる地方創生」

 藤野氏の講演に続き、藤野氏、株式会社54の山口豪志社長、シェアリングエコノミー協会の事務局長である佐別当隆志氏、そして、ファシリテーターにJASISA代表理事の森戸裕一氏を迎え、4名によるパネルディスカッションが行われた。ここでは「ボトムアップではじめる地方創生」をテーマに掲げ、自治体に関する話題もあった。全体として、佐別当氏は少しずつ公務員の変化を感じているという。

(佐別当氏)公務員で活躍する人が増えていると感じている。中央省庁から自分で手を挙げて地域に入って活動するケースもあれば、地方の中で地方公務員の枠を超えて活躍している人が出て来ている。

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<写真:佐別当 隆志氏>

地方課題を官民で連携していくシェアサービスは伸びる

-地方のシェアエコはこれから大きくなるのか?

(佐別当氏)地方課題を官民で連携していくシェアサービスは伸びると思う。例えば、公共交通機関のライドシェア化など。シェアエコ自体は2020年や2030年に益々増えて来る。

(藤野氏)シェアエコはマーケットの中で大きなテーマ。経済がデフレだったというのもあるが、若い人は自分で所有することを望まない。結果として、なるべく少数のものだけを持って、他はシェアしようとする。また、経済合理性だけでなく、生き方のカッコよさということもある。いくつか良い服をもって、「あとはUNIQLOでもいいよね?」と思っている。そして、今はスマホ一つあればほとんど何でもできる。

地方の上場企業と地方の非上場企業の格差

-10年で倍以上伸びた会社が地域に多くあるにも関わらず、地域はほぼ疲弊して縮小。その要因は何か?

(藤野氏)地方の上場企業と非上場企業の格差はあると思う。また、地方では上場を目指さない企業も多い。伸びようとしないところが無理やり伸ばす必要はないし、静かにしたい人には静かにする権利がある。逆に生き抜こうと拡大しようとするところには、そうしてもらう。

 例えば北海道の中では帯広、富良野、倶知安のように成功しているところがあるが、そういうところがさらに成功して行く。逆に衰退しているところほど、何かやろうとすると反対される。若い人は絶望して他の地域でやろうとするから、地域間格差が生まれる。

 自治体に関しては、首長がその機運を作っているかどうかで地域が変わる余地がある。30代から40代でビジネスをわかっている人たちが首長のところは強い。

(佐別当氏)ある市では、副市長や若手がやろうとしても、青年会議所や旅館協会などの反対派がそれに大反対することもある。ただし、チャレンジが「できるところ」と「そうでないところ」と単純に二分して切り捨てるのではなく、対話し理解を求めていくことも必要ではないか。

仲間のいない変人と組むと何も進まない

‐自治体と関わった時に「良かったこと」「残念だったこと」は?

(佐別当氏)北海道の中頓別町のライドシェアサービスのアドバイザーを行っている。公共交通機関がないので、「ライドシェアが実現できなかったらこの町は滅びる」というくらいの気持ちで、町長も市民も一致団結してライドシェアを協力的に進めている。そういった意識のある自治体と一緒にやりたい。サラリーマンぽく「PRやっています」とか、「取材で目立てばいい」というところとはやりづらいですね。

(山口氏)良い事例だと思うのは沖縄。単年度でちょろっとやるだけではなく、3年ぐらいの期間を継続してやってくれるところが良い。担当者が何年かしっかりとやり切れる地域はすごく成果に結びついている。

(藤野氏)担当者次第というはまさにそう。担当者には2パターンある。仲間がいる担当者と、仲間がいない担当者がいる。一人で突っ走っても仲間がいないと立ち消えになってしまう。地方公共団体で新しいことをする人は変人だが、『仲間のいない変人』と組むと何も進まないし、逆に周りの人も敵になってしまう。粘り強く説得できる変人なのかどうかが重要。「新しいことをしようとする力」と、「粘り強く組織を説得する力」を持つ人はなかなかいない。

藤野英人 山口豪志

<写真左から:藤野英人氏 山口豪志氏>

<記=加藤年紀>

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