主張・意見

豊橋市消防本部人材育成基本方針の策定 ~自治体消防における人材育成の過渡期~[豊橋市消防本部]

総務省消防庁コラム1

(記事提供=総務省消防庁 広報誌『消防の動き』

(PR)=HOLG.jpが本になりました「なぜ、彼らは『お役所仕事』を変えられたのか?」

豊橋市消防本部の紹介

 豊橋市は愛知県の東南部に位置し、東は弓張山地を境に静岡県と接し、西には国定公園に指定される三河湾と国際貿易港である「三河港」を擁し、南は太平洋に面するなど豊かな自然と温暖な気候に恵まれています。
 平成11年4月中核市に移行し、平成28年8月には市制施行110周年を迎え「東三河地域」の中心都市、さらには「三遠南信地域」の拠点都市として、周辺市町村との連携・交流を深め、一体的な発展を目指した広域行政の推進に取り組んでいます。
 消防本部は、管内人口376,181人、1本部、2消防署、2分署、4出張所、消防職員数339人、消防団員数1,259人の体制で市民との繋がりを大切に安全・安心の確保に努めています。

1 消防本部における人材育成基本方針の策定経緯

■概要
 消防本部では、本市が掲げる「豊橋市人材育成基本方針」(※以下「市の基本方針」という。)に沿って人材育成を図ってきましたが、近年の消防を取り巻く環境の変化に対応するため、本市の目指すべき職員像など大きな方向性は維持しながらも、新たな時代にふさわしい消防職員となるため消防本部独自で「豊橋市消防本部人材育成基本方針」(※以下「消防の基本方針」という。)を策定しました。
①消防の状況に応じた人材育成の必要性
 近年、消防を取り巻く環境は大きく変化しています。消防本部は、複雑多様化する各種災害に対応するため、その人材、知識、経験、装備をフル活用し備えなければなりません。しかし、団塊世代の大量退職に伴い、経験豊富な職員が減少しており、その技術・知識の継承をいかに行うかが喫緊の課題となっています。また、様々な社会情勢の変化に柔軟に対応するため、消防本部ではその状況に応じた人材育成が必要となりました。
②市の基本方針のまま人材育成の取り組みは消防で
 市の基本方針にある各種取り組みでは、消防本部の抱えるそれらの課題を克服できなくなり、消防本部が独自で人事制度、能力開発、職場環境を検討、拡充、新規実施を図り対応してきました。
③市の基本方針が一般行政職へ傾向
 本市の市長部局も同様に、目まぐるしく変化する社会情勢に対応するため、働き方改革を中心に時代に即した人事制度の構築に向け人材育成の取り組みの見直しを図っていました。一般行政職の人材確保においては、自己推薦試験や職務経験者を対象にした採用を行う一方、人事制度においては、複線型人事制度や、職員庁内公募制度といった消防職員には適用できない新たな制度を導入するなど、一般行政職の大半を占めるゼネラリストやエキスパートに適した取り組みを充実させ、市の基本方針を一般行政職に傾向したものに改定していきました。その間、スペシャリストに位置付けられた消防職については、市の基本方針の中で影を潜めていきました。
④消防の基本方針策定
 市の基本方針が平成30年9月に改訂されたことを契機に、消防本部では、前述の齟齬を解消するために平成31年2月に消防の基本方針を独自に策定することにしました。

市の基本方針による一般行政職と消防職の位置づけ

市の基本方針による一般行政職と消防職の位置づけ

⑤策定にあたり
 「まちづくり」を実現する「ひとづくり」において、自治体消防である以上、市民に寄り添ったサービスを提供するため基本方針の根幹である基本理念や目指すべき職員像の実現に向けた、求められる意識、求められる能力は市の基本方針と同様のものとしました。大きな方向性は維持しながら、消防本部で展開している人材育成の取り組みを融合させ消防の基本方針を策定しました。

市の基本方針から消防の基本方針に変更するスキーム

市の基本方針から消防の基本方針に変更するスキーム

2 豊橋市消防本部人材育成基本方針

■消防の基本方針構成イメージ
 人材育成を進めるうえで、まずは、私たち消防職員がその使命を果たすための全体の構成イメージを再確認する必要があると思いました。
消防組織法第1条 消防の任務遂行
消防組織法第6条 市における消防責任
 この大きな枠の中に、消防活動という視点で豊橋市消防計画が定められ、また行政の視点では豊橋市の総合計画により消防の分野として「安心して暮らせるまちづくり」が求められています。それらの実現に向け「ひとづくり」を行うことを目的に、この消防の基本方針があることをイメージ化しました。

豊橋市消防本部人材育成基本方針の構成イメージ

豊橋市消防本部人材育成基本方針の構成イメージ

■人材育成の取り組み
 人材育成の基本は、職員自らが能力を自覚し、さらなる能力向上のために様々な機会を活用しながら自己啓発に励み、成長することにあります。この「職員の自己成長」を促し、支えるものとして、「人事制度」「能力開発」「職場環境」の3つの側面から働きかけることで、目指すべき職員像を実現するとともに、職員の資質の向上やキャリア形成の支援を進めていきます。

2-1 人事制度

 職員の意欲を高め、主体的な成長を促すとともに、それぞれの職員の強みを最大限に引き出し、伸ばし、活用する、人材育成の視点に立った人事管理を行うことが重要です。
 このため、人事評価制度等により、職員の能力や実績の的確な把握に努めながら、職員の能力を最大限に発揮するための人事管理(人事異動・昇格・昇給等)を確立するなど、職員がその能力を遺憾なく発揮できるよう、総合的な取り組みを推進します。
①人事制度における課題
 目標管理を活用した人事評価制度は人事制度の中核を担うものですが、消防職員において定着・浸透しているとは言い難い状況でした。これまでの市の基本方針と同様に、人事評価マニュアルも行政職と混在した構成となっているため、消防職員に分かりやすく整理する必要がありました。
②厚生労働省自治体保健師の人材育成
 その課題を克服するため、同様に自治体で活躍する専門職の保健師に着目しました。地域保健対策の主要な担い手である自治体に所属する保健師の能力の養成は、保健福祉政策の推進において重要視されており、各自治体において、人事評価制度や人材育成基本方針に沿って、保健師の体系的な人材育成を図ることが求められていました。
③‐Ⅰ 目標の明確化 消防職員のキャリアラダー
 そこで、厚生労働省「保健師に係る研修のあり方等に関する検討会~自治体保健師の人材育成体制構築の推進に向けて~」を参考にして、消防職員の職位において求められる能力の項目を定めて能力段階に応じた目標を、キャリアラダー制度を用いて段階的に整理しました。キャリアラダー制度を導入することで、職員一人ひとりに期待されている役割及び職務を遂行するうえで発揮することが求められている能力を示すことにより、職員がキャリアを主体的に考え、仕事への意欲を高めながら、明確なステップを踏むことができます。
 また消防職員のキャリアラダーを作成するうえで、人事システムと連動されることにより、評価の基準を明確にし、職員のモチベーションを高めることも期待します。

 また、公正かつ的確な評価を行いやすくなるメリットもあります。
 キャリアラダーの効果的な活用として次の3項目を想定しています。
①自己評価ツール
・自己能力の現状把握、目的、目標設定への活用
・キャリアパスの参考
②他者評価ツール
・新任、後輩、部下への指導、教育等への活用
・OJT、ジョブローテーションの参考
③組織評価ツール
・人材育成、研修企画、人材育成体制の整備
・人員確保、人材配置の考慮

 キャリアラダー「Career Ladder」とは、「キャリア(経歴)」と「ラダー(はしご)」のふたつの言葉を組み合わせた、キャリアアップを目指すためのキャリア開発のプランのことです。それぞれの職務内容や必要なスキルを明確にし、下位職から上位職へはしごを昇るように移行できるキャリア向上の道筋とそのための能力開発の機会を提供する仕組みです。

消防職員キャリアラダー一部抜粋

消防職員キャリアラダー一部抜粋

③‐Ⅱ キャリアの可視化 消防職員キャリアパス
 体系的な人材育成構築を推進するために、消防職員のキャリアパスを作成しました。キャリアパスとは、ある職位や職務に就任するために必要な一連の業務経験とその順序、配置異動のルート、昇任・昇格のモデル、あるいは人材が最終的に目指すべきゴールまでの道筋のモデルを言います。
 消防職員のキャリアパスでは、キャリアビジョンを描ける組織づくりとして、研修体系と関連付けて作成することで、スキルの習得や能力開発の研修、教育の時期を示し人材育成の課程における能力開発のバックアップ体制を明確化しました。

消防職員のキャリアパス

消防職員のキャリアパス

2-2 能力開発

 職員としての使命と責任の自覚を促すとともに、職務遂行に必要な知識・技能の習得等による能力向上を図り、職務に発揮できるような研修体系を整備し、多様な研修機会の提供と自己啓発への支援に取り組みます。研修の基本的な方向は、職員自らが自己の成長を目指して行う自己啓発を原点とし、それを日常的に職場の上司が職場研修によって支え、さらに、これを職場外研修により補っていくという考え方で実施し、職員の成長の加速化を図ります。
 今後は、資格取得等の自己啓発支援を積極的に進めていくとともに、若手職員に対してより実践的な知識・スキルの習得、職場における成長機会の付与による早期戦力化を図るため、消防士育成プログラムにより階層別に消防士の育成を強化していきます。消防士育成研修であるSRを活用し、若手職員のやる気を促し、将来の展望を描く研修を通じてキャリア形成支援を行うことも人材育成を行ううえで重要な役割を担っています。あわせて、女性職員に対しては、今後発生するライフイベントを踏まえた、キャリア形成やマネジメント能力の向上を図る研修を実施することで、職務の継続を支援します。

消防士育成プログラム

消防士育成プログラム

消防士育成プログラムの効果

消防士育成プログラムの効果

①消防士育成プログラム
 若手職員の人材育成を強化するために展開している階層別消防士育成研修のことす。
②SR
 SRとはStudy Rotation (スタディーローテーション)の通称で平成30年度から開始している職場内インターンシップ研修です。在職5年目の職員が1年間を通じて高度救助隊、指揮隊、消防指令センター、総務、予防、査察、防災の全7セクションを研修としてローテーションします。
 頻繁な人事異動Job Rotation(ジョブローテーション)が困難な消防職において、若手職員がチャレンジしたい業務、自分がどの分野に向いているのかなど今後のキャリア形成を支援するために考案しました。

SR研修先の7セクション1

SR研修先の7セクション2

SR研修先の7セクション

指揮隊SR

指揮隊SR

高度救助隊SR

高度救助隊SR

消防指令センター SR

消防指令センター SR

総務SR

総務SR

予防SR

予防SR

査察SR

査察SR

防災SR

防災SR

SR研修実施後アンケートより一部抜粋

SR研修実施後アンケートより一部抜粋

③OJT
 職場研修であるOJTでは、直接指導を行う受入れリーダーだけではなく、研修を受ける側はもちろん、職場全体で協力し、部下又は後輩を育てていく環境づくりを行うことが重要です。目標管理をベースに階層別職員教養指針と関連させ、計画的に全体業務における位置付けを明確化し、理解度、達成度をチェックしながら進めるOJTを確立しました。具体的には、必要最低限のOJTとして新規採用者向けOJTと職場内向けOJTを制度化しました。どのような職員になってほしいのか、どのような職場(活動)を目指すのかという目標を掲げ、いつまでに、何を達成するのかを理解してOJTを行うことによりその習熟度を上げることができます。
 さらに、管理職及び主査職には、部下とコミュニケーションをとり、期待や求める役割を伝え、指導・助言を行うとともに、所属職員の能力を最大限に発揮させることができるよう、生産性の向上やマネジメント能力の向上を目的とした研修を実施します。

2-3 環境整備

 育児や介護など職員の多様な働き方への配慮を行い、仕事と生活との両立に安心して取り組むことができるよう、意識改革や業務改善を積極的に進めていきます。安心して働くことができるよう、職場の安全性を確保し、職員の健康を守るため、各職場の実態に即した安全衛生活動を実施するとともに、各種ハラスメントやメンタルヘルスに対する理解を深め、誰もがいきいきと働きやすい職場環境を整えます。具体策として、ハラスメントが発生した場合に、迅速かつ適正に被害者の救済及び職場環境の修復を図れるように、その対応基準として「ハラスメント等相談対応マニュアル」や「ハラスメント等サポートガイド」を整備する他、「豊橋市消防職員こころの悩みごと相談窓口」を設置し、職員が抱えているこころの悩みごとをひとりで悩まないでよい環境作りをしています。
 また、惨事ストレス対策として、豊橋市消防本部惨事ストレス対策要領により、悲惨な災害現場活動等に従事したことに伴う職員への心理的影響の軽減や、職場復帰、再発防止対策に努めています。
 女性活躍推進事業としては、仕事と家庭の両立を支援する制度の拡充の他、女性が働きやすい職場環境を目指すため、庁舎改修に合せ、女性が勤務可能な施設の整備を進めます。

2-4 役割分担

①職員の責務
 人材育成を効果的、効率的に進めるためには、職員自らが主体的・積極的に取り組む姿勢が不可欠です。職員一人ひとりが自己の能力開発を常に意識し、自己研鑽に努め、互いに啓発し合うことが大切です。
②管理職及び主査職の責務
 人材育成の責任者として、自己啓発に積極的に取り組める職場の雰囲気づくりは勿論のこと、各種研修への参加機会の提供等、職員一人ひとりの能力開発について支援を行っていく責任があります。管理職は人材育成を進めるうえで、人材育成基本方針に沿い、具体的な方向性を示すとともに、その取組みみの進捗状況を把握し、目的が達成できるように管理監督しなければなりません。主査は、グループに所属する職員の能力開発について、OJTの受入れリーダーをはじめ、取組みの中心として大きな役割を担っています。
③総務課の役割
 総務課の役割は、消防署や人事課と協力をしながら様々な手法を用いた職員の能力開発と意識改革・職場風土改革による人材の育成を推進することです。そのために、本方針の職員への周知・浸透を図るとともに、職員の意欲・能力・実績・中長期的な人材育成等を重視した、人事異動、昇任・昇格など適切な人事制度の構築・運用に努めます。

2-5 消防を取り巻く環境の変化

 市政を取り巻く環境は確実に厳しさを増しています。地方分権や公務員制度改革、行財政改革、地方創生への動きが進展するなど、地方自治体を取り巻く環境は大きく変化しています。これらの変化は消防業務と密接な関係があり、現在抱えている多くの課題は、社会情勢の変化によるものです。
 災害や事故の多様化及び大規模化、人口減少及び高齢化の進行、消防に関する市町村財政の減額等、これらの消防を取り巻く状況に対して、国は、消防力の維持・強化には広域化が有効な手段としており、各自治体でその検討を進めています。
 人口減少時代における組織の在り方として、行政の効率化を図るうえで、人工知能(AI)や人に代わってソフトウェア版ロボットがデータ入力を行うRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入が検討されています。また現場活動の分野では、消防ロボットの利用をはじめ、情報把握や避難誘導の分野でもシステムの構築が進んでいます。IT技術や科学技術の急速な進展は消防職員の働く環境にも大きく影響してくるでしょう。
 私たちの働き方にも大きな変化がみられます。定年延長が検討される中、高齢職員の能力、経験を活用できる環境の確立、整備が急務となっているほか、高齢職員が様々な職域で活躍できるような能力開発も検討していかなければなりません。
 これらの社会情勢の急激な変化や急速な技術革新が進んでも、いつの時代も組織の中心は「人材」であり、変化に柔軟に対応できる未来を見据えた人材を育成していく必要があります。

■おわりに
 自治体消防発足以来、市民を守るために築き上げてきた技術や知識、経験を継承し、人材育成を図ってきました。日々の業務の中で無意識に人材育成が図れていた時代は終わり、意識的に人材育成を図る時代を迎えています。その環境を整えるため従来の制度を見直す必要があり、今回の消防の基本方針策定もそのひとつの取り組みでした。
 ただし、人材育成に関する各制度が有効に機能するか否かは、職員の意識にかかっています。職員一人ひとりがこの方針を十分に理解し、意識的に人材育成を実践するという風土を醸成する必要があります。組織として「消防の基本方針」を策定するだけではなく、全階層の職員へ深く浸透させることが今後の鍵を握っていると考えています。

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