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【大阪府 領家誠 #2】役所の満足感ではなく、中小企業の実利を追う

誰のためにもなっていなかったマッチング・イベント

加藤:住工混在問題の他に、中小企業からどのような意見がありましたか?

領家氏:自治体や中小企業を支援する団体が行っている公的マッチングが、全然役に立っていないと言われました。理由を聞いたら、「見積もりばっかり書かされて、結局、採用されへん」と。

 当時、逆見本市というイベントを府で開催していて、他県の大手の自動車メーカーの工場に大阪の中小企業を100社くらい連れて行っていたんです。でも、逆見本市で大阪の企業から見積もりを出しても、仕事につながらない。しかも、自動車メーカーが見積書を値下げ交渉の材料として使っていると言うんです。既存の下請け企業に、「大阪の企業はこの値段できると言っている」と伝えていたそうです。

 これだと、その地域の中小企業にも負荷がかかるし、大阪の中小企業も仕事につながらない。何のためにやっているんだろうと思いますよね。まだ、逆見本市という取り組みが全国的にはなかったので、大手企業と会わせるだけで、開催している側はやった感が満載だった。

調査でニーズを把握し、アクションを行う

領家氏:それで、危機感を感じてうちのリサーチセンターと調査をしたんですね。まず、全国の上場企業300社の調達部門と研究開発部門が、どうやって中小企業を探しているかを、アンケート調査しました。同時に、大阪府内の中小企業にどうやって大手に営業するかもアンケートで聞きました。

 そのときに分かったのが、大手の研究開発のセクションが比較的、中小企業とダイレクトにつながりやすいということ。すぐにお金にはならないけども、もし、研究から製品が生まれると、その部品を納めることができる。そう考えたら、研究開発部署とのオープンイノベーション型のビジネスマッチングが必要ではないかと思ったんです。

 丁度その時、SHARPから話がありました。SHARPの会長が、大阪商工会議所の副会頭をしていたこともあって、会議所経由で、大阪府に話が来たんです。

 でも、調査結果を考えると、研究開発に関わるオープンイノベーション型でやらないといけない。なぜかというと、地元の大手との調達のためのマッチングにすると、すでに納入している大阪の企業の取引環境に影響を与えるからです。

 既に部品を納めているところからしたら、怒りが収まらないじゃないですよね。「大阪府なにしてくれんねん」と。だから、「新しい取引の獲得となる研究開発型のオープンイノベーション・マッチングならブルーオーシャンだし、いいのでは」と。
 「これでやりませんか?」と提案したんです。

 SHARPもそれを理解してくれて、部署単位でニーズをまとめてくれました。それに基づいて、府が広報して中小企業を集めて、中小企業のニーズにマッチする企業をAからDで判定する。それをSHARPに見てもらったうえでSHARPの研究所に連れて行く。それだけ手をかけているんで、マッチングの精度も上がるし、SHARP側も社内の放送なんか使って、社員に見てもらおうということをやるわけです。

 これは、大阪府が自治体で初めて行ったオープンイノベーション方式のビジネスマッチングです。以後、マツダやダイワハウス、日産や日立造船など、色んな企業とやっています。今は、当たり前のようにどこの自治体もやっていますけどね。

中小ものづくり企業の顕彰制度「匠」

加藤:顕彰制度も始めたんですよね。どんな制度でしょうか?

領家氏:このオープンイノベーション方式のマッチングをやる中で、大手企業はどういう中小企業と付き合いたいのか、試作、量産、口座を作る基準などが分かるようになっていたので、府で中小企業顕彰制度『大阪ものづくり優良企業賞』という賞を作りました。大手に納入するための条件を優良企業の基準にして、「技術、QCD、財務、CSR」の4つの視点で学識経験者等が構成する審査委員会が審査・選定します。

 受賞企業はものづくり紹介冊子に掲載され、『匠』というロゴマークを使用可能として、「大阪のものづくり看板企業」として紹介します。受賞企業は協賛する金融機関での融資優遇なども可能です。
 その後、大阪府がビッグサイトなどの大規模展示商談会にブースを出し、この冊子を持って、プロモーション活動を行い、発注案件を探索します。同時に、関西を中心とした全国の金融機関と、今は、51機関になっていますが、受発注ネットワークを組みまして、この発注案件を金融機関の顧客企業とマッチングするというのが全体の事業なんです。
 2008年度から2018年度までの11年間で、700社を超える企業が認定されています。

ビジネスマッチングの登竜門

加藤:他の自治体でも企業を表彰することもあります。大阪ものづくり優良企業賞ならではのものはありますか。

領家氏:うちは、優秀な企業を表彰することがゴールではないんですよ。大手のメーカーと取り引きできる中小企業を選んで、ビジネスマッチングにつなげるのが基本です。なので、基本的にはB to Bの技術や商材でないと通りません。それと発掘、つまり、登竜門みたいなものです。だから、良い企業でも基準に合わないと審査に落ちたり、国の事業で表彰制度を先に貰っていたりすると応募できないんです。たまに「なんでくれへんねん」って怒られます(笑)。

 あとは点数をつけていることも珍しいと思います。この採点基準は、開示していて、落とすための基準でなくて、それを乗り越えてもらうためのものなんです。その基準を社内で整備すれば、取り引きができる企業が増えていくように設計しているんです。

 やっぱり中小の製造業の人は下請けが多く、営業経験がないんですよ。だから、大手企業にもらった図面を、納期通りに仕上げて出すことだけをしてきた。PRするときに強みを言語化できていないんです。実は自分たちが全然大したことないと思っていることが、すごいことだったりする。すごいんだけど、それを言わないし、書かないんです。その強みを言語化する作業を、応募プロセスで手伝ってあげるようなイメージですね。

役所が間に入ることで価値を生む

加藤:ビジネスマッチングを進める上で気を付けたポイントはありますか?

領家氏:オープンイノベーション型のビジネスマッチングで、うまくいかないケースは、大手と中小の情報開示なんです。研究開発なので、通常、情報開示の局面で両者が守秘義務契約を結ぶんです。でも、大手側は、既に自社が技術を持っている可能性もある。技術を見てから取引せず、後に類似性の高い技術を自社で開発すると、中小企業から「パクられた」と言われる恐れがある。一方、中小側からすると、技術だけ取られるという懸念は、常にあるわけです。

 そこで、事前に役所が間に入って、大手と中小それぞれと守秘義務契約を結ぶ。府は大手のニーズを聞いていても、中小に詳細は伝えない。また、中小の技術を見ても、大手に詳細は伝えない。この方法で、この山を乗り越える仕組みにしました。

 実は、もともと府には守秘義務契約という概念がなく、雛形すらありませんでしたが、大手・中小それぞれと守秘義務契約を結び、間に入る仕組みは非常に良かったと思います。

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※本インタビューは全6話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

 

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