加藤:所有者不明土地の問題が話題になりつつあります。アワードでも言及されていた、「迷子不動産活用プロジェクトチーム」の活動について教えて下さい。
岡元氏:ニュースなどで2040年には所有者不明状態の土地の総面積が北海道くらいになると言われていますが、この問題について、市役所の中でも密接にかかわっている仕事の一つが固定資産税の賦課・徴収なんです。所有者不明不動産に、固定資産税担当が手を焼いていたんですよ。所有者が不明の状態だと、まともに課税できないんです。それを、徴収担当の立場から解決できないかとずっと考えていて、平成23年度からメインの業務とは別に少しずつ対応していたんです。
その取り組みが他自治体にも役立つだろうと実感したので、平成29年度に「迷子不動産活用プロジェクトチーム」という自主研究会を立ち上げて、今までやってきた取り組みをまとめるとともに、他自治体の先進事例を視察したり、専門家を招いてフォーラムを開催したりして、その内容を報告書にしました。この一連の研究にあたっては、徴収マニュアルを作る時にお世話になった、おおさか市町村職員研修研究センターの「広域研究活動支援」制度を活用させてもらいました。
徴収職員の権限を生かして市全体の利益につなげる
加藤:所有者不明不動産に対して、どのような対応をされたのでしょうか。
岡元氏:所有者の相続人を調査・特定し、特定した相続人に対して、不動産を相続するのか放棄をするのか選択してもらいます。滞納固定資産税を相続人に払っていただける場合は、そうしていただきます。相続人が支払わない場合は、相続人を滞納者として、強制的に不動産の名義を相続人に変更した上で差し押さえて公売するというのが基本的なスキームです。
公売できれば売却代金から税金を回収して、残金を相続人に振り分けます。だから、不動産がある程度流通する地域でないと難しいスキームだと思います。
ただ、資産としては小さい額だったとしても、その土地が流通したり、開発されたりすることの価値は大きいと思います。放置されている空地で虫が発生したり、空家が崩れてきたリすると、近所の方から市役所に苦情が寄せられますが、その対応に時間を割かれる職員の人件費もなくなるわけですよね。徴収職員の持つ強い権限を生かして、単純な債権回収という視点だけではなく、市全体の利益を考えて対応していくべき事案だと思っています。
所有者不明不動産の99%は所有者を見つけることができる
加藤:所有者不明不動産について市が本腰を入れたら、所有者の何割くらいを見つけられると予測できますか?
岡元氏:本気で取り組めば、99%は探すことができると思います。国土交通省の調査で、2016年度に全国で行われた地籍調査約62万筆のうち、登記簿上で所有者の所在を確認できない土地は約20.1%あったそうですが、追加調査をしたところ、不明率が約0.41%までに落ちたそうです。ただ、すごく人件費と労力がかかる。やること自体はすごくシンプルなんですよ。要は、亡くなった方の戸籍を全て集めて関係図を作って、その人たちにアプローチをするだけの話なんです。
しかしながら、所有者が死亡後数十年もの間、相続がされずに放っておかれて、パンドラの箱みたいになっているような案件は、いざ調べてみると相続人が100人ぐらいいたりするんですよ。その100人を探そうと思っても、本来の固定資産税賦課業務の片手間では対応しきれません。市全体の業務における優先順位と、その手間を考えると諦めざるをえないため、どの自治体もなかなか抜本的な解決に至らないのではないかと思います。
加藤:相続人を見つける時の実務はどういうものなのでしょうか。
岡元氏:自分たちの自治体にある情報と、他市町村の情報を基に探します。寝屋川市に住んでいる人だったら、だいたいの状況はわかるんです。元々の所有者がいつ亡くなっているかといったことについて、戸籍や住民票の履歴があるので。
でも、他の自治体に住んでいる方だと、いつ亡くなったかなどが不明だったりします。実はその方が亡くなっていても、同居人が代わりに固定資産税を払っていたりすると、生死は分からないんですよね。住民票は抹消されると5年間しか保存期間がありません(法改正でこの期間は延長される)。所有者が5年以上前に亡くなっている事案で、ずっと代わりに固定資産税を支払っていた同居人がいなくなることもあります。急に書類が届かなくなった場合、当該住所地のある他自治体に照会をかけても住民票が抹消されていて、相続人を見つけるのが困難になります。
国土が消失する話
加藤:優先順位からすると、職員が今すぐ対応するには難しさがあるのかもしれません。そこで、民間企業に代行してもらうようなことはできないのでしょうか。
岡元氏:やっていることは司法書士の仕事に近いので、司法書士事務所などがやれる仕事だと思います。あとは、そこにどれだけの費用をかけられるかというコストの問題ですよね。もしかしたら、アルバイトを雇ったほうが、費用対効果が高いという判断になるかもしれません。
所有者不明不動産の関係で、他の自治体に研修講師として呼ばれて行くこともありますが、実際にこの問題に直面している担当者と話をしていると、「もしやるのであれば、1年だったら1年、3年だったら3年と時間を区切って人員を投入して、『所有者不明土地撲滅プロジェクト』みたいにして、徹底した方が良い」という結論になることが多いです。現状の固定資産税担当や滞納整理担当の人員数では既存の業務を行うことで手がいっぱいなので、この問題を抜本的に解決するのは現実的ではないと思います。
加藤:仮に一人がまるまる一か月張りついたら、どのくらいの土地が解決するのでしょうか。
岡元氏:戸籍の読み方に慣れているか、とか関連相続人の数にもよると思いますが、一ヶ月で平均して20~30件とかは解決できるんじゃないかと思います。
法律が抜本的に変わらない限り、所有者不明状態の土地は活用が難しいので、大げさかもしれませんが「国土が消失する」話だと考えています。これから間違いなく日本全体でホットな話題になってくるのではないかと。
不動産の所有権を追跡する仕組みがない
加藤:根本的な問題としては、相続後の所有権を追跡できる仕組みがないわけですよね。
岡元氏:そうなんです。分かりやすく言うと、「この不動産が誰のものであるのか」と管理する仕組みが徹底されていない。その一方で、一般市民の方はそういった仕組みが当然にあるものと思っている。それがこの問題の難しいところです。
法務局が不動産の所有権を管理し、地方自治体が人間の生死を管理している。相続放棄は家庭裁判所が管理していて、そこがそれぞれリンクしてないんですよ。バラバラなんです。
だから、法務局は登記されている所有者の生死が分からないし、当然、相続放棄の有無も分からない。結局は相続人側が相続登記をしないと登記名義は変わらないけれど、相続人は相続人で、お金をかけて資産価値のない不動産の登記を変更するメリットがない。そもそも、相続が複数重なった結果、自分が相続人であることすら理解していない場合も多い。このような状況下では、所有者不明土地が増えるのは必然だと思います。
将来的にはマイナンバー制度などと組み合わせて、登記情報や戸籍情報、相続放棄情報が繋がって、自動的に「この不動産が誰のものであるか」といったことが明確になる仕組みが必要になると思います。
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※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 滞納者が得をするのは不公平。納税者が報われる社会を
第2話 自治体職員は債権回収に向いていない?
第3話 徴収ノウハウを全国に広め、滞納整理の価値を伝える
第4話 所有者不明不動産の99%は解決できる
第5話 徴収職員だから救える人がいる。徴収の仕事に誇りを