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外国人の「住民」と生きる地域を~群馬県大泉町・加藤博恵さんを偲んで(中)

ネパール人の住民との関係作りのため、災害時や緊急時に役に立つ日本語の講座で話す加藤さん=大泉町提供。多文化協働課の職員たちも講師を担当した

町の人口の約2割が外国人という群馬県大泉町で、町の外国人施策に約20年携わってきた加藤博恵さんが亡くなる前、最後に手がけたのが、外国人の労働力を受け入れるために「特定技能」の在留資格を創設する出入国管理・難民認定法(入管難民法)改正への対応だった。
<取材・執筆 梁田真樹子(読売新聞)>

定住化という現実

 法改正が議論となる以前から、大泉町では既に、出稼ぎのつもりでやってきた日系ブラジル人やペルー人らが町内で家を購入したり、日本で生まれ育った外国人の子どもが現れたりと、定住化が顕著になっていた。

 加藤さんは外国人のいる所へ自分で足を運んでは、地域に住んでいるからこそ生まれる、外国人が抱える課題を発掘し、それを解決するために知恵を絞った。

 たとえば、言葉の問題で医療機関を受診するのが不安だという声を聞くと、村山俊明町長に相談して、話者人口の多いポルトガル語やスペイン語など五つの言語で問診票を作成。町内の医療機関や調剤薬局に配布した。2011年3月の東日本大震災の際は、計画停電や東京電力福島第一原子力発電所の事故の状況などを、町内の外国人住民に伝えて回った。

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ブラジル人やネパール人などの住民たちと大泉町役場職員の意見交換会=大泉町提供。
加藤さん(奧右端)も出席している

他の自治体では大変なことが起こる

 中小・小規模事業者の人手不足を解消しようと、新たな在留資格創設に向けた入管難民法の改正作業が本格化したのは、加藤さんが町企画部長となった後、2018年からだ。

 「安易に外国人を労働力として入れると、他の自治体では大変なことが起こる」

 地域が外国人を住民として受け入れる下地を整えていないと、文化や習慣の違いからくる摩擦が起きたり、制度の穴を埋めるために予期していなかった財政負担が発生したりする。経験からそのことを熟知していた加藤さんは村山町長と共に、国に対する働きかけを積極的に行うことにした。

 「1990年に入管難民法が改正され、外国人が町に入り出した頃は、習慣の違いでいろいろなトラブルが起きた。外国人を雇った企業が『あの会社のせいで、町の犯罪が増えた』とまわりの住民からたたかれるケースもあった」と、村山町長は語る。

 「改正法では、特定技能2号の資格を持つ外国人は家族を連れてくることができる。本人は日本語の検定をクリアしていて生活できるとしても、家族はどうするのか。労働力を確保できれば万歳、ではすまない。もっと丁寧に対応しないと」

 村山町長はそう語りながら、町が行ってきた負担についても解説する。たとえばブラジルで大統領選が行われると、町では在外投票を行うための投票所を設営してきた。投票期間には近隣市町村からブラジル人が大泉町に集まる。投票所を運営するための町職員の人件費や警備関連費で、町は毎回200万円弱を負担してきた。

 公立小・中学校では、日本語での授業についていくことが困難な子ども向けの「日本語学級」を開くため、義務教育費国庫負担金の対象とは別枠で、独自に指導助手を採用してきた。

 「大泉町には経験がある。知ってて何も声を上げないのは、筋が通らない」

 村山町長は、加藤さんとこう考えてきたと話す。

子どもたちが地域で活躍できるように

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ブラジル人の子どもたちが大泉町の学生らと交流しながら自己表現し、将来への夢を描けるようにと、加藤さんが企画したファッションショー=大泉町提供。
2017年度から3年連続で、地方創生推進交付金を活用して行われた

 加藤さんがとくに心を砕いたのは何より、外国人が住民として自立して生活できるようにすることだ。

 そのために重視したことの一つが、教育だ。今年2月現在、町の4小学校と3中学校の児童・生徒のうち、外国人は563人で、18.8%を占める。「日本語学級」で補習を受けている子どもも全ての学校に在籍しており、小学生は169人で41.2%、中学生は44人で28.8%が該当する。

 日本で生まれ育ち、親よりも自然な日本語を話す子どもも多くいる一方、「転校生」として日本に住みだした子どもたちには、日本語の習得は大きなハードルだ。

 今後定住するのであれば、日本語を話せないと、将来仕事を得ることができなくなってしまう。自立して生きていくことができない。それなら小さい頃からきちんと手を打とう――それが加藤さんの考え方だった。

 だから入管難民法改正にあたっては、国に対して、外国人の子どもたちに対する日本語指導を行うための財政支援拡充をとくに求めた。結果的に要望は認められ、大泉町では2019年度、日本語指導助手にかかる費用の3分の1を国から、3分の1を群馬県から補助されることとなった。

外国人にも地域に貢献してもらえるように

 国に要望することだけが、加藤さんたちが行ったことではない。外国人に地域での責任を担ってもらう取り組みが、大泉町では入管難民法改正以前から進められていた。

 「文化の通訳養成講座」は、加藤さんが企画したそんな取り組みの一つだ。外国人の住民に日本の文化やルールを理解してもらい、さらに学んだことを家族や友人、職場などで広めてもらおうと行われているものだ。参加者は、普段は行政と外国人の情報のパイプ役として、災害などの非常時にはコミュニティーを支援する立場で活躍する「リーダー」として、加藤さんたちと協力するようになる。

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「文化の通訳養成講座」で参加者に話しかける加藤さん(奧、右から2人目)=大泉町提供

 2011年に東日本大震災が起きた後は、町内のブラジル人から「自分たちもボランティアを行いたい」と声が上がった。加藤さんはブラジル人コミュニティーの中心となる住人たちと意見交換を重ねながら、10月にはブラジル人ボランティアチーム「We are with You」の設立にこぎつけた。チームは防災の啓発イベントなど、様々な取り組みを行っている。

 「日本人が外国人に何かをしてあげるのではなくて、お互いにできることをし合うのが、地域で共に暮らしていくということじゃないでしょうか」

 加藤さんが生前語っていた言葉だ。

※肩書きは2019年度当時のものです

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※本インタビューは全3話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

 

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