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もはや狂気?民間企業が進める、全行政手続き4万6千個のオンライン化

(インタビュー=横浜市 石塚清香、船橋市 千葉大右/文=横浜市 石塚清香)

 「役所へ手続きに行くために有休を取った」
 生産性向上が叫ばれる昨今ですが、まだこうした声が民間の方から多く聞かれます。

 しかし、社会の複雑化と比例するように、行政には様々な法律およびそれに付随する制度や手続きが乱立し、もはや行政機関自身もどれくらいの手続きがあり、それがどのようにリレーションされているのかを把握することは難しくなっています。
 そうした状況に対して、多くの自治体で窓口改善やワンストップの取組みなどが行われていますが、残念ながら費用面や人材面などで横展開に至った事例は、ほぼないと言っていい状況です。

 そのような中で生まれたのが「GovTech」です。
 GovTechは「Government」×「Technology」を掛け合わせた造語で、テクノロジーによって行政の施策・手続きなどをアップデートすることで、ユーザーである市民の満足度を向上しようというものです。

 特徴としては、行政からの発注を受託という形で受けるのではなく、市民などが日頃感じている「面倒」や「不安感」を、ITでスマートに解消するサービスを提供しながらマネタイズポイントを作っていく「スタートアップ活動」であるという点が挙げられます。

 そんなGovTech領域のスタートアップ企業のひとつが、「株式会社Graffer(グラファー)」です。既に、複数のインキュベイトファンドから資金調達をし、現在も同時並行的に多くのサービスを開発しています。今回は、同社の取締役COO Co-Founderである井原真吾氏に、サービスの概要やその裏側、今後の展望などをお伺いしました。

郵送で対応できる手続きが3691種類

株式会社Graffer 取締役COO Co-Founderの井原真吾氏

株式会社Graffer 取締役COO Co-Founderの井原真吾氏

石塚:Grafferが行っているサービスはどのようなものですか。

井原:前提として、我々が行っている事業は3つのパターンがあります。

 ToC(住民側から手数料をいただいて戸籍謄本の取り寄せの郵送代行などを実施したり、手続きにまつわる情報メディアの運営)
  ・手続き書類のオンライン作成・印刷・郵送「Grafferフォーム
  ・行政手続き情報メディア「くらしのてつづき

 ToB(登記簿謄本を取り寄せる作業の代行などを事業者側からお金をいただいて実施している)
  ・法人の登記事項証明書/印鑑証明書などのオンライン請求「Graffer法人証明書請求

 ToG(市民の方向けに手続きをわかりやすくする手続きガイドや近日公開予定の書類の作成システムなどを提供し、自治体側からお金をいただいてシステム化を実施している)
  ・くらしの手続きガイド鎌倉版

 ToCやToB向けに使いやすい行政手続きのサービス開発を行い、そこで培った使いやすさのノウハウをToGのところに展開しています。

 今日のインタビュアーは地方自治体の方ということで、「Grafferフォーム」と「くらしのてつづき」に関心がおありだと思うので、そちらを中心にご紹介します。
 Grafferフォームは、郵送請求ができる手続きについて、公開されているPDF様式を取り込んでWEBフォーム化し、転出届/戸籍謄本/住民票/課税証明書の一部などを、手数料をいただいた上でオンラインから入力・申請できるようにしているサービスです。
 行政には約4万6千の手続きが存在すると言われているので、我々はそれらを全てオンライン化することを目指しています。

石塚:4万6千…すごいですね…それは途方もなく大変なのではないですか?

井原:4万6千の手続きがあるといっても、複雑さにかかわらずユーザーが行っている作業は「調べて・やるべき作業や書くべき書類を洗い出して・作成して・提出する」の4つに集約できますので、ToG向けの手続きガイドではそれを自治体の方と一緒に整理しながらシステム化していくというプロセスで進めています。

エンジニアリングとデータの分離

石塚:4つの作業に集約できるといっても、窓口での申請の際に必要なものなどは結構多い印象なので、実際そんなことが可能なのかと思ってしまいます。

井原:そうした要件をすべての手順ごとに整理してExcelのフォームにまとめ、原課の方のレビューを受けて漏れがないか確認してからシステムに落としていきます。
 Excelのフォームは、横軸が条件、縦軸が必要な手続きとしています。アンケートのクロス集計のように手続き上の要件を洗い出していくようになっています。

Excelフォームのイメージ

Excelフォームのイメージ

 

石塚:なるほど!システム部分とデータ部分を分離することで、必要な要件を網羅しつつ、システム開発を効率化できるのですね。以前、私も子育てポータルサイト「育なび.net」を作った時に同様のやり方をしましたが、確かにこういう形でExcelフォーム化されていれば原課の担当者でもチェックができます。

千葉:一長一短はあると思いますが、いま世の中にある手続き系システムは、ロジック(プログラムにおける処理の内容、手順、方法)がシステム内部にあるのでエンジニアでないと触れないですが、これならメンテナンス性も高くなりますね。

井原:はい。質問項目を極力細分化することで、同じような申請書でパターンごと、例えばマイナンバーカードを持っているか、いないかなどの申請者側の要件が異なる場合でもフォームを分けるだけで対応できるようになっています。

千葉:転入届などは14日以内にやらないといけないという決まりがありますが、そうしたロジカルチェックのようなことはやっていますか?

井原:今はやっていないです。ただ、優先度の高いものから日々システム改修をかけている状態なので、ご要望があれば1日~2日で対応できます。これまで3自治体ほどやってきて経験値もだいぶ上がってきたので、自治体独自の手続きがあったとしても、システム開発自体はそんなに時間をかけないでできると思います。

石塚:この手法ならば、シビックテック的な活動に載せていって、市民の皆さんと窓口業務改善のBPR活動をやることも可能になりますね。また、こういう形で細分化された手続きが横並びになっていることで自治体ごとの差異が見えるようになり、手続き標準化の流れにも寄与できるはずです。

井原:そうですね。そうして標準化が進んでいくと参画する企業が増えてきて、民間同士でもGovtech領域で切磋琢磨していく環境が生まれるのではないでしょうか。

石塚:自分がオープンデータのような概念を推奨しているのも、行政はデータを出す、それを使いやすい形で社会にデリバリーするのは民間という役割分担ができると思っているからです。

千葉:そうなると、手続きのインターフェースやシナリオなどをコンテストやハッカソンで考えていくというような協働もできるかもしれないですね。

石塚:このベースになるExcelフォームを、ゼロから自治体職員が作成することは難しいですか?

井原:そこは「データベースを正規化する」といったITリテラシーが関わってくるところです。
 「0と1のフラグ」や「プロセスの分岐」のような概念が理解できる方であれば作れるかもしれません。
 シナリオを作るのとは異なり「手続きに必要なものを漏れ、あるいは重複なく洗い出していく」という「削ぎ落していく」という作業になりますが、経験のない方は「付け足していく」ことを考えがちなので、今のところは我々が作ってご提示する方がスムーズに進むと思います。
 3か所の自治体の対応をさせていただいて、ライフイベント関連の手続きについてのナレッジの蓄積は大分できたので、いま他の自治体から依頼が来ても2-3日で対応できると思いますし。

石塚:データを分離する形にしたのは、エンジニア的発想からですか?

井原:もともと4万6千手続きに対応したいという、ある意味狂気的な発想がベース(笑)なので、動作部分を作り込む工数を減らすために必然的にこういう形に落ち着いたということです。

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※本インタビューは全3話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

 

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