インタビュー

【元大東市 入江智子 #5】老朽化する公共施設の出口戦略を作りたい

入江智子5

箱モノがなくても豊かな公共が絶対に作れる

加藤:ご自身の経験から、自治体職員に伝えたいことはありますか?

入江氏:伝えたいことは山ほどあります。地方自治体はやらなければいけないことをちゃんとやる。民間はやりたいことを自分でファイナンスしてやる。中途半端に行政がやりたいことをやったりすると、何か変なもんができるんですよ。

 国土交通省にいらした佐々木晶二さんも仰っていましたが、役人は稼げないんです。PFIなんかも、一見民間を活用しているように見えて、仕様書は全部市が書いている。悪い言い方をすると、市がやりたいことを民間とやるんだけど、最終的に市がたかられちゃっているところも多い。

 地方自治体がやらなければならないことは時代によって変わっていて、いまは少子高齢化が進みインフラも老朽化して、財政も不安があります。自治体が直接稼ぐのは難しいから、民間が公有財産を活用しやすいように規制緩和するとか、効果的なインフラ整備をするようなそういう側面支援が必要です。

 もうひとつ、いままでは箱モノを建てるのが行政だと思われていましたけど、住民が主体的にいられれば、箱モノがなくても豊かな公共が絶対に作れると思います。そのふたつがいまの時代の地方自治体の職員がやらなければいけないことだと思います。

 昔のセーフティーネットは受け止めるだけだったと思うんですけど、いまは弾力性があって、落ちてきた人もまたボヨーンってジャンプアップして、自立するようなことをやってほしいと思うし、そもそも落ちないように声をかけたりする住民力も育てないといけないと思いますね。

公務員出身だからこそ実績を作らなきゃいけない

加藤:今のお仕事で感じられる醍醐味はなんでしょうか?

入江氏:民間会社の割には縛りも多いけれど、やりたいことをやれるというのはすごい醍醐味だと思います。もちろん、責任はありますけどね。

加藤:プレッシャーを感じることはありますか?

入江氏:そうですね。民間と言っても、「お前はもともと稼げない役人じゃねえか」って言われるのはもうその通りで、オガールに9か月行ったくらいで、そんな能力が身に付いているとも思わない。でも、公務員出身だからこそ実績を作らなきゃいけないとも感じています。北条のプロジェクトが無事に進めば目に見える実績となり、次にできる選択肢も増えていくと思っています。

 私は新卒で市役所に入って40歳まで役所一本でした。建築職だったから大東市が持っている建物は全部知っているし、それらが老朽化していて、このまま維持できないというのも分かっています。
 公共施設の床面積を半分にしなさいと国からも言われていて、みんな総論は賛成だけど各論は反対で、結局は潰せない。でも、北条プロジェクトでは半減どころかゼロになっていくんですよ。もともと、そういう出口戦略を作りたい気持ちがあったので、それがプレッシャーよりも勝って、やりがいにつながっています。

編集後記

 入江氏が「発注先業者との信頼がマイナスから始まる」と話していたが、この問題は根深い。過去には行政の発注先であるゴミ処理業者が不法投棄を行うなど、行政が疑いの目を向けざるを得ない文化が存在するのはそれなりの理由がある。

 少し話は変わるが、日本は国土面積あたりの信号機の数が世界一と言われている。信号機がなかった交差点に事故が起きると、新たに信号機が設置されることもある。それ以降は周りに車が走っていなくとも、赤信号であれば一律に停止することを強いられる環境へと変貌する。これは事故を起こすことの無かった善良なドライバーたちの移動効率をも下げる。

 2000年初頭からオランダやイギリスなどでは、そもそも信号は安全を守るのか、信号待ちは無駄ではないかという問題提起のもと、数百にのぼる自治体が信号の撤去を行った事例がある。多くの場合は移動効率が向上しているというのはもちろん、面白いことに交通事故も減少しているというデータが大部分を占める。

 実は、日本でも事例がある。たとえば、2015年に京都市中京区の「御池通~烏丸通~四条通~河原町通」における速度規制が時速30㎞から時速20㎞に変更され、信号機4基を撤去したところ、人身事故の数は減少したという。

 かつて、信号機があればあるほど事故が減ると信じられる側面もあったが、おそらくそうではなかったようだ。だとすると、行政の入札制度などの仕組みはもとより、通常業務の中で求められるさまざまな審査やチェックは本当に効果的なのだろうかと、掘り下げる必要があるのではないかと思う。

 また、未来へ歩を進めるにつき、前提条件が変わることも念頭におく必要がある。技術進歩によって増えるさまざまな選択肢、犯罪発生率の低下など人々の行動変化が生じる中にあって、どのような仕組みを選択すべきかは、今後、全ての組織が抱える経営課題となる。それは行政でも例外ではなく、むしろ、税金を効率的に使うべき行政だからこそ、率先して行うべきといえる。

 入江氏が牽引するまちづくり会社に強く惹かれる点は、公共施設の出口戦略を構築する可能性だけにとどまらない。
もちろん、それだけでも圧倒的な成果である。しかし、それ以上にワクワクするのは、公務員出身の入江氏がまちづくり会社で高い成果を上げた時に、「なぜ、自治体組織が直接行うより高い成果が上げられたのか」と、その要因が検証される期待に他ならない。

 今後、市営住宅の建替えが成功した際に、全国の自治体には同じスキームで会社を作り、建替えをするだけにとどまってほしくない。まちづくり会社の運営手法や業務フローそのものを分析し、できる限り自治体本体の運営に取り入れてほしい。実はそうすることで多くの実務フローが改善できる余地があるように思える。たとえば、入札制度一つをとっても、その仕組みは本当に市民に最適な仕組みなのかと感じるのである。

 長い道のりにはなるかもしれないが、入江氏がどうにか作り上げようとするプロジェクトの先々には、とてつもなく大きな可能性が秘められているのではないだろうか。

※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

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