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【有田川町 中岡浩 #3】経産省と国交省が交わした覚書を突破せよ

素人が絵に描いたような餅みたいな話

中岡氏:平成21年7月に和歌山県河川課が交渉相手となりましたが、最初の交渉の席で、県の担当者は「難しいよ」と単刀直入に切り出しました。たとえば、有田川に1~2mほどの高さの堰堤を作るのも河川法の絡みで大変なんですよ、多目的ダムを何かに利用するというのは、その10倍はハードルが高いと思ったほうがいいですよ、と県の担当者は言うんです。

加藤:そんなに厳しいものなんですか。

中岡氏:とにかくやっかいなんです。その当時、すでに日立グループと関電グループの2社が県の担当窓口を訪れていたらしいんです。いわゆるゼネコンと電気事業者ですね。

 当時、もうすでにRPS法の関係で、電力会社としては「再生可能エネルギー」による発電量の法的要件を満たすため、たとえ200kw程度の出力にすぎない水力発電用ダムでも欲しいんです。しかし、県の担当者がいうには、「アロケーションが掛かりますよと説明したら、2社とも来なくなったよ」と言うんですね。

 プロ中のプロでも「アロケーション」と一言聞いただけで断念したというのですから、私が県に持参した計画書などは全くの素人が絵に描いた餅みたいな話なんだとようやく気づきました。

 実際に発電所など建設できるのか、本当にコスト的に回収できるのかなど証明するものが、何もないんですね。

発電所建設前

発電所建設前

昭和56年に交わされた中央省庁間の覚書を突破する

加藤:交渉相手は県だったというお話でしたが、そもそも、ダムの治水と発電というのは、県の管轄になるんですか?

中岡氏:いえ、県は治水を、関西電力は発電を管轄していますが「有田川町も入れてくれ」という交渉の窓口を県に一本化してもらったのです。まずアロケーション(負担割合)を決めた上で、管理方法などについては関西電力さんを交えて決めることになるのです。

 今回の小水力発電計画で一番大変だったのは、連綿と続いてきた維持放流設備に関するアロケーションの方法を転換していただかねばならなかったことです。

 と言うのは維持放流設備に掛かるアロケーションは、電源開発促進法(現在は廃止)に基づいて「負担は流量比例とする」というルールで運用されていました。昭和56年に国土交通省と経済産業省の間で覚書も交わされていたのです。もし、これが適用されたなら、町に多大な費用負担がのしかかるため、発電所は完成しても完全に赤字です。

加藤:流量比例とは、どういうルールなのですか。

中岡氏:文字どおりなのですが、維持放流と発電で使った水の割合で建設費用などを分担しなさいという内容です。町の立場としてはこのルールを撤回してもらい、ダム本体と同じ負担率にして頂くよう、新たな合意を取り交わす交渉をしなければなりませんでした。

 というのも、平成10年にダムに維持放流設備を増設したとき、建設費用が14億円かかっていて、これがネックなのです。減価償却を考慮しても、当時で7億数千万円の価値が残っていました。放流水を環境維持のために0.7t流しているとすれば、発電にも0.7t使うんやろうと。

 そうなれば、町は水力発電所の工費、ダム本体関連のアロケーションとは別に、約3億5千万円を負担しなければなりません。それにプラスして、毎年の維持管理費や修繕費用も半額負担となります。バルブ1つとっても、数千万円はしますんでね。これだけはもう勘弁してくれと。

※(アロケーションはダム本体関連維持放流設備の2つ掛かります)
ダム本体関連は基になる額は大きいが妥当投資額などを基に計算されるので負担率が小さく大きな問題では無かったが、維持放流設備のアロケーションは省庁間の覚書があり50%であった。

○ダム本体と関連施設の負担率は最終的に0.2%に決定
ダム本体と関連施設の残存価値は35億円×0.2%≒7,000千円

○維持放流設備の負担率は最終的に0.3%に決定
維持放流設備の残存価格は6.7億円×0.3%≒2,000千円 (平成26年末の残存価格)

調査費用をゼロに、県との交渉から3年で計画決定を勝ち取る

加藤:しかし、そこで諦めなかったんですよね。

中岡氏:私はこの発電計画の実現性と環境への貢献度、費用対効果を、タダで証明できる方法はないかなと考えていました。目を付けていたのは再生可能エネルギーの普及を推進する一般財団法人 新エネルギー財団(NEF)による基礎調査(中小水力開発導入基盤整備調査)と言うのがあり公募に手を上げました。

 これは、新たな水力発電の開発可能性が高く、エネルギーの安定供給に寄与する地点かどうかを国の予算で実地調査するもので、資源エネルギー庁が実施の可否を採択します。そこで採択されたら、私の発電所計画の実現可能性は町が負担することなく調査して頂けます。

 NEFさんの基礎調査に平成22年に採択され調査の結果、非常に有望な地点であると言うことで、翌平成23年度には測量調査までしてくれたんです。すると、お墨付きいただくことになりますよね。そうすると県の担当者の対応も変わってくるんですよ。

 当初はほとんど門前払いだったような状況だったのに、県の担当者が交渉の書類や経緯などをファイルに閉じて保存していただけるようになりました。「全国の類似事例を持ってきてくれないか」とも言われて、先方も乗り気になっているのが分かるんですね。行くたびにだんだんファイルの厚みが増していくのが嬉しかったです。

 結果として、維持放流設備のアロケーションの基本合意には県と交渉を開始してから3年かかりました。

 ほぼ希望通りにアロケーションについての合意ができ、事業の実現性の確認が取れたので、平成24年9月に初めて町の予算を付けることが出来ました。河川法に基づく申請書類(俗に言う水利権の申請書類)作成や発電所の設計等の業務委託予算が付いたのです。
 ようやく「有田川町エコプロジェクト」は町の事業としてスタートしました。

一難去って、また一難

加藤:計画を進める中で、苦労はありましたか?

中岡氏:水力発電所の設計も出来あがり、河川法に関する書類も提出し本来なら25年度中に河川法に基づく許可が下りてないといけないんですけれど、ダムの管理に関する協定書や申請書類の細部についての確認などに時間が掛かり、河川法に基づく許可が正式に下りたのは平成26年9月でした。
 この許可を受けすぐに発電所の建設事業費を補正予算に計上しました。

 工事の入札も終わりようやく施工業者も決まりましたが全量売電しようと思ったら、経済産業省に「設備認定」を受ける手続きをしなければならず、これもやっかいでした。

 設備認定の申請の前に、発電に使う水車の型式認定を取って初めて本申請になるんです。元請け業者が水車をメーカーに発注し、水車メーカーが型式番号を取って初めて経済産業省の設備認定を受けることができるのです。

 その認定を受けて関西電力の電線に電気を送り込む工事の申請をするんですが、ようやく送電工事の申請の段になって関西電力さんから「この現場で受け取れる能力は170kwしかありませんよ」と返事が来たんです。200kwと170kwはわずかな差に感じるかもしれませんが、収益の面では計画の半分ぐらいの収入しか見込めないんです。
 これは大変なことです。

「なんとか30kw増やしてください」と、町長にも頼んで一緒に泣きついてもらい、ようやく、「200kwに増設工事をしましょう」と了承を得ました。ただ、増設にはまたいろんな部品が必要らしくて「あと1年はかかる」との返事でした。それでも、なんとか28年1月からの試験運転に間に合わせてもらったんです。

発電所建設後

発電所建設後

(編集=長嶺超輝)

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※本インタビューは全6話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

 

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