(文=市川市・野村憲一/小平市・伊藤隆志)
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近くて遠い地方議会
自治体職員がキャリアを積み重ねていくと必ず関わるのが議会です。ところが、職員の多くは議会のことをよく知らないのが実際のところだと思います。
もちろん、地方自治法の本をちょっと読めば、議会の構成とか権限とかは必ず書いてありますから、議会対応の仕事に直接かかわっていなくても、知識としてひととおりのことは理解できます。それなのになぜか、議会は遠い存在で、議員とはなるべく関わりたくない、と思っている職員が、どの自治体にも少なからずいるかと思います。
「動く議会」を伝えたい
藤井聡太七冠をはじめ若手の活躍で盛り上がりを見せる将棋界。駒の動かし方から「成り」や禁じ手など、将棋のルールを覚えるのは難しくありません。でも、じゃあ棋譜が読めるかといったら、そううまくはいきません。初手から投了までの時の経過があって、相手がいて、ゆえに盤面の戦況は千変万化に「動き」ます。だから将棋は面白い、というわけです。
議会も同じです。議長、議員のほか、彼らと対峙する首長と職員たち、そして住民たち。議場の内外で、それほど難しくないルールの下、様々な当事者がかかわって「動いて」いるのです。
ところが、議会について学ぶテキストが提供する知識のほとんどは、その断片であったような気がします。書いてあることはわかるけど、なにかしっくりこないという感覚。どうやらそれは、「動く議会」を順不同の静止画像で眺めているようなものだからなのではないか。ならば、議会を「動画」で捉えれば、自治体職員の実務に堪えうる知識を得やすくなるのではないか。そんなふうに考えるようになっていたころ、編集者からこの本の話をいただきました。「動く議会」を伝えるのに、マンガは絶好の手段になる、そう確信して、ストーリーを考え始めたのです。
「ふつうの議会」の物語
この本では、議会事務局に異動した若手職員・菊池主任の目を通して、議会という組織が「動く」姿をマンガという手段で可視化してみました。
舞台となる藤尾市議会は、定数22人のありふれた規模で、そこには議会事務局も含めて、スーパー公務員もアルティメット議員もいません。議会改革に邁進する先進的な議会でもありません。そんな「ふつうの議会」の活動を、11のチャプターで綴っています。
前半は定例会が舞台です。質問通告から答弁調整、本会議そして常任委員会での審査を経て本会議での採決に至る一連の動きを追っています。市長が提出した施設使用料引上げ議案をめぐる、議員と執行機関のせめぎ合い、議員の問題提起が議会全体の意思決定に至る流れを描きました。議案の行く末をめぐって、それぞれの立場にある登場人物が緩急入り交じりながら関わり合う姿から、本会議や委員会といった正式な場に出るまでの駆け引きや緊張感を感じていただけたらと思います。
後半は、閉会中の議会の動きが中心です。本会議が開かれない間も、議会がその動きを止めることはありません。委員会の閉会中継続審査、住民への議会報告、会議録や議会報の作成、組織のメンテナンスや各議員の政策形成に向けた調査など、さまざまな活動が行われています。他方、昨今は議員のコンプライアンス違反に関する報道も毎日のように聞かれます。そんな良し悪しもある閉会中の議会の様子を、政務活動費とSNSを題材に描いてみました。議員の失策と反省を糧に議会があるべき姿を目指し、議会事務局もその動きをフォローしていく。菊池主任はそんな議員たちの動きとともに、上司や先輩、同期に支えられながら、議会事務局職員として少しずつ成長していきます。
マンガの後ろには、それぞれに解説をつけています。解説ではマンガに描かれた事項に関係する知識を簡単に整理していますので、解説を読んだ後にもう一度マンガを読んでいただくと、議会の動きがさらにはっきり見えてくると思います。
マンガならではの臨場感を感じてほしい
マンガ部分については、ダイナミックなアクションも激しい喜怒哀楽もなく、一見地味にコマが続いているように映るかもしれません。作画者自身、市役所職員の現場感覚をもとに議員、職員そして住民が対話・議論しながら物語が進んでいく流れを丁寧に描く作業を通して、徐々にマンガ内で動く現場の空気感に入っていき、後半にかけて深く浸っていったように感じています。その結果、静かながらも一人ひとりが仕事に向き合う真摯な姿勢と、臨場感を表現できたのではないかと思います。
議会の動きからは少し逸れますが、議員や自治体職員の方は、どんな想いで地域に愛着を持ち、より良くしていこうとするために働いているのでしょうか。その想いは人それぞれにあると思いますし、今回、直接議員の方にお聞きする機会はありませんでしたが、自分なりに考える地域愛のようなものをエピソードの一つに入れましたので、その辺も楽しんでいただけたら嬉しいです。
主人公の菊池は、持ち前の快活で楽観的な性格に加え、議員の姿勢に会派に関係なく共鳴しながら議会を見つめ、奮闘しています。その中で成長する姿を見ていただきたいと思います。
動きを知れば見立てができる、見立てができれば面白くなる
議会の動きがある程度頭に入っていれば、周辺の事情からこの先の流れを見立てることができるようになります。こうなれば将棋と同じくらい、とまではいかないにしても、議会が面白く感じられるのではないでしょうか。
本書はリアルと銘打っていますので、現実の議会運営に即した内容にはなっていますが、そこはマンガですから、肩肘張らずに読んでいただきたいと思います。その中で幾ばくかでも、読者みなさんに「動く議会」への興味をもっていただけたら、著者として望外の幸せです。
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