(文=小紫雅史)
歩いて行ける自治会館や公園をまちの拠点「まちのえき」にしよう!
奈良県生駒市は、住民・事業者・行政がともに汗をかきながら、高齢者や子どもでも歩いて行ける自治会館や公園に「生駒市版まちのえき」を100か所創ることを目標に取り組みを進めています。
毎週1回、ボランティアによって開催される健康体操教室にあわせて、スーパーの移動販売車を呼んで買い物したり、キッチンカーを呼んでランチをみんなで楽しみます。また、自宅で不要になった本や漫画を集めてまちかど図書室を創設したり、食器や雑貨を集めてリユース市を実施したり、食べきれない食品や農作物を集めて地域食堂・認知症カフェなどを開催しています。移動保健室、みんなのプール、夏休み宿題合宿、地域農園の開設など、地域独自の取り組みも生まれています。
「まちのえき」の整備を始めたきっかけは、ここ数年、高齢者を中心に、免許返納・移動手段の確保に対する不安が急速に広がったことでした。「暴走老人」に関するメディア報道と免許返納への社会的要請を受け、高齢者から免許返納の相談、それと同時に、民間交通や市バスの拡充を求める声が急速に高まりました。
しかし、燃料費の高騰や運転手の雇用問題に悩む公共交通の事業者が現状以上にバス路線を拡充する可能性はゼロに等しく、維持してもらうだけでありがたいのが現状です。また、市が主導でバスを走らせても、カバーできない路線もありますし、実際の利用はまだ少ない。デマンドタクシー、ライドシェアなど「乗り物側」の対応だけでは移動支援の問題解決には不十分と言わざるを得ません。
そこで、発想を逆転させ、公共交通を拡充するだけではなく、免許のない高齢者等でも「歩いて行ける」場所に地域拠点「まちのえき」を整備することが課題解決につながると考えたのです。
実際に始めてみると、コロナ禍の難しい時期にもかかわらず、多くの地域から関心が寄せられ、毎年4、5か所ずつ開設が進んでいます。ニーズは確実にあるのです。健康づくりに毎週歩いてやってくる自治会館に、体操だけでなく、食事、買い物、文化活動、子育て、防災、ゴミ出し・リサイクルなどの機能を組み合わせ、住民だけでなく、事業者や行政、専門家も入って、人が集まりたくなる楽しい拠点を創るわけです。
「生駒市版まちのえき」は、これからの少子高齢化、人口減少時代の我が国に不可欠な社会インフラになるはずです。また、脱炭素や資源循環、地域共生社会、そして、移動販売や創業支援などの地域経済の活性化にも大きな一石を投じる取り組みでもあります。
本書では、この「まちのえき」の具体的な取組について、具体的かつ丁寧に説明をし、皆様の地域でも「やれそうだ」「やってみよう」という動きにつながるように記述しています。
また、取り組みを具体化するにあたっての課題や対応方法などにも触れ、「まちのえき」が広く全国に広がるよう、マニュアルとしても活用いただけます。
少子高齢化時代の地域課題を解決するためには、「誰一人取り残さない」だけでなく、「誰一人として単なる『お客様』にせず、何らかの役割を持って活動してもらう」ことが不可欠です。
「まちのえき」を拠点に、すべての人が役割を持ち、人に頼り、心地よい「ごちゃまぜ」の関係を築きながら、安心して楽しく豊かに暮らせる地域共生社会を全国に広げていこうではありませんか。
目次
はじめに--歩いて行ける自治会館や公園をまちの拠点にしよう!
序章 これが生駒市版「まちのえき」だ!
第1章 なぜ「まちのえき」が必要なのか
1-1 人生百年時代を喜べない一人暮らし世帯の急増
1-2 出生数半減の衝撃、核家族化で孤立する子育て
1-3 学びと活躍の場として存在感を増す地域・コミュニティ
1-4 働き方改革とアフターコロナのビジネスモデルを模索する事業者たち
1-5 活用されていないまちの宝物、自治会館と公園
第2章 「まちのえき」でのさまざまな活動
2-1 まちのスポーツジム(運動する)
2-2 まちのショッピングセンター(買う)
2-3 まちの食堂・喫茶店(食べる・飲む)
2-4 まちの図書館(読む)
2-5 まちの学校(学ぶ・教える)
2-6 まちのアトリエ・スタジオ(奏でる・創る・観る)
2-7 まちの遊び場(遊ぶ)
2-8 まちの農場(栽培する)
2-9 まちのリサイクルステーション(循環する)
2-10 まちの保健室・病院(診る、癒やす)
2-11 まちの保育園(育てる)
2-12 まちのオフィス(働く)
2-13 まちの避難所・交番(守る)
2-14 まちのマーケット・マルシェ(楽しむ)
第3章 「まちのえき」の現状
3-1 「まちのえき」の現状と福祉的効果
3-2 高齢者の移動支援は「まちのえき」によって改善されたのか?
3-3 地域経済の活性化と多様な働き方の促進
3-4 脱炭素や循環型社会形成
3-5 ワーク・ライフ・コミュニティの融合による「自治体3《・》0」のまちづくり
3-6 「まちのえき」で見つけた素敵なエピソード
第4章 「まちのえき」の立ち上げ方
4-1 「まちのえき」実施への賛同・協力を集めよう!
4-2 「まちのえき」ワークショップの進め方
4-3 「まちのえき」の事業計画を創ろう
4-4 「まちのえき」事業、実施当日の流れ
4-5 行政の支援
第5章 成功のポイント
5-1 地域人材を発掘して、自治会長の負担を軽減しよう
5-2 地域に隠れている人材を発掘しよう
5-3 発信が一番のカギ
5-4 収益の確保、持続可能な運営
おわりに--「まちのえき」のこれから
著者プロフィール
小紫 雅史(コムラサキ マサシ)
1974年兵庫県生まれ。奈良県生駒市長。
1997年3月、一橋大学法学部卒業後、環境庁(現 環境省)入省。ハイブリッド自動車税制のグリーン化などに従事。2007年から在米日本国大使館に3年間勤務。
2011年に全国公募で生駒市副市長、2015年に生駒市長に就任し、現在3期目。市民と行政が共に汗をかく「自治体3.0」のまちづくりや先進的な人事政策などに取り組み、全国から注目を集める。2019年度マニフェスト大賞優秀賞受賞。シラキュース大学マックスウェル行政経営大学院修了(行政経営学)。
主な著書に、「10年で激変する!『公務員の未来』予想図」 (学陽書房)、「地方公務員の新しいキャリアデザイン(実務教育出版)」など。