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田中明美9

人を知る

【生駒市 田中明美 #9】市町村は目の前に住民が存在する

民間の力と行政の力を合わせたい

加藤:やり遂げたい仕事はありますか?

田中氏:AIもすごく進んでくるし、未来の動きをしっかりと読み込んで、自助でやれる部分と共助でやれる部分、そして、公助でやれる部分や民間が行うべきことを整理して、2025年問題に向き合いたいです。たとえば、民間の力と行政の力をどう合わせるかというところです。

加藤:民間と協力出来る部分は増えそうですか?

田中氏:そう思います。たとえば、地域のスーパーが移動販売を始めてくれました。買い物難民の問題を、何年がかりで対応するのかと思っていましたが、彼らが広く地域を回ってくれる。

 そうすることによって、行政がやらなければならないことが減ります。民間が地域貢献をビジネスとしてやってくれることで、それがまた雇用を生み出すという流れも大切なわけです。

先を見据えた地道な実態把握が必要

田中氏:これからは病院で最期を迎えることが難しい時代になります。重度の医療ニーズを抱えた人たちも、どんどん地域に帰ってくる見込みです。今の制度だけではその対応が出来ない。なので、地域包括ケアシステムの構築に向けたさまざまな課題整理のため、実態把握が継続して必要だと思っています。たとえば、地域にいる看護師のOBや一旦離職している人々等が、制度の隙間を埋める事業を展開することが可能かどうか、今後ニーズとして高まるであろう看護小規模多機能居宅介護の参入が可能かどうか等です。

 お金がある人は生活の質を高めるために制度外サービスの購入を考えてもらうのも一つでしょうし、先を見た施策を考えていかないと自治体が生き残れない時期が来ると感じています。その中で、市場の動きがどういうものなのか、“見える化”出来るようにしていく。日常生活圏域別の情報をしっかりと出していく。「このエリアはまだまだ高齢化が進む」とわかれば、民間も参入を考えるかもしれません。地道な実態把握が重要なのだと思います。

加藤:確かに、今、そういう情報はあまり見ないかもしれないですね。公務員に信頼があるから話を聞けるというのもあると思います。

田中氏:だからこそ、行政がそこを見える化することによって雇用を生んだり出来るのかもしれません。それは市内で完結しなくても良くて、よそから来てもらっても良い。「仕事を辞めて、何かしたいな」と思っている人に、参入しやすいエリアを提示することで、来てもらうことも出来るかもしれない。そういったことをマクロで考えていくことが急務なのでしょう。

 そうなると、今の部局で完結するものではない。先を見越して、まちをどう支え、経営していくかは、福祉の部局だけで考えるには限界がきていると感じています。生駒市には部課横断的な場を設けるために、地域包括ケア推進会議という横串の会議がありますが、そういった場も有効に活用しながら、多くの人の力を借りながら進めていきたいと思っています。

人と人の関係性があれば認知症は気にしなくても良い

加藤:他にも進めたいことはありますか?

田中氏:認知症への対応の質を高めたいと思います。このあいだも、認知症の研修講師で演習含めた講義を行いましたが、必要な経費も投じず、委託先の事業者に兼務でその仕事を託しておきながら、事業費を積算していない自治体が複数あり驚きました。業務は膨らむばかりで職員は疲弊しているため、事業者任せとなり質が低下するリスクがあります。認知症に対応できる人材確保のために、今、何をすべきかの基本が備わっておらず、事業名だけが並んでいる実態に驚きました。

 認知症は加齢に伴い発症リスクが高まる。長生きすればするほど、そのリスクは高くなる。これはなかなか防ぎようもなくて、WHOもそう言っている。となると、普段から馴染みの関係性を作っておき、たとえ認知症になっても「大丈夫。大丈夫」、「忘れても良いよ」って言ってくれる関係性が地域にあることが大事。それがあったら、極端なことを言うと、認知症の進行なんて気にしなくて良いとなるわけです。

 今、生駒では初期から中等度の認知症の方々が、症状進行を緩やかにするための取り組みも進めています。また、行きたい場所があるのに日時を忘れてしまって通えない人には、交通費の実費負担等を出しながら、一緒に通ってくれる認知症支え隊の養成に力をいれています。既に活動は始まっていますが、こうした取り組みの重要性を今後は国に提言していきたいと考えています。

市町村は目の前に住民が存在する

加藤:最後の質問です。地方自治体でお仕事される中で感じる醍醐味は何でしょうか?

田中氏:仕事の成果が人々の幸せに行き着くのが醍醐味です。そして、住民の声をきちんと分析をすれば政策に起こすことが出来る。民間だと商品開発ですよね。だけど、「利益をなんぼ出さなあかん」という仕事の仕方ではない。もちろん、限られた費用の中で、より高い成果を求められます。私たちの部署では費用低減や縮減にどうつながるかも問われますので、とても責任を感じています。

 そのような中で実践していることが、住民からリアルに「良い声」も「悪い声」もタイムリーに返ってくる機会に恵まれています。「ありがとう!元気になったわぁ!」って言ってくれる人もいて、それを課員一人ひとりが現場で受け止めることができる。そういった反応が即得られるのも市町村の良さだと思います。国は政策をつくるけど、個人からのリアルな反響はないわけで、県も同じです。市町村だけですよね、目の前に人がいるって。

編集後記

 現場のニーズを重要視し、それに適切な施策を確実に打とうとする田中さんの姿勢には、まさに仕事人という印象を感じさせる。

 介護事業所等に対して、今後の経営方針や事業計画について率直に聞けるというのは、公務員の特権のようにも思う。よその地域の民間事業者がヒアリングをしようとしても、普通なら門前払いになるのではないだろうか。その現場の生の声をもとに、短期から長期までさまざまな時間軸の中で、具体的な施策を実行していこうとする姿は圧巻であった。

「類型はあくまで典型例でしかない」という言葉の通り、田中さんは国が提示したモデルケースに対して、それが本当に生駒の現状に合っているのかを突き詰め、より住民に必要なモノを生み出そうとしている。それが出来るのは、田中さん自身の中で明確なビジョンが存在すると同時に、それに向けた地道なニーズ把握や試行錯誤が繰り返されているからだろう。

 生駒でさらなる実績が出れば、そのファクトをもとに国に提言をすることが出来る。それは、地方自治体と国の間に求められる理想的な関係であることは間違いない。そして、長年、田中さんはそれを意識して実行してきたのである。

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※本インタビューは全9話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

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