部長に忌憚のない意見を出してもらう
石塚:市長にお会いする前に職員の方に雲南市役所を案内していただいたんですが、雲南市は職員の皆さんがのびのびと働いている印象があります。最近働き方改革みたいな話もある中で、市長として職員が動きやすい環境を作るために心掛けていらっしゃることはありますか。
速水市長:物理的に一人ひとりの職員のみなさんに会うわけにはいかないので、月に2回部長会を開いて、そこで部長の皆さんに忌憚のない意見を思う存分出していただいています。最近はね、本当によく意見を出してくれますよ。
石塚:それは速水市長が受け止めてくださるからですよね。忌憚のない意見を言えとか言っておいて、本当に忌憚のない意見を言うと怒る人もいるじゃないですか。
速水市長:(笑)。各部長さんはそれぞれの部局に戻って「こういう意見を言ってきた」と伝えてくださってると思います。それからやっぱり若い人の取り組みで実現したものは見える形でみなさんに情報発信することですね。
例えば、雲南市と奥出雲町、飯南町で構成している「雲南広域連合」というのがあります。介護保険の保険者としてスタートして、今は消防、環境衛生、地域づくり、観光振興とか、ほとんどのことをやっているんです。広域連合の中で、1市2町の若手からの提言を出し合って、実現に移しています。例えば、30歳の成人式とか、男性の育休を取ろうとか。
それから、「UNNAN子育ち応援会議」という若いお母さん、お父さん方が、市役所のスペースで活動されたりしていますが、若い職員のみなさんが周囲のみなさんを巻き込んで実現しました。それは「自分たちが提案した結果だ!」という自負心、満足感につながっていると思うし、心を揺さぶるようなことをやっていかなきゃいけないと思いますね。
石塚:自分で提案したものを自分で形にして、それが人の役に立っていると実感できる環境があるとモチベーションが上がりますよね。
職員一人一人が自分の考えで行動を
速水市長:地域においても、子ども・若者・大人のチャレンジの連鎖がありますが、雲南市の職員は若者のチャレンジに関わる人がけっこう多い。その成果を発表する会もあり、職員のやりがいにつながっています。
民間の頑張りを疑似体験したり、お手伝いしながら雲南市が動いていることを体感できる。職員一人一人が自分の考えで行動する、その背中を同僚や後輩、先輩に見せる環境が必要なんだろうと思います。
石塚:職員は大体ほぼ全員が、チャレンジに関わっているんですか。
速水市長:そうですね、田舎ですし、向こう3軒両隣ですから。
最近では、そういう雲南市の取り組みを見聞きして、市外から移住してきて関わってくれる若い方も増えています。企業も協力的で、ヤマハさんと竹中工務店さんも若者の起業チャレンジに関わってくれているんです。他にもIT関係の企業数社からオファーをいただいているので、その受け皿を作っていかなきゃいけない。行政だけでは足りません。
地域自主組織を通じて市民のみなさんを巻き込んで、市民のみなさんと相談しながら若者や子どものチャレンジを支えていく。だから、全ての源は「地域自主組織」なんですね。
一つの自治体の中には必ず中心部と周辺部がある
石塚:ものすごく、腑に落ちました。
市長は「雲南市は田舎」と仰いますけど、逆に最先端ですよね。コミュニティーを核としたまちづくりをすれば、東京にも横浜にも横展開できるし、世界展開もできるはずです。
速水市長:どの自治体にも、必ず中心部と周辺部があるんですね。その周辺部は、かなりの空き家があって、自治会力が弱い。いつ出ていこうかなんて思っている人もいる。けど、空き家が多いとか、自治会力が弱い課題だらけの地域でも、安心、安全、新鮮な食材が取れる。
この素晴らしい環境を実感していただくためには、雲南市に来たり住んでもらったりするのが一番早い。「この地域は本当にいいところだよ」ということを住んでいる人からSNSなどで宣伝していただけるように、周辺部のITインフラを整え直す必要があると思っています。
実は雲南市の道路インフラは結構整っています。出雲縁結び空港は隣接の出雲市にありますが、空港から雲南市役所まで車で約15分なんです。空港から出雲市役所へは約40分かかりますから、実はとてもアクセスがいい。そこでITインフラも整っていたら田舎でも不便を感じないはずです。そういう社会を実現するための環境整備というのをほんとに急がないといけないと思います。
石塚:ちなみに、さきほど雲南市の職員さんに案内してもらっている時に5G(第5世代移動通信システム)活用の話をされて驚きました。私はITの専任職ですが、まちづくり系の職員から、5G活用のビジョンを聞くことは滅多にないです。
でも雲南市には市民にも職員にも「こういう地域を作りたい」という強いイメージが先にあることで、実現するための道筋を目指して自然に学び始めるのかと思いました。本日はありがとうございました。
(取材・文=石塚清香)
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