コラム

地方自治体と「V字回復の経営」

コラム

「V字回復の経営」の重要な指摘

 三枝匡氏の「V字回復の経営」という名著がある。民間企業のマネジメント層や、事業戦略に関わったことがある社会人であればご存知の方が多いだろう。この本では、事業運営の重要な考え方の一つとして、「全従業員が顧客を向く」ことを推奨している。特に重要な視点は、「全従業員が」というところである。

 従業員数が一定数を超えた企業(事業)あるあるだが、顧客と直接向き合わない企画職や開発職が内向きになるという現象がある。サービスを提供する相手のことよりも、社内政治の都合が優先されてしまうのだ。

 この内向き現象によって様々な課題が発生する。赤字の理由を他の部署に押し付け、自部署の都合でしか物事を見られなくなる。いくら部署ごとに部分最適をしても、部署間の断絶・停滞が解消されない。

 この他責の連鎖・積み重ねを解消するためには、「全従業員が顧客を向く」ことが重要なポイントとなる。ベクトルの方向を合わせるということだ。

官民共通の大切な視点

先日、「ちがさき市議会だより」が自宅に届いた。そこでは各会派の代表から茅ヶ崎市長に質問をする「総括質疑」なるものが紹介されていたのだが、質問の内容を眺めるだけでも、市が抱える課題点がよくわかる内容だった。

 質問内容のラインナップとしては、どの地方自治体でも悩みの種だろうと想像できる財政・子育て支援・災害対策・福祉あたりに集約される。個人的には広報に関する質問が一つしかなかったのが残念だったが、それに対する茅ヶ崎市長の回答が良かったので以下に引用する。

 茅ヶ崎市長「市民に、市のさまざまな取り組みに対する理解を深めてもらうには、職員一人一人が広報の重要性を理解し、行動することが重要である。意欲的かつ戦略的に広報活動を行おうとする意識の醸成や技術向上を図っていく。」

 ここで出てくる「職員一人一人」とは、広報課だけではなく、全部署全職員のことだと思う。私はこの回答を読んだとき、「V字回復の経営」に出てくる「全従業員が顧客を向く」という話を思い出した。住民の理解を得る努力をするのは、広報課だけではないはずである。

地方自治体職員によるSNS発信が、広報の正攻法になる時代

 私は「V字回復の経営」を読んだとき、民間企業の課題解決のヒントとしか想定していなかった。しかし、この本を「肥大化した機能別組織に対する処方箋」と定義するならば、地方自治体にも有効な考え方が凝縮されていると言える。

 茅ヶ崎市長の「広報の重要性を理解し、行動することが重要」と言うその真意は、顧客(住民)視点を全員が持ちましょう、ということだろう。

 以前のコラム「これからの働き方を考えたら、地方自治体がまず変わるべきことが見えてきた話」でも書いた通り、時代が求めているのは、一人一人の貴重な時間の使い道として選ばれるような地域づくり・人づくりができる地方自治体である。個人の影響力が急激に高まっていることを考えると、やはり職員一人一人がSNSで積極的に発信することがこれからの広報の正攻法と言えると思う。

 これこそ、茅ヶ崎市長の回答にある「意欲的かつ戦略的に広報活動を行おうとする意識の醸成や技術向上」に対する一つの解だ。広報を広報課任せにすることは、戦略としては愚策と言わざるを得ないし、既に発信をしている職員を疎ましく思う職員は、「V字回復の経営」で言うところの「改革抵抗者=改革のガン」に分類されてしまうだろう。

小野寺将人

1986年生まれ、神奈川県茅ヶ崎市在住。不動産情報ウェブサイト運営会社、お出かけ情報ウェブサイト運営会社にて営業・企画職を経た後、現在はヤフー株式会社にて企画職に従事。またハンドメイドアクセサリーブランドのm'no【エムノ】のウェブマーケティングも行う。

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