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地域の未来 Vol.5 ゆるキャラ、バズ動画、工場誘致…残念な地方創生はなぜ起こるのか

解決すべき問題の決定をするのは首長
(記事提供=METI Journal )

 

 東京一極集中をどう是正するか、移住者をどう増やすかなど、地方創生にまつわる議論や取り組みが盛り上がっている。政府は従来のような「日本全国一律に支援します」というスタンスから、「頑張る市町村を集中的にサポートします」というスタンスに大きく方針転換しつつある。 しかし、地域の問題が解決されるどころか、どんどん問題が悪化し泥沼にはまっている市町村もある。 なぜ、「残念な地方創生」が起こってしまうのか、日南市マーケティング専門官の田鹿倫基氏に寄稿してもらった。

「問題」と「課題」の混同

 まずは「問題」と「課題」の混同だ。問題を解決するためには大きく3つのサイクルがある。(1)解決すべき問題の決定、(2)問題解決のための適切な課題の設定、(3)設定された課題を正確に実行するー。

 問題とは「理想の姿と現実の姿のギャップ」のことをいい、課題は「そのギャップを埋めるために取り組むタスク」のことをいう。問題と課題の定義についてビジネスの場では当たり前のように区別されているが、こと地域活性化や地方創生の分野になると急に曖昧になってしまう。

 地域の問題を解決するための3つのサイクルにおいて、官(行政)、民(企業)、政(政治家)の役割分担がとても重要なのだ。(1)の解決すべき問題の決定をするのは政治家(主に首長)だ。極論を言えば政治家はそのために住民から投票というカタチで選ばれている。どの問題を解決するのか、それをやってくれるリーダーを選ぶのが首長選挙である。

課題の設定は民間が得意

 次に(2)の問題解決のための適切な課題の設定は民間が得意とする領域だ。理想と現実を的確に把握し、その差を埋めるための課題をロジカルに設定する力は民間企業の商品・サービス改善で培われている。そして最後の(3)の設定された課題を正確に実行することに関しては官(行政)が最も得意とする領域だろう。

 そもそも行政は一定の試験に合格している人たちの集団。与えられた課題(タスク)を正確に時間内に処理する力の高い人たちの集まりのはず。 一方で自ら課題を設定する機会は多くない。

  自治体の施策といえば、同じようなイベントをやったり、ゆるキャラを作ったり、動画を作ったり…。果たしてそれが地域の問題解決につながるのか疑問なのに実施しているのは、適切な課題の設定が苦手な意思決定組織だからともいえる。
 
 例えば、移住促進PR動画を公開したところ瞬く間に話題になり、再生回数が100万回を超え、全国放送でも何回も取り上げられた自治体がある。では、その後、移住者の数に変化はあったのか?統計を見る限りは、動画を公開する前よりもその自治体への転入者は減少している。

 作られた動画のクオリティーはとても高く、面白い仕掛けもされていて、つい何度も見てしまう。動画の再生回数を増やす、という観点からすると大成功だった。ただ、これはあくまで動画のできが素晴らしかっただけであり、移住者を増やすために設定した課題が移住PR動画をバズらせる、ということにすり替わってしまっている。

かつては補助金メニューを選ぶだけ

 戦後から長い間、 地方公務員は国の各省庁からスキームと補助金がセットになったメニューを出され、そこから自分たちが取り組みたい課題を決めて導入すればよかった。それを民間事業者に発注しておけば地域経済は回っていた。人口も増加していたので筋の悪い課題を設定していても、自然と問題が解決されていた。

 しかし、日本は世界でもまれに見るスピードで高齢化が進み、人口の急激な減少が見込まれ、もはや日本が参考にできる国がなくなった。国もこれまでのように成功国の事例を補助金メニューにカスタマイズして、全国の市町村に導入するだけではダメだということを悟った。当然、市町村側のマインドも変わらなければならない。

「目的」と「目標」の乖離

 「問題」と「課題」の混同と同様に、自治体が陥りやすい残念な地方創生は、「目的」と「目標」が乖離してしまうケースだ。目標というのは「標(しるべ)」と書くようにどこか行きたい場所があり、そこに向かうために参考にする案内板のようなもの。実際の案内板にも◯◯まであと5kmと書いてあるように、目標は数値化もしくは言語化されている。一方、目的は「的(まと)」と書くように到達したい、もしくは到達すべき場所、状態のこと指し、必ず数値化・言語化できるとは限らない。

 人口問題にあてはめてみよう。人口減少を少しでも緩和することを目的にすると、「毎年500人が減っていれば、それを300人に抑えて、30年後に人口◯万人の維持を目指す」となってしまう。施策の中に目標数値を入れること自体はよいが、この目標が「人口の絶対数」で正しいのかを冷静に考える必要がある。

 日本の人口は2008年の1億2800万人を頂点に減少局面に入り 、このままいけば2041年に1億人の大台を下回ってしまうと言われている。1億人といえば1966年の頃だ。

人口問題の本質

 「1966年のころは1億人でもすっごく賑わいがあったよ!」と昔を思い出して言う人もいるが、1966年の日本の平均年齢は29歳。生産年齢人口がどんどん増えるときの1億人と、高齢者人口がどんどん増えるときの1億人は全く違う1億人なのだ。人口の絶対数ではなく、人口構成を見なければ、問題の重大さや、その問題解決のための課題設定はできない。

 当たり前の話だが、生まれたての赤ちゃん、働き盛りのビジネスパーソンと100歳のおばあちゃんは同じ人口1人でも、その役割や必要な社会的援助は全然違う。そのような幅広い年齢の人を「一人」とカウントし、目標に設定することは間違った標になりかねない。

 地方創生の文脈において「人口減少が問題だ」と指摘されるが、厳密に言うと、人口減少自体が問題なのではない。地域にとっての本当の問題はその地域の持続可能性が損なわれ、地域が消滅してしまうことである。それを防ぐために地域の持続可能性を高めることが大事なのだ。

持続可能性を保つ

 それを踏まえて地方にとっての目的は何かというと、「地域に根ざす伝統や文化、産業、経済などを次世代(=若者)につなぎ、進化させ、地域の持続可能性を高める」ということになる。

 では、地域の持続可能性を高めるためには何を標としなければならないのか。それは「地域の人口構成をドラム缶状に整える」ことだ。その地域の適切な人口は、面積や産業、交通事情、周辺の地域との兼ね合いなどで変わる。しかし、どんな地域においても、人口構造が歪(いびつ)であれば、その地域の持続可能性は損なわれていく。

 多くの若者が都会に出てしまって帰ってこなければ、そのうちその地域から出産適齢期の女性がいなくなり、子供が生まれなくなる。逆に子供がたくさん生まれ、若い人がどんどん増えてくれば(昔の日本がそうであったように)働き口が不足してしまう。地方で廃校が増える問題も、都会で待機児童が出る問題も人口減少自体が原因なのではなく、「人口構造が歪なること」で発生している。

世代間の歪みを是正

 地域の人口構成が各世代同じ人数になっていれば(歪がなくドラム缶状になっていれば)、あたらしく幼稚園を作る必要もなく、介護施設を作る必要もなく、今あるインフラを維持修繕してだけで財政負担も少なくなる。

 つまり、地方創生における地方側の目標は人口の絶対数に置くのではなく、世代間人口の歪みの是正に置くべきで、各年齢層の歪みを何%以内にする、といった数値を目標にしなければならない。

 また、目標は目的との最短距離上に設定することを心がけないといけない。そうでなければ、目標は達成しているけれど、どんどん目的から離れていく、といった疲労感しか残らない残念な状況に追い込まれる可能性があるからだ。

観光客を増やしてもダメ

経験がときには思い込みにかわり、施策に反映される

経験がときには思い込みにかわり、施策に反映される

 

 「問題」と「課題」の混同と「目的」と「目標」が乖離は、往々にして勘、思い込み、経験、思いつきによる個々の政策がバラバラな状態から起こる。 観光客数を増やすことや、工場の誘致もその代表例。観光客を増やしても、工場を誘致しても地域の活性化になるとは限らない、と言われると意外に思うかもしれない。

 活性化の定義をどうするかという論点もあるが、先述した「人口ピラミッドをドラム缶状にする」ことを活性化として考えてみる。例えば、たびたび人気の温泉地ランキングでもトップ10に入るある温泉地。平日でもたくさんの観光客で賑わう。ではさぞかし地元は活性化しているのだろう、と思って人口動態を見てみると、高校を卒業した若者がどんどん町外に流出し、人口流出率は県内でトップだったりする。

 この背景は観光産業が地元経済への波及効果を産んでいないことが要因だ。仮に年間数千万人単位の観光客が来て、温泉を楽しみ、飲み食いをして、宿泊しても、食材は県外産がほとんど、ホテルは東京資本となれば、消費されたお金は地元に還元されにくい。結果としてその他の産業に波及せず、雇用が生まれない。

 本当に観光で雇用を作り地方創生につなげるのであれば、観光客数だけでなく、一人あたりの消費単価、域内調達率(顧客に提供された商品・サービスがどれくらい域内で付加価値が付けられているか)の3つの因子を見ることが大事になる。

工場誘致は逆効果も

 工場誘致に関しても同じことが言える。 そもそも地域は雇用を作る必要があるのか、製造業は雇用吸収力が高いのか、の2点を考える必要がある。 現在、多くの地方都市は事務職以外の職種はすべて求人数が求職者数を上回っている。つまり、事務職以外の職種は人手不足の状況で雇用をしたいけど、働き手が見つからない、という状況に陥っている。

 これは景気がよいからではなく、少子化と若者が流出した結果、生産年齢人口が縮小していることが原因だ。製造業についてはその傾向が顕著で、ただでさえ人手不足に頭を悩ませているのに、そこに工場を誘致したら地場企業の経営をさらに圧迫するだろう。

 ゆるキャラやPR動画だけでなく、地域の活性化に直結すると思われてた観光客増加や工場誘致も現在の環境だと逆に地域の重荷になってしまうことがある。行政の意思決定者は基本的に50歳以上の経験豊富な人が多い。その経験がときには思い込みにかわり、施策に反映される。だからこそ、データや根拠にもとづき、論理的に施策を組み立てることが大切なのだ。

田鹿倫基

田鹿倫基氏

【略歴】
田鹿倫基(たじか・ともき)1984年生まれ。宮崎大学を卒業後、リクルート事業開発室に勤務。インターネット広告の新規事業の立ち上げを行う。その後、中国の広告会社、爱德威广告上海有限 公司に転職し、中国人スタッフとともに北京事務所の立ち上げを行う。2013年からは宮崎県日南市のマーケティング専門官として着任し、地域のマーケティング事業を行う。ベンチャー企業との協業事業や、自治体のブランディング活動。企業の誘致。起業家の育成・誘致。農林水産業の振興、地域の人口動態を踏まえた地方創生関連事業を行う。

※本特集は全10話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

【連載】地域の未来

【1】インタビュー 多摩川精機 萩本範文副会長
【2】イノベーションは地域から起こる
【3】地域のネットワークで取り組む未来への投資
【4】体験を売る!観光の新しいカタチ
【5】残念な地方創生、もはや従来型のシナリオは通じず
【6】日本の食の可能性、地域商社で世界へ売り込め
【7】スポーツが変える地域の姿
【8】商店街が復活することはできるのか?
【9】インタビュー Recruit Ventures 麻生要一室長
【10】対談、自治体が変わる!首長が変わる!
京都府与謝野町の山添藤真町長×和えるの矢島里佳代表

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