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地域の未来 Vol.6 グローバル時代だからこそ地元のチカラ

道の駅「四万十とおわ」は地元産品を求める客で賑わっている
(記事提供=METI Journal )

地域経済を引っ張る地域商社

 地元の特産品を地域から全国、さらには世界へと販売していこうという地域商社の活動が活発になっている。地域をもっとも支えることができるのは、やはりその地域の人たち。自らの力でビジネスの最前線に挑む地域の挑戦を追った。

地域密着で事業展開

 「どんな人がどこでどのような作り方をしているのか。そういう地域に根ざした背景があるものを加工し売っている。それが地域商社」と、四万十ドラマ(高知県四万十町)社長の畦地履正さんは話す。同社は栗や茶など地元で収穫した素材でスイーツなど商品開発し、ネットや道の駅、県外の生協や百貨店などで販売している。

 四万十ドラマは四万十川の中流域を舞台に、地域密着で事業を展開している。1994年に四万十川流域3町村による第三セクターとして発足し、2005年に民営化された。そのコンセプトは「ローカル・ローテク・ローインパクト」。地元に根ざし、そこの農産物などを使った1.5次産業で、四万十川に負担をかけないモノづくりを目指す。四万十ドラマでただ一人の社員(社長は各町村長の持ち回り)として、農協職員から転じた畦地さんは、民営化した後の2007年に社長に就任し、四万十川の自然環境と共生するそんなビジネスモデルに取り組んできた。

地元の素材を使ってオリジナル商品を開発

地元の素材を使ってオリジナル商品を開発

 

 代表的なところでは2008年に商品化した「しまんと緑茶」。それまで四万十の茶はブレンド用として100%静岡に送られていたが、自分達のお茶を作ろうと生産組合と取り組んだ。今では茶葉の50%以上を自らのブランド向けに消費している。また10年前には、およそ40年ぶりに四万十の紅茶を復活させている。四万十の十和地域では戦後から紅茶を栽培していたが1960年代には途切れていたという。そのほかヒット商品としては1997年に売り出した「四万十ひのき風呂」がある。間伐材の端材にひのきオイルを染みこませ、風呂場に置くだけで“ヒノキ風呂”を堪能できる。

地域の宝をもう一度

 最近力を入れているのは、甘さに特徴のある地栗。この地域では、かつて年間で800トンの収穫があった栗だが、5年ほど前には18トンまで落ち込んでいた。そこでスイーツなど栗を使った商品を次々と開発。地域では栗の植樹も進めており、昨年は35トンまで回復したという。ここに枝の剪定の工夫なども加わり 今年は50トンの収穫になるという。

甘さに特徴のある地栗を使ったスイーツ

甘さに特徴のある地栗を使ったスイーツ

 「地域に昔からあった宝をもう一度見直して菓子などオリジナル商品を作り、全国や世界に広げる」と畦地は説くように、栗を使った商品開発は毎年のように手がけている。一度は絶えていた紅茶の生産も現在は年5トンを超えるところまで回復。地域活性化が栗林や茶畑という昔からの風景を守ることにもなっている。そして「地元産を地元で加工することで、雇用にもつながりだした」(畦地さん)。東京から移り住んだパティシエもいるという。

 四万十ドラマでは2007年に道の駅「四万十とおわ」の指定管理者となり、地元物産を次々と販売するアンテナショップとしても活用。年間15万人が訪れる。地元素材を使ったオリジナル商品をそろえたことで、規模は小さいながらも黒字運営を続けている。その実績が買われ、今年4月に京都府南山城村、7月に石川県羽咋市でそれぞれオープンした道の駅に、四万十とおわで培った運営ノウハウを提供するなど、活動の場は広がっている。

7社の地域商社が連携

 沖縄の地域商社が、新しい試みに乗り出している。沖縄県内の地域商社7社が連携した取り組み「FTP」のことだ。正式名称を「食品輸出等に関する戦略的連携協定」という。2017年3月に新垣通商、アンドワン、沖縄県物産公社、沖縄物産企業連合、萌(きざ)す、JCC、BRIDGESでスタートした。地場の老舗から大手、ベンチャーまで、外から見れば競合している県内商社が一通り顔をそろえる。その狙いは、各社の強みを寄せ合い、日本の食品を沖縄から発信することだ。県内にとどまっていては市場は大きくない。しかしアジアに目を向ければ、そこには巨大な市場が広がっている。

 各社とも沖縄に本社を置き、加工食品や生鮮、飲料、食品原料、雑貨など沖縄の産品を中心に各分野で固有の商流を持つ。また国内に小売り店網を持っていたり、飲食店を運営していたり、飲食店の海外展開にたけていたりと、それぞれ異なる強みも併せ持つ。新垣通商(那覇市)の新垣旬子社長は「小さな輪が大きな輪になる。各社積み重ねてきたものが違う。それぞれ『種』を持っている」と連携の意義を説く。

「LINEでアイデアを話し合う」(新垣さん)

「LINEでアイデアを話し合う」(新垣さん)

 

 FTPは2016年11月に同じ7社で発足した研究会をベースにしている。研究会発足以前は、それぞれが一部の経営者と顔見知りだった程度。そのためお互いにビジネスの話に踏み込むこともなかった、「今は(スマホアプリ)LINEでアイデアを話し合う」(新垣社長)まで協力関係が深まっている。

FTPで弱みを補う

 連携を支援した内閣府沖縄総合事務局経済産業部は、「連携は各社の希望があってこそ。1社でできなかったことが対応可能になる」(商務通商課)と期待する。FTPでは仕入れ先や販売先の情報交換を手始めに、連携相手の取引口座を使った販売に取り組む。

 「成功パターンを知ることができた」と効果を語るのは、アンドワン(那覇市)の久手堅(くでけん)憲雄代表社員。同社は2015年に創業したばかりで、7社の中でも新興の商社。久手堅氏自身はこれまで香港、台湾でのビジネスには携わっていたが、さらに「予備知識がなかった」部分をFTPで補い、海外展開に力を入れる。

 シンガポールの日系百貨店での催事では、自社がシッパー(輸出者)となり、JCC、萌すと連携。自社で扱っていない沖縄産マグロなど生鮮品や海産物を、新たな商流に乗せることに成功した。久手堅氏は「今後は県外商品も積極的に扱いたい」と、自社ラインナップ強化にも意欲を見せる。

「成功パターンを知ることができた」(久手堅さん)

「成功パターンを知ることができた」(久手堅さん)

 

 地域商社にも当然、得手不得手がある。それを補完し合うのがFTPだ。ある商社が持つ百貨店の商流は他社メンバーも利用し、黒糖は得意でも海産物を扱っていない商社は、他社から海産物の融通を受け、取り扱い商品を増やす。各社共通する課題を解決しながら商流を太く、多様にするとともに、貿易業務やフォーマットの共通化によるコスト削減、専門人材を必要とする分野の共同化なども連携の視野に入っている。

背景に那覇空港のハブ化

 もともとすみ分けができていた商社同士が交流を活発化した背景は何か。それは沖縄にある変化が起きたためだ。その一つが那覇空港の航空物流ハブ化である。

 那覇空港への全日本空輸(ANA)グループの貨物事業の立地で、沖縄はアジアと日本を結ぶ物流網の結節点となった。経済的に「日本の端」だった沖縄が「アジアの中心」と捉え直され、各社の意識も変わった。アジア市場へ展開する意識が生まれてきたのだ。

 商社にとっては強みであるはずの専門性が、そこでは壁になった。取引先から専門分野以外の商品を求められても、自社には仕入れ先がない。ただ販売先と仕入れ先の拡大をすべて自社で取り組むのは難しい。その解決の糸口がFTPだ。地域商社の強みはやはり専門性。決して「総合」商社ではない。それでも総合力が求められる場合は、「自社の総合化」ではなく、自社の強みを残した「連携による総合化」で解決する。

台北駅に隣接する台北地下街で日本の物産をPRしている

台北駅に隣接する台北地下街で日本の物産をPRしている

 

台湾にアンテナショップ

 新垣通商は6月、台湾・台北市内の地下街に常設アンテナショップを開業した。台北駅の地下という好立地に加えて「問屋街が近く、プロが見に来やすい」(新垣社長)。そんな商機をつかみやすい立地は、FTPでの活用を意識した場であると同時に、沖縄だけでなく日本全国の商品を展示する受け皿とも位置づける。

 新垣氏、久手堅氏がFTPについて口をそろえるのが「連携は沖縄県内に限らない」ということだ。全国各地には専門性を持った地域商社がある。エリアを越えた総合力を発揮することで、より強力な商流の可能性がまだまだ広がっている。

※本特集は全10話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

【連載】地域の未来

【1】インタビュー 多摩川精機 萩本範文副会長
【2】イノベーションは地域から起こる
【3】地域のネットワークで取り組む未来への投資
【4】体験を売る!観光の新しいカタチ
【5】残念な地方創生、もはや従来型のシナリオは通じず
【6】日本の食の可能性、地域商社で世界へ売り込め
【7】スポーツが変える地域の姿
【8】商店街が復活することはできるのか?
【9】インタビュー Recruit Ventures 麻生要一室長
【10】対談、自治体が変わる!首長が変わる!
京都府与謝野町の山添藤真町長×和えるの矢島里佳代表

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