主張・意見

地域の未来 Vol.3 成長の源泉は地域にあり

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北海道のバイオ産業をリードするアミノアップ化学

(記事提供=METI Journal )

産官学に住民が加わるネットワークで存在感

 現状の停滞感を打破するには、地域の力が欠かせない。なぜなら次世代の成長産業のヒントがそこに隠されているからだ。地域が持つ強みをどう生かすのか?、地域が抱える課題をどう解決していくのか?、そんな一様ではない、それぞれの地域のカタチこそ、わが国にとっては成長の源泉に他ならない。そこで、バイオ産業の拠点として花開きつつある北海道と、地域の課題を先取りしICT産業創出を狙う福島県会津若松市の事例を見る。

北海道の食材を産業に

 北海道で、食の付加価値を高める機能性素材の産業が立ち上がりつつある。そこで存在感を示している企業がアミノアップ化学。北海道の大学や研究機関、行政などと連携し、北海道のバイオ産業をけん引。北海道産の食材を生かした研究開発に力を入れている。免疫力向上効果があるとされるAHCC(担子菌由来培養抽出物)や、美容などの効果があるとされるライチ由来の低分子化ポリフェノール「オリゴノール」など多くの機能性素材を開発してきた実績を持つ。
 
 同社は2013年に始まった北海道独自の「北海道食品機能性表示制度(愛称=ヘルシーDo)」の制定にも尽力。製品の研究開発とともに、関係機関との連携した取り組みも含め、道内バイオ産業活性化の道を着々と進めている。

ブランド価値を実感

 「北海道と言えば、一度は行ってみたい異国のようなイメージでは」。そう語るのは、アミノアップ化学の創業者でもある小砂憲一会長。ただそれ以上に北海道の魅力となっているのは、豊かな自然が生み出す食材だろう。実際、豊富で新鮮な食材は、国内外で高い評価を得ている。同社は1989年に道産青じその葉を使った抗アレルギー物質「シソエキス」を開発し、発売したが、ある販売代理店から「商品に北海道産と入れてほしい」と求められた。その時、小砂会長は初めて北海道のブランド価値を実感したという。

食品の機能性素材であるAHCC(担子菌由来培養抽出物)培養タンク

食品の機能性素材であるAHCC(担子菌由来培養抽出物)培養タンク

 

 これまで自社での開発に加え、ヒト介入試験などの治験や分析などで北海道大学や札幌医科大学など道内の大学とも連携してきた。「道内の大学は、農業分野で常に新しい研究開発を追求している」と小砂会長は強調する。

認定制度で行政と連携

 行政などと連携した取り組みとしては、2013年に始まったヘルシーDoが挙げられる。加工食品に含まれる機能性成分に対し、「健康でいられる体づくりに関する科学的な研究」が行われていることを北海道が認定する制度だ。2003年に高橋はるみ知事が就任した際、「北海道の素材を全国に広めていく取り組みをしたい」と小砂会長は働きかけたという。

 2017年3月時点でヘルシーDoの認定商品は41社78品目となった。一定の成果を示しながらも、全国展開という意味ではまだ十分ではない。そのためには認定商品をさらに増やすことが欠かせない。小砂会長が目標に掲げるのは200品目だ。しかし新しい機能性素材を開発するには、多額のコストや長期にわたる時間がかかる臨床試験が避けられない。中小企業にとって、そのハードルが高いのは否めなかった。

江別モデルで研究開発促進

 そこで注目されているのが、北海道情報大学(北海道江別市)の西平順教授による食の臨床試験システム「江別モデル」だ。江別モデルは北海道情報大学や江別市などが連携し、地域住民ボランティアと一体になって、食品の臨床試験を実施するもの。地域住民が継続的に臨床試験に協力することで、より質の高い試験を低コストで行うことができる。そのため中小企業も手軽に利用でき、参加する住民側にとっても健康チェックや健康増進につながるメリットがある。江別モデルが全道に広がれば、研究開発がより活性化する。小砂会長は「道民への浸透とともに、北海道の食材の輸出拡大にもつながってくる」と、道民と一体となった食産業の発信に期待をかける。

 北海道ではアミノアップ化学などが中心となり、機能性食品に関する国際的な学会を定期的に開催している。今年も7月8-9日に「統合医療機能性食品国際学会 第25回年会(ICNIM2017)」を札幌市内で開催し、28カ国から研究者が参加した。「第3回 国際交流会」も開催し、道内大学と海外大学との連携した研究を促進している。

「健康問題は世界的なもの」(アミノアップ化学会長の小砂さん)

「健康問題は世界的なもの」(アミノアップ化学会長の小砂さん)

 北海道バイオ工業会会長も務める小砂会長は「健康問題は世界的なもの」と指摘。世界市場を見据え、オール北海道で北海道の食を世界に広めていく構えだ。

国内外からICT企業を呼び込む会津若松

 NEC、富士通、NTT東日本、インテル、アクセンチュアといった国内外の大企業が続々と福島県会津若松市に集まっている。

 なぜ、地方都市にすぎない会津若松市にこれだけの大企業がやって来るのか。会津若松は城下町として栄えた歴史を持つ観光地だが、東京からは新幹線を使っても3時間かかり、立地に恵まれているわけではない。人口も12万人にすぎない。むしろ少子高齢化が進み、このままでは地域の活力が失われてしまう岐路に立っている。最先端ビジネスを展開するICT企業の進出先として、決して魅力的な都市とは思えない。

 しかし、そんな「典型的な地方都市」であることが、企業の進出動機となっているという。会津若松市が抱える行政、医療、農業、観光、雇用などの課題はどの地方都市にも共通する。つまり会津若松で地域の課題を解決できるICTサービスを開発できれば、そのまま他の地方都市にも横展開できるというわけだ。

会津若松市は人口12万人の典型的な地方都市

会津若松市は人口12万人の典型的な地方都市

医療・健康サービスの事業化から

 2016年度にスタートした「会津若松市IoTヘルスケアプラットフォーム実証事業」は、地域課題解決と新サービスの創出の両立を狙う。NEC、インテル、GEヘルスケア・ジャパン、クックパッド子会社「おいしい健康」など15社以上が参加するほか、市民100人に携帯端末を身につけてもらう。脈拍や食事、睡眠などの健康情報をネットワーク経由で収集し、企業はそのビッグデータを解析して健康増進につながるサービスの開発を目指す。

 例えば、おいしい健康は、体調や直近の食事を分析しお薦めの献立を提案する。損保ジャパン日本興亜ひまわり生命は健康行動支援を提供する。地元の病院も参加しており、連携によってはきめ細かい保健指導メニューを市民に提供できる。

 今回の実証事業では、ICTを駆使した医療・健康サービスの事業化を狙う企業が多い。市はそういった企業に実証の場を提供し、企業は実践さながらの環境で技術を鍛えられるので、サービスの完成度を高められる。一方で市側も、サービスが実用化できて市民の健康増進につながると、将来の社会保障関連費用の増加を抑えられるというメリットがある。

農業、観光でも取り組み始まる

 医療・健康分野以外でも、会津若松市では地域活性化と最先端ICTの実証が両輪となっている。農業分野ではイオンリテールや東京農業大学と連携している。栽培、輸送、店頭までの農作物の栄養価や水分量の変化を測定。そのデータを解析し、店頭が求める品質の農作物を、売れるタイミングで届けられる農業を目指す。会津産農産物の付加価値を高め、農業を活性化する戦略だ。

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 観光分野ではアクセンチュア、ポニー・キャニオン、エグジットチューンズが外国人向けの観光案内サイトを開設した。出身地域や国籍による好みの違いを分析し、観光コースを提案する。「外国人」をひとまとめにした情報発信ではなく、一人一人に興味を持ってもらえるスポットを紹介し、誘客につなげる。

リーマンショックがきっかけに

 会津若松市がICTをフル活用した地域活性化に取り組むきっかけとなったのは、2008年のリーマン・ショックだった。それまで地域経済を支えていた半導体工場が、景気の急激な悪化で規模の縮小に追い込まれた。しかし、当時この地域での求職者は意外にも少なかったという。実際には失業者が多いはずなのにだ。市内での就職を諦め、市外や県外に職を求める人が多いのではと推測された。このまま労働人口が流出してしまうと、人口減少に歯止めがかからなくなる。そんな危機感がいやが上にも高まった。

 かつて地域活性化の主役といえば工場誘致だった。しかし景気の変動やモノづくりの海外移転で、せっかく進出した工場が閉鎖に追い込まれると元の木阿弥になりかねない。しかし地域課題と結びつき、地域に根をおろしたビジネスなら撤退の恐れが少ない。そう市は考え、ICTに活路を求めた。

 市内にICT専門の会津大学があることも好条件だった。会津大学は卒業生の80%が県外に就職先を求めていたが、市内にICT産業が立ち上がればその受け皿ともなる。

 市は東日本大震災の後、ICTによる地域活性化「スマートシティ会津若松」をスタート。2015年7月には、アクセンチュア、イオンリテール、インテル、SAP、NEC、富士通、凸版印刷、NTT東日本、日本郵便などが参加する「会津若松市まち・ひと・しごと創生包括連携協議会」を発足させた。現在は40社・団体以上が参加する。12万人の地方都市にこれだけの企業が集うのは珍しい。

500人が就業できるICTオフィスビル(完成イメージ)

500人が就業できるICTオフィスビル(完成イメージ)

地元企業との連携も

 会津若松市の室井照平市長は「土俵を大きくした。企業が競い合えばアイデアが出やすい。ICTなので、職場が東京である必要はない。大企業で活躍する人がやってくると、地元企業にも刺激になる」と地域への波及効果に期待をかける。

 実際に地元企業との連携も生まれている。冒頭の「会津若松市IoTヘルスケアプラットフォーム実証事業」にも本田屋本店、エフコム、アサヒ電子といった地元企業、会津大学発ベンチャーの会津ラボ、GClue、デザイニウムなどが参加する。大手企業が持ち込んだ最新技術が地域にも蓄えられる。

 NECは4月、事業推進を強化しようと市内に「会津イノベーションセンター」を開設した。市も500人が就業できる、ICT企業向けオフィスビルを建設し、2019年3月に開業する。会津若松の試みは、いよいよ雇用創出の段階に入ってきた。

※本特集は全10話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

 

【連載】地域の未来

【1】インタビュー 多摩川精機 萩本範文副会長
【2】イノベーションは地域から起こる
【3】地域のネットワークで取り組む未来への投資
【4】体験を売る!観光の新しいカタチ
【5】残念な地方創生、もはや従来型のシナリオは通じず
【6】日本の食の可能性、地域商社で世界へ売り込め
【7】スポーツが変える地域の姿
【8】商店街が復活することはできるのか?
【9】インタビュー Recruit Ventures 麻生要一室長
【10】対談、自治体が変わる!首長が変わる!
京都府与謝野町の山添藤真町長×和えるの矢島里佳代表

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