寄附を臨時会で承認し、災害復旧に充てる
加藤:南房総市では、ふるさと納税の使途をどのように指定できますか?
松田氏:「子どもたちの笑顔を育む事業」という、子ども医療費助成事業や、障害のある幼児児童生徒の自立支援教育をおこなうもの、「自然環境を活かした地域づくり事業」として森林の再生などを手掛けるものなどがあります。
加藤:災害復旧に絞った個別項目はないですよね。それは「自治体にお任せ」から捻出して使われるということでしょうか?
松田氏:予算を立てるときには「自治体におまかせ」から災害復旧のものに使っていきます。保育園から中学校までの学校の修復と、道の駅などの観光ものの修復です。9月の議会と、10月の臨時議会で次の3月議会に向けて細かな使途を検討しますが、臨時会でその都度使えるように議決しています。寄附をして下さった方にしてみれば、「早く使ってくれよ」と思いますよね。
関係者とふるさと納税の計画をまとめたい
加藤:今、進めたい仕事はありますか?
松田氏:本来、役所の仕事って、何かの計画に沿って事業を進めていくじゃないですか。でも、ふるさと納税はできて10年ぐらいの制度なので、どこの自治体にも『ふるさと納税推進計画』みたいなものがあまりないんです。
だから、事業者さん達や関係者と相談して、ふるさと納税というツールで皆さんがどうなりたいのかをまとめたいです。一方、市ではどうお金を使いたいのか、幹の部分だけでも決めたい。A4の1枚にまとめるだけでもいいんです。そうすると方向性がぶれませんので。
加藤:最初に仕事を立ち上げた人に、最も思い入れがありますよね。
松田氏:私もふるさと納税の担当として古株になりつつありますが、担当者が異動しちゃうと、前の年まですごかったのに「あれ?」ってことも起こります。それは金額だけじゃなくて、取り組みとしてももったいないこともあるんですよね。
ふるさと納税を、お金じゃない部分で活かしたい
加藤:ワールドビジネスサテライトに取材を受けた松田さんが「ふるさと納税は高額返礼品を送ることではない」と話している映像がありました。ふるさと納税はどう使われるとよいでしょうか?
松田氏:お金じゃない部分を活かしていく可能性はすごくありますよね。元々、卸しかやっていなかった事業者さんが個別配送、宅配のノウハウを貯めているので、ネット通販とかに出て行く時にすごく大きな武器になると思うんですよね。しかも、小さな事業者さんほど、売上が伸びればそれを有効に使えるんです。例えば、後継者を見つけたとか、息子が継ぐって言ってくれた事例だってあるんです。
加藤:ふるさと納税をきっかけに寄附して、後日、直接発注する方もいるのでしょうか?
松田氏:はい。毎月毎月何万円も寄附されるような、ふるさと納税のヘビーユーザーの方があるときピタッと商品の注文が止まったんですよ。もしかしたら事業者さんが何かミスしちゃったのかなと思ってたんですが、事業者さんに聞いてみるとそのヘビーユーザーの方は飲食店を経営していて、直接発注が来るようになったんですって。
寄付額が減るので市の財源は減りますけれども、単なる税金の控除という話だけではない。そういうことがバンバンを起きればいいと思っているんですよ。むしろ、そのためにやっているところもあります。
事業者さんのお店で焼きのりを買った方が、「ふるさと納税でこれいただいたんです。今日は返礼品をもらった他のお店にも回っています」って言い残して帰られたり、事業者さんへアンケートを取っても、「返礼品をきっかけにお店に買いに来られた方がいる」と回答があります。店頭で話した方がいたので「いる」と答えてるんでしょうけど、何も言わない方も結構いるんじゃないかと思うんですよね。
返礼品を出すことで、市の施策を良くしたい
加藤:他にもふるさと納税で印象深かったことはありましたか?
松田氏:ありました。ある事業主さんがアウトレット干物という、皮がめくれちゃった干物とか、ちょっと折れちゃったというやつを返礼品として送っているんですね。そのアウトレット干物をやろうとした理由がすごいんです。
南房総市は中学3年生まで、1回300円の負担で病院にいけるように医療費を助成していて、その原資はふるさと納税の寄附から割り当てられています。ある時、アウトレット干物の従業員の方が、高校1年生のお子さんを病院に連れていくと、結構お金がかかったらしいんですよ。
そこで、事業主さんが「アウトレット干物として出したら売れると思うから、医療費助成を高校3年生まで伸ばせないか」って言い出したんです。自分たちが返礼品を出すことで、市の施策を良くしたいと考える事業者さんが出てきた。しかも、アウトレット干物は実際に反響が大きくて、閲覧数はずーっと1位なんです。
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※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。