給与制度をゼロから好き放題作ってくれ
加藤:具体的な給与制度はどのように作成したのでしょうか?
倉田市長:もともと、飲み屋の愚痴から始まったので、その愚痴った当の本人を含め、10人くらいの比較的若い世代の民間経験者に作ってもらいました。その時に伝えたのは、「今の制度を一旦忘れて、ゼロから好き放題作ってくれ」ということでした。
最初に人事室のような部署に任せても、結局、現行制度に引きずられて思い切った理想像が描けないと思いました。そこで、ゼロから作ったものを制度として成り立つものに落とし込むために、人事室に関わってもらったという感じでしたね。
人事室が職員への説明会を実施
加藤:職員の方に対して、市長から制度の変更案の話をされたのですか?
倉田市長:私ではなく人事室が説明会をしました。
加藤:市長が直接出ないほうが、本音が上がってくると想定されたのでしょうか?
倉田市長:いや、市長として他にも色々と対応していたことがあったので、そこまで考えていなかったです。説明会は1回だけではないですしね。でも確かに、僕だけがやりたがって出て行く感じではだめで、制度改革を担当した彼ら自身が飲み込んで、自分の言葉で話せるようにしないといけないとは思っていました。
中堅レイヤーの職員から励まされた
加藤:庁内に話を説明して、次に組合との話が始まったのでしょうか?
倉田市長:一義的には組合ですが、その組合に入っていない職員も沢山いるので、職員全員がどう感じているのか掴みにくいんです。だから僕も、本当にこれで進めちゃっていいのかな、と迷いがありました。悩みましたね。
珍しく僕がブツブツと弱音を吐いていたら、逆に職員から励まされました(笑)。中堅と中堅よりも少し上ぐらいの職員と飲んでいたのですが、「絶対やるべきですよ」と言ってくれて、「え、そうなの?」という感じでした(笑)。
職員のアンケートでは7割が賛成だった
加藤:職員の方にアンケートをとることはありましたか?
倉田市長:後日、アンケートをとったところ、7割超が賛成だったんです。これは僕からしても意外な結果でした。本音も色々書いてあって、「こうあるべきだと思う、ただ自分が退職してからにしてほしい」とかね(笑)。
加藤:気持ちの良いくらいの本音ですね(笑)。
倉田市長:人事室のメンバーは相当苦しんでいましたが、職員が正直に書いてくれていて、やっぱり勇気づけられましたよね。人事室のメンバーも組織の根幹である給与体系を変えてしまうことに対して、悩みながらやっていましたから。
加藤:前例がないことですからね。
なかなか進まなかった組合との交渉
加藤:次に組合との話し合いがあったのでしょうか?
倉田市長:そうです。基本的に組合は牛歩戦術でした。
加藤:その牛歩戦術にどう対応しましたか?
倉田市長:組合が時間を引き伸ばせば引き伸ばすだけ、予定が後ろ倒しになっていくんですよね。でもそれって本質的には何の解決にもなってないじゃないですか。だから、組合との交渉が成立していない状態のままで、議会に条例案を提出しようと決めたんです。通常、組合が了解していたら、市議会も文句なく議決するんですが、恐らく初めて組合が了解していない議案があげられました。
議会から諫められ 一回引いた
倉田市長:議会へは「もう、組合と議論が進まない状態になっている。だから、議会に判断をいただこうと思います」と話をしました。2014年2月頃ですね。
そうしたら、議会から全力で諫められて、一回引いたんです。ただ、このまま議論が進まないのであれば、議会に議案提出すると宣言をしました。
2014年6月に議案を提出
倉田市長:ただ、これが一度おさまると、またのんびりするわけですよ。全然進まないから、次の2014年6月の議会では、本当に議案を出しちゃったんです(笑)。
加藤:それは事前通知なしにですか?
倉田市長:当然、組合には「進まないなら出す」と常に言っていました。それでもダラダラしていたので、通告ベースで「出します」と伝えました。そうしたら、組合は大慌てになりました。
僅か2年で条例が可決される
加藤:組合の方から見れば「本当に出した!」と(笑)。
倉田市長:まさに、「本当に出しやがった」みたいな(笑)。そうなると、議会も判断を預けられてしまった状態なので、「どうしよう」と慌てていました。でも、そこから一部の議員さんもすごく助けてくれて、組合に対して「お前らずっとつべこべ言っているんだったら、わしらも議決しちまうぞ」と、交渉の場に就くようにアプローチをしてもらえました。
結局、裏側ではみんなが色んなことを思いながら、なんとかおさめるように動いてくれて、その6月の議会の会期中、審議中に組合との交渉が妥結し、条例を可決しました。やっとという感じでした。
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※本インタビューは全6話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 頑張った人が報われる 自治体の給与制度改革
第2話 7割の職員は「人事・給与制度改革」に賛成
第3話 飲み会での『人への評価』を制度に落とし込む
第4話 平社員の給与が部長を上回るケースが存在する
第5話 「公立病院は赤字で仕方がない」という神話
第6話 脳内に地域住民という上司が存在する