行政だけでは一歩目が出にくい
矢嶋:前回、常総市にある「水海道あすなろの里」で、日本初の「トライアル・サウンディング」の事例を伺いました。やってみてわかったことはありますか。
平塚氏: やっぱり私たちの中で大きかったのが、公共施設を活用する切り口の多様さです。
今回あすなろの里では4つの事例が生まれましたが、それぞれがあまりにも全然違う切り口だったんですね。
行政側が持っていた認識としては、「ただの老朽化した不採算事業」といったイメージでしたが、今回の取り組みを通じてガラッと生まれ変わったような感じがします。
矢嶋:なるほど。前回は「かけっこキャンプ」と「里山ワークショップ」について伺いましたが、他にはどんな事例がありましたか。
平塚氏:一つは音楽フェスですね。このあすなろの里の近隣には住宅があるので、音が出るイベントは積極的にやれなかったんです。でも今回の提案のおかげで、しっかり住民の方にご理解をいただきながら進めることができました。
矢嶋:それは正直、行政だけではなかなか一歩目が出にくいですね。
平塚氏:そうなんです。ただ行政はその一歩目さえ出せればあとは得意なので、良いきっかけが作れたと思っています。
民間と組まなければ生まれない発想がある
矢嶋:あすなろの里で実施したトライアル・サウンディングの、最後の一つはなんでしょうか。
平塚氏:「森の生活」です。これは本当に、私たちとしては一番驚いたイベントでした。
これは昔書かれた本「森の生活」をテーマにしたイベントなんです。北米の作家ソローさんが、森の中で自給自足をしたノンフィクション文学なんですけども。
矢嶋:もう既に独特な世界観が感じられます。
平塚氏:そうなんです。伝え方が難しいのですが、本とキャンプと、すごく静かな空間を過ごす体験も含まれていて。秋のシーンと静まった空間のなか、どんぐりが屋根に「コーン…」って落ちる音を聞くっていうような…なんとなく伝わりますかね?
矢嶋:要はマインドフルネス的な体験を、都内からさほど遠くない常総市でできると。
平塚氏:本を読む、火を囲む、音楽を聞く、友と語らう、めいめいが自分の時間を見つけていく。そんな1泊2日を過ごす森の生活に、都会の人はどれだけの価値を感じるのか調査する意味合いもありました。これも行政だけでは生まれなかった発想でしたね。
不採算事業を、儲かる事業にする
矢嶋:4つの事例はとても興味深かったです。採算が取れない老朽化した公共施設をお持ちの自治体にとって非常に参考になったと思います。
平塚氏:多くの自治体が財政難だと思いますが、その中でも常総市は2015年に大きな水害を経験して人口流出が待ったなしの状況なんですね。そうやって人口が減れば、税収も減るわけでして。
矢嶋:税金を納める人数が減れば、そうなりますね。
平塚氏:公共施設が必要な方はいますから、私たちもなんとか維持しようとしているわけですけれども、そうも言ってられない状況まで来ています。
ですので、もう不採算事業としてやるのではなく儲かる方法を考えましょう、そのために民間の力を借りましょうと。さらに民間企業さんの手によってプラスになった部分は、民間企業さんに投資ができるようにしていきたいです。
矢嶋:持続するためにはしっかり儲けてもらうと。
平塚氏:もちろん市民にとって価値にならないと意味がないので、そこは踏まえた上でやります。市外から人が呼べたら、市民との交流も生まれますよね。
全国には活用できていない公共施設はたくさんありますから、まったく新しい使い方を民間と一緒に模索していくのは夢がある仕事だと思います。
(取材=埼玉県庁 矢嶋直美 編集=小野寺将人)
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