言い続ける
西澤:やりたいことを実現するために大事にしていることは何でしょうか。
波多野氏:「自分がやりたいと思うかどうか」に尽きると思います。良い話をしようと思うと、「たくさんの人が喜ぶ笑顔が見たくて…」とかあるんですけど、もっと大前提はやっぱり自分が楽しんでいるかやってみたいかどうかです。わがままですけど、まず自分がワクワクしないと力が入らないんですよね(笑)。
それからたくさんの人の力を借りることですかね。だって私一人だけでできることなんてたかが知れています。
西澤:熱を他の人に伝播させるにはどうしたら良いのでしょうか。
波多野氏:まず言葉に出して言うことが大事だと思います。たとえば「きくりん」っていうゆるキャラを作ったときの話なんですけど、私が2009年に市役所に入庁したとき、福井県にはゆるキャラがあまりいなかったんです。
西澤:ゆるキャラはどこにでもいるイメージですけどね。
波多野氏:そう、だから私も越前市のゆるキャラを作りたくなって、入庁してからずっと言い続けていたんですね。でもなかなか理解が得られない。「そんなのわざわざしなくてもいいでしょ」って。でも、これは市役所の良いところでもあり、悪いところでもありますけど、数年ごとに人事異動があるんですよね。それで3年後に「それやろう!」と言ってくれる上司に出会い実現しました。ちょっとスピード感はないですが、巡り合わせが良ければ実現するんです。
たくさん「だめ」とか「意味ない」と言われ続けていると、心がめげちゃって言わなくなりますよね。でも自分がワクワクしているなら、言い続けてほしいです。最初は理解が得られなくても、人の考え方も変わりますから。仲間が1人増え2人増え、最後には実現することが多いです。
たまたま市役所の仕事で実現できる
西澤:ほかに企画を実現させるために、おこなっている行動はありますか。
波多野氏:よく役所の外に出かけるようにしています。市役所は特殊な環境なので、市役所以外の人が集まる所に行ったり、講演会を聞きに行ったり、子どもといっぱい遊んだりして一般的な感覚を持つようにはしています。
西澤:それが仕事に活きてくるのですね。
波多野氏:これは仕事に活きる、活きないという以前の話かも知れません。私はもともと、仕事のために何かをしようと思うタイプではないんです。「やりたいことをやる」がポリシーなので、それを実現させるのは仕事でもプライベートでもどちらでも良い。
西澤:仕事は手段の一つなんですね。
波多野氏:はい。そもそも市役所の仕事って生活そのものじゃないですか。何をしていても、何かしら仕事には結びつくので、仕事とプライベートを分けすぎなくて良いのかなと思います。仕事のためにプライベートで勉強会をしているのではなく、やりたくてやっていることが、たまたま市役所の仕事で実現できたりするんです。
越前市役所には変な職員がたくさんいる
西澤:越前市役所には、波多野さん以外にもいろいろな活動をされている方がいますよね。
波多野氏:そうなんですよ。市の職員が立ち上げた様々な団体があります。例えば、JR武生駅周辺にある食堂で昔から食べられている中華そばをPRする団体や、越前市と着物の魅力を発信する団体、地元イベントの司会をしたり地元ケーブルテレビでレポータをしたり漫才したりしながら越前市の魅力を伝えているお笑いコンビなどがあり、どの団体も越前市役所の職員が中心となって活動しています。これは、業務ではなく、プライベートな活動です。
西澤:そういった状況を波多野さんはどう感じていますか?
波多野氏:本当にうれしいですね。越前市役所の人事はクリエイティブだとか、行動に移せるとか、そういう人を採用するようにしているみたいです。今は特に、大きな社会の変化に対応しながら、市民の皆さんのために考え、実行する力が必要ですから。
西澤:採用で、そこを大事にしているのですね。
波多野氏:「個」の時代と言われているので、市役所も「個」として挑戦できる人を求めているのではないでしょうか。そういう人が集まれば、挑戦する人を応援する空気になる。越前市役所は職員がまちづくり活動に取り組むことを「庁内起業」と呼んだりもして、応援してくれる風土があるんです。良い雰囲気を作ろうとしてくれている上の方々が多いように思います。
西澤:そんな人が集まる市役所って良いですね。
波多野氏:はい。ワクワクする話題が多いので、こんな性格の私でもなんとか市役所にいられるように思います(笑)。これからも若い人たちがもっと挑戦できるようなフィールドを、私が先陣を切って失敗を重ねながら広げていきたいなと思っています。
西澤:挑戦している人同士が、 定期的に集まったりしますか。
波多野氏:それはないですね。実現させたいことが違えば集まる人も違うし、やり方も違ってくるじゃないですか。もちろん相談があればお手伝いしますが、基本的にはみんな自分がやりたいことがあるので、各自やっていく感じです。
西澤:一貫したスタンスがよくわかるお話でした。ありがとうございました。
(取材=福井市役所 西澤公太 編集=小野寺将人)
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