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【気象庁 梶原靖司】自ら発する形容詞ひとつが、人の命に直結する

―2019年11月16日、渋谷ヒカリエで「よんなな会」が開催された。全国から約500名の公務員が集まり、初代地方創生担当大臣の石破茂衆議院議員、高野山高祖院住職 飛鷹全法さん、アンダーグラフ 真戸原直人さん、プロダンサーFISHBOYさんら豪華な面々が登壇した。

 本記事では、同日に登壇された気象庁の予報課長、梶原靖司氏の講演をまとめた。近年、ますます防災の重要性が高まっている。同氏は気象庁の活動や活動方針の転換について語ったが、命に係わる情報を発信する業務の中で、その重責も強く感じていたことを吐露した。

予報課長として、多くの災害を経験

梶原:気象庁予報課長の梶原です。気象庁予報課長というのは、政府の危機管理要員に指名されております。様々な事態を速報する必要があるということで、千代田区内の危機管理宿舎に住んでおります。11月14日の金曜日から北海道中心に暴風雪となっておりましたけれども、本日になってようやく峠をこえつつあるということで、久しぶりに千代田区の外に出て、渋谷に駆けつけて参りました。本日はお招きいただき、ありがとうございます。

 私が予報課長になって、今年が3年目です。一年目に平成29年7月九州北部豪雨が発生しました。これは、福岡県の朝倉市、東峰村、それから、大分県の日田市周辺で線状降水帯が発生、局地的に猛烈な雨が数時間降り続いたということで、甚大な土砂災害や洪水害が発生しました。
 そして、予報課長2年目の昨年には平成30年7月豪雨が発生しました。平成29年7月九州北部豪雨のように線状降水帯の発生による局所的な猛烈な雨の予測は、現在の気象庁の世界最高水準の技術を持ってしても、なかなか事前に場所や時間、降水量を予想するのは難しいんです。しかし、この平成30年7月豪雨は、7月6日から8日までの3日間降り続く大雨であったこと、そして、大雨のエリアが九州から東海地方に至るスケールの大きい現象だったということもあって、スーパーコンピューターによる予測がある程度、事前にできていました。
 それをもとに、気象庁では大雨になる前の段階で記者会見を行い、特別警報を発表する可能性にまで言及、気象庁としては全力を尽くしたつもりです。ただ、結果として200名を超える犠牲者が出てしまった。

 気象庁では積極的に気象情報を発信し、記者会見も積極的に行いました。また、該当する市町村では、従前よりも早いタイミングで、積極的に避難勧告の発令等を行いました。にも関わらず、そういった防災気象情報や避難情報が住民の避難には必ずしも結びつかなかったのではないかという指摘があり、気象庁においても昨年度は有識者の方々とともに、「防災気象情報の伝え方に関する検討会」を開催し、情報の伝え方の改善に努めてきたところです。この検討会でいただいた提言をもとに気象庁では様々な伝え方の工夫をして、防災気象情報の発信を行ってきたところですけれども、そのような中、今年は台風第19号により甚大で猛烈な被害が発生してしまいました。

積極的な情報発信を行った台風第19号

梶原:台風第19号は国際名称「ハギビス」と言います。南鳥島近海で発生し、マリアナ諸島近海で猛烈に発達、925ヘクトパスカル、最大風速55m/sと大型で猛烈な勢力になりました。その後、父島の南西海上を猛烈な勢力を維持したまま北上し、10月12日19時前に強い勢力で伊豆半島に上陸。その後12日の21時頃に東京上空を通過し、翌13日未明には強い勢力を維持したまま福島県沖に抜けました。

 大型で非常に強い勢力で東日本に接近することがある程度具体的数字でもって予測できたということで、通常では行わない上陸3日前という早いタイミングで気象庁は1回目の記者会見を行いました。また、台風が上陸する1日前には、昭和33年の狩野川台風に匹敵する大雨となる恐れがあるという強いメッセージを込めて、記者会見を私が行いました。この台風第19号については、その後も大雨特別警報発表のタイミングで3回、私は緊急記者会見を行っています。

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予報業務は大転換を進めている

梶原:少し予報業務の変遷をご説明したいと思います。以前は予報業務の主軸は天気予報を定時に発表することでした。そして、その合間に大雨の恐れが生じたら大雨警報・注意報を発表する、そのようなやり方を約15年前に大転換しております。
 どういうことかというと、24時間フル対応で、適時的確な防災気象情報を発信することこそが予報業務の主軸である、それを可能とするために人員やシステムを配置・整備して活用していくのです。そしてそのように整備された環境下で定時には天気予報等の生活情報を発信していくと、転換を図りました。
 講演のタイトルに、「情報の力で防災・減災」と書かせていただきました。気象庁職員は、自ら防災官庁と自負しているところですが、気象庁職員が自ら土のうを積んだり、住民を避難誘導するなどといった具体的な防災行動を行うわけではありません。気象庁・気象台は、あくまでも適時的確な防災気象情報を発信することで、防災・減災に貢献しようとしています。
 こういった防災気象情報というのは、使われてこそです。使われなかったら何の価値もない。これまでは地元自治体から発表される、避難勧告や避難指示に基づいて住民は避難行動をとる。箸の上げ下げまでお上が住民に指示し、住民はそれに従う、従わないの世界でしたが、平成30年7月豪雨時の対応分析等から、それでは立ち行かない、限界があるという認識から、自分の命は住民自らが守るという意識を持って、自らの判断で避難行動をとることを目指し、行政はそれを全力で支援する、という形に政府・自治体の対応を大転換しました。情報はただ伝わっただけではだめ。いくら情報を発信しても、避難勧告等の判断を行う市町村や、住民の避難行動につながらなかったら、なんの価値もない。それを強く認識するに至っております。

 極めて事態がひっ迫しているときには、地方気象台長から市町村長に直接ホットラインで連絡して、気象庁・気象台の抱く危機感をしっかり伝える。ただこれもですね、全く面識のない気象台長から急に電話がかかってきても、市町村長は信じられないかもしれません。ですから、日頃から顔の見える関係の構築が非常に重要になってまいります。そのために、地方気象台などでは市町村長訪問を行ったり、あるいは、地域専任チーム「あなたの町の予報官」によって、各市町村等に対してきめ細かい気象解説を行うことなどにより、地域防災を支援するようにしました。町のかかりつけ医のようなイメージです。

 記者会見を積極的に開催したり、Twitterなどでも発信をしています。ただ、気象庁・気象台の発信したい情報は膨大にありまして、どのように取捨選択していくかという極めて難しい運用上の問題があります。「伝え方」というと上から目線、発信者目線。そうではなく、情報の受け手にどのように伝わったかという「伝わり方」の改革という認識が重要じゃないかなと思います。
 今年からは警戒レベルを1から5の5段階で分けて行動を促す取り組みを政府全体で進めております。警戒レベル3は、高齢者等は避難、警戒レベル4は全員避難。これだけでも覚えて欲しいです。

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自ら発言する形容詞ひとつが、人の命に直結する

梶原:最後にみなさんへのメッセージをお話したいと思います。大雨・台風時の記者会見を何度もやっていますが、本当に怖いです。自ら発言する形容詞ひとつが、人の命に直結する恐れがある。恐怖すら感じます。

 恐怖を目の前にしても、伝えたいことを伝えなければならないという中には、強い意思が必要だと思います。そして、当然、何を質問されても即答できる自信、裏付けとなる知見が兼ね備わっていなければなりません。また、説明は相手にストンと納得してもらいたいと思います。そのような説明が、いざというというときにできるように、日頃から納得できるような説明を心がけています。

 昨今では、雨の降りかたが激甚化しています。この数年続いたような台風災害や大雨災害は必ず今後もやってきます。そのときにいかに住民のみなさんの命を救うことができるか、みなさんとともに求めていきたいと思います。
(写真 = 荒井勇紀)

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