十日町の奇祭 婿投げ(松之山温泉)
[記事提供=旬刊旅行新聞]
文化資源の活用にとって、2016年に政府が策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」は大きな転機となった。これを機に、日本遺産制度の創設、文化財保護法改正に伴う文化財保存活用地域計画の策定(2018年)、さらには文化観光推進法の制定(2020年)など、その後の文化政策の大きな流れが定着した。
もとより、こうした流れには紆余曲折もあった。文化遺産保護に関わる国際組織であるICOMOS(国際記念物遺跡会議)は、「文化的観光の憲章」(1976年)で、観光活動などの急速な進展と開発により、遺産の保護と保全が達成されないことに危惧を表明した。これは今日のオーバーツーリズムに対する初期の警鐘でもあった。
しかし、時代は大きく転換。1999年に示された国際文化観光憲章では、観光と文化(遺産保護)を対立的に捉えるのではなく、良好な関係を築きながら相乗的な効果を生み出していく「共生的観点」の重要性を提唱した。
冒頭の「明日の日本を支える観光ビジョン」も、こうした大きな国際世論の中で生まれたものである。今では、文化資源を適切な投資によって社会的便益の極大化を目指すといった、「文化投資」の考え方が主流になっているように思われる。
近年、日本の各地でも、これらの趣旨に沿った動きが加速している。
十日町市は、信濃川流域に集中する火焔型土器をテーマにした流域6市町による「なんだ、コレは!」のシリアル型日本遺産(2016年)に加えて、「究極の雪国とおかまち」という単独の日本遺産認定(2020年)を受けている。
しかも同年11月には、文化観光推進法の地域計画「とおかまちスノーカントリーミュージアム」も認定された。
十日町では既に20数年にわたり、「大地の芸術祭」が開催されてきた。来年4月には、延期していた第9回大会を、会期を大幅に拡大して開催する。
地域計画では、リニューアルした十日町博物館やまつだい雪国農耕文化財センター(農舞台)など5つの拠点施設を核に、日本遺産で描いたストーリーを核とした食や新しい泊、アクティビティー(体験)などを織り込んだ広域エリアの活用プログラムづくりに取り組んでいる。
地域固有の文化財は、新たな地域創造の武器となる。これからは「文化が地域の未来を拓く」、そんな時代に大きな期待を寄せたい。
(日本観光振興協会総合研究所顧問 丁野 朗)
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