日本初の「旅ブーム」のきっかけとなった弥二さん喜多さんの東海道五十三次の旅。江戸時代の庶民の旅の楽しさや怖いものみたさ、美味しい名物などを今に伝えてくれる。十返舎一九の滑稽本「東海道中膝栗毛」や、歌川広重が描いた「東海道五十三次」の浮世絵は、いま見てもワクワクとする。
そんななか、「江戸街道」なるプロジェクトがスタートした。少々聞きなれない言葉だが、江戸時代、諸大名の参勤交代のため日本橋を起点に整備された五街道と、その枝道として整備された水戸街道や成田街道などの脇往還を総称した呼称。広域関東圏を所掌する関東運輸局が、これら街道の再生・活用を推進するプロジェクトである。
かつての「江戸街道」沿いには、寺社仏閣、宿場町などの歴史文化資源はもとより、固有の景観、祭りや食、伝統工芸、温泉などの文化的コンテンツが豊富に点在している。また、このエリアには高度に整備された鉄道・バス・高速道路ネットワークがあり、成田・羽田の2つの国際空港は訪日外国人客の圧倒的なゲートウェイになっている。
本プロジェクトは、これらコンテンツを改めて精査・編集することを通じて、広域関東における新たな観光まちづくりを推進しようというものである。
そのために、まずは「江戸街道」のブランディングが不可欠である。私見だが、そのためには「江戸街道」に係る「物語化」が不可欠であり、その意味では、「日本遺産」の手法が有力であると思っている。現在104ある日本遺産の中で、「街道」がモチーフになっている物語は少なくない。冒頭にふれた「弥二さん喜多さんの駿州の旅」や、「四国遍路」、「箱根八里」、さらにはシルクロードの「霊気満山・高尾山」、江戸庶民の信仰と行楽の地となった「大山詣り」などが参考になる。
街道には、今も数多くのコンテンツがあるが、とくに注目するのが街道に伝わる「江戸料理」や、宿場での滞在を促す新しい「泊」の事業などである。
そんなテーマを議論しようと、7月7日に東京で開催した「街道シンポジウム」に参加した。キーノートは、江戸ワンダーランド日光江戸村を経営する時代村事業戦略室室長で「江戸料理奈美路や」支配人の佐藤達雄さんと、宿場町のアルベルゴ・ディフューゾ化を提案する日本インバウンド連合会理事長の中村好明さんである。
江戸時代に提供された料理をどのように継承発展させるか、膨大な人数の参勤交代を分散型で宿泊させた宿場町の現代風の再生など、興味深い話題を提供していただいた。これを受けて温泉エッセイストの山崎まゆみさん、リクルート地域創造部の高橋佑司部長、関東運輸局観光部の岡村清二部長らで、パネルトークを展開した。
各地に残る江戸料理や古民家再生などの新たな「泊」づくりなど、今後の事業の進展を期待したい。
(日本観光振興協会総合研究所顧問 丁野 朗)
※facebookとTwitterでHOLG.jpの更新情報を受け取れます。