心理的安全性の醸成
加藤(インタビュアー):よく行政組織は挑戦がしにくい空気があると言います。それを変えるためにされたことはありますか。
林氏:「心理的安全性」という言葉がありますが、そこが重要だと思っています。ある職員から言われたことがあるのですが、私は「罪を憎んで人を憎まず」のタイプらしいんです。何かミスが発生したときに、私が「それは人ではなく仕組みの方に問題がある」っていう発言をしたとき、その職員はそれを聞いて嬉しかったらしくて。
つまり心理的安全性ってそういうことかなと思っていまして、組織の中で起こることは、個人の問題ではなく組織の問題なんだという認識が大事だと思うんですね。
加藤:つまり、個人の責任にせず、組織として向き合うわけですね。
林氏:はい、その前提が重要です。その認識に立った上で、役割や責任の明確化と、そのチェックポイントを設けます。そうすることで、「出る杭は打たれる」「罪を被せられる」「誰も助けてくれない」みたいな空気から抜け出すことができるのではないかと信じてやっています。特に財政的に厳しかった時代に「余計なことをするな」と押さえつけられて育った管理職世代の方々には、その徹底が重要です。
彼ら自身のためでもありますが、なにより今の若手メンバーのためにもなると思っています。やる気のあるメンバーを応援するというマネジメントをして欲しいので。だからこそ、私は、なんでも面白がる、否定しない、まずは聞く、というスタンスを心がけています。
加藤:そうやって組織全体に心理的安全性を醸成していくのですね。
林氏:あとは、当たり前の話ですがハラスメントは絶対に防ぐんだと決めてやっています。いま民間企業だとハラスメントの研修って当たり前に行われていると思うんですけど、意外と自治体の職場ってその辺が遅れているんですよ。まずそこから始める必要があって、心理的安全性にとっては最低限のラインだと思います。
メンタルを守る制度設計
加藤:心理的安全性を醸成するために、仕組みを変えたことはありますか。
林氏:つい先日も、職員から感謝の言葉をもらったのが「降格制度」ですね。再チャレンジが可能な降格制度です。もともとは子育てメンバーを想定してつくろうと思ったのですが、まずは、闘病など医師の診断が出る職員を対象につくりました。ネガティブに感じられるかなと思っていたものの、病気やメンタル面でつらい状態の職員にとっても良かったというのが意外でした。
加藤:たしかに、一時的に仕事を軽くしたい人はいますよね。
林氏:今はメンタル的に元気かもしれないけれども、いつ自分がそうなるかなんて誰にもわかりませんよね。いざそうなった時に、また戻れるチャンスがある制度ができたおかげで気持ちがすごく楽になったという話をされまして。
正直そこまでなるとは想定できていなかったのですが、作って良かった制度の一つですね。
加藤:すごく納得感があります。
林氏:それと、リクルートの「ヨミ表」を取り入れた「運営者会議」の話をしましたけれども、あれも広義的に見ればメンタルケアには効果があると思っています。
その場はバンバン指摘が入るので確かにつらい状況もあるのですが、組織全体としてトラブルを防げるんですね。やはり自治体職員は真面目なので、何かあったときに「自分がなんとかしないと」って自分を追い込んでしまうタイプが多いんです。
加藤:トラブルを発生させないことによって、メンタルケアになると。
林氏:はい。トラブルになりそうな芽を早め早めに積むことは職員を守ることにもつながると思います。加えて褒めるポイントを見つける場でもありますから、良いところはしっかり認める、トラブルは防ぐ、の両面で効果があると思います。
「誰」の仕事かを明確にすることが心理的安全性を生む
加藤:先ほど「役割や責任の明確化を行う」とありましたが、それがなぜ心理的安全性を生み出すのか、もう少し詳しく伺えますか。
林氏:誰の仕事か明確になされないまま、ふわっと「課」の仕事という風にしてしまうと、誰かが割を食うことになってしまうんです。特に責任の所在が不明確で、大変そうな仕事って間に落ちるんですよ。これはもう絶対に手を出しちゃいけない案件だ!っていう感じで誰もやりたがらない。
この間も職員が相談に私の部屋に入って来まして。自分の担当業務が多すぎて、課長に言ってもわかってくれないと。業務内容を書き出してもらったら実際すごい量なんですね。一つ一つ確認すると課内の役割分担が曖昧だったので、その課の課長に来てもらって、私と人事とで業務の仕分けをして、課内マネジメントのやり方を他課と共有しあおうか、とか、朝会のやり方に工夫がいるかなとかを話しました。
加藤:副市長がそこまで丁寧に対処されるのですね。
林氏:結局のところ、こういうことの積み重ねなんですよね。そこで課長はマネジメントについて学ぶわけですから、同じことが起きないように成長できます。
そういう意味で、役割や責任の明確化が心理的安全性と繋がると思っています。
加藤:心理的安全性はモチベーションとの関連も強いと思いますが、ここでお話しいただいた施策以外にも様々な取組みがありますよね。多くの自治体でも参考にできるものだと感じています。
(取材=加藤年紀 編集=小野寺将人)
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