まちづくりの基本理念は「地域づくり」「地域福祉」「生涯学習」
速水市長:平成27年2月に小規模多機能自治推進ネットワーク協議会を立ち上げて、当時120ぐらいの自治体が参加しました。令和2年1月の段階で260の自治体が参加しています。
石塚:参加自治体の課題感は共通なのでしょうか。
速水市長:東京や神奈川などの都心部も真ん中は人口が集中していますが、周辺部は地方と同じような課題があるところはたくさんあります。昭和40年代に作られた団地の空き家増加や、高齢化や孤独死など、都心部も他人事ではない。だからこそ小規模多機能自治のような組織がそうした課題へ対応できることを示すために、拠点である公民館がしっかり事務局機能を持って、さまざまな活動をやっていく必要があります。
雲南市でいうと、元公民館を拠点としたまちづくりの基本理念は3つあって、「地域づくり」「地域福祉」「生涯学習」なんです。以前は生涯学習推進の拠点としての機能だけでしたが、それだけではなくなりました。それは言い換えれば生活の全てに関わることでもある。だからこそ、地域自主組織が必要であるということです。
新たな公民館の仕組みが必要
石塚:合併前の自治体において公民館の運営は、どのように行われていたのでしょうか。
速水市長:自治体ごとに教育委員会が選んだ公民館長さんや主事さんが運営していました。公民館長さんや主事さんは、校長先生のOBのかたとか、警察官とか、その地域の名士のかたとか、多くは年配のかたが勤めていました。
元々は生涯学習推進の拠点としての公民館でしたが、時代の変化もあって雲南市ができた頃にはすでに地域づくりの拠点としての機能を持ちつつありました。公民館長さんや主事さんに求められる役割が大きくなり、やることも増えていて、まるで、千手観音のようになっていました。
石塚:(笑)。
速水市長:そのため、現在、公民館が果たしている機能に即応する新たな公民館の仕組みが必要だとして、雲南市では平成23年に公民館機能を教育委員会部局から市長部局へ移しました。そして、公民館を交流センターという名前に変えて、その所長さんは、地域自主組織が選ぶことにしました。
石塚:それはすごい抵抗があることが想像できますね…。
速水市長:そうですね。正直すごい抵抗がありましたし、その変革によって生涯学習推進の拠点としての公民館活動は失われるともいわれました。
ただ、実際にどうだったかといえば、「生涯学習」に加えて「地域づくり」「地域福祉」の活動が進んでいくにつれて、逆に生涯学習推進の機運も高まることとなりました。地域自治組織に選ばれた交流センター所長さんも主事さんも普通にパソコンが使えるICT、IT社会に対応できる人材だったことも要因としてあると思います。
そのような経緯で現在に至っておりますが、交流センターを中心とした30の地域自主組織を維持するためには当然ながら財源が必要です。現在は過疎債を使って約2億4千万の交付金を地域自主組織に交付していますが、それはいずれ自分たちで稼いでくださいという前提でお渡ししています。
地域自主組織がいずれ自前の財源を持ち、資産も取得して運営していくとなると、固定資産などの関係でいずれ税金を払わないといけないようになる。そこで、地域自主組織が法人格を持てるようにしようと、小規模多機能自治推進ネットワーク協議会の有志で当時の石破地方創生担当大臣に提言書を持っていきました。
2016年2月に石破大臣に提言書を渡したところ「これはぜひやろう」ということで、翌月には内閣府で研究会が開催され、以後、年間4回開催されています。その後、内閣府から総務省に移って、いまは地方制度調査会で検討中ですが、それが固まっていけば議員立法などで日の目を見るだろうと期待しています。
小規模多機能自治は行政の押しつけではない
石塚:小規模多機能自治を前提に、行政側の役割を定義しなおしていくという状況にあったと思うのですが、私が一番衝撃だったのは2億円以上のお金を交付して、地域自主組織ごとに自由に使い方を決めて事業を進めているということでした。そういう手法は最初の合併協議会などで決まったのだと思うのですが、紐付きの補助金でもいいという話にはならなかったんですか?
速水市長:そうですね、今地域自主組織にお渡ししている交付金には色がついていません。雲南市を構成する予定の6つの町から住民の代表のみなさまに合併協議会の委員になっていただき、議論の中で「自分たちの地域は自分たちで」という希望もあって地域自主組織方式が誕生しました。しかしながら、住民のみなさんの中には、「それって、行政の押しつけじゃないの?」と思う人もいらっしゃいました。
石塚:当然そういう議論は出てきますよね。
速水市長:でも、自分達の地域でやっていかないことには行き届かない状況がいずれ訪れるよと。雲南市は東京23区と同じ広さがあります。それだけ広い市域がある中で、少子高齢化も進み、生産年齢人口の減少が進んだ時、動ける市民のパワーが限られてくるとなると、助け合う環境を創ることが大切だろうと言いました。
一人ではできないことでも、向こう3軒両隣の世界でみんなが助け合っていけば、人が少なくても住みよい社会は維持、あるいは強化できます。そのために地域自主組織がそれぞれ必要だと思うところにお金を使えるようにしているんです。
石塚:ビジョンと危機感を徹底的に市民の皆さんと共有することで、今のような環境を創られたということですね。
(取材・文=石塚清香)
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