陸前高田市の中でも地域の要望は全く異なる
加藤:復興計画を調整する難しさはどこにありましたか。
久保田氏:どういう町を目指すべきか、防潮堤の在り方、住宅再建、エネルギー関係の案がいろいろ出て来ましたが、それをどうまとめるかという点ですね。
市内の各地域にどういう違いがあるのか調べていくと、市内11地区がすべて同じじゃないんです。当然、海に近いところはすごく被災し、亡くなった方も多かった。でも、海から遠い山の方の地域はほとんど死者がでなかった。家も一軒もやられていない。
そうすると、各地区からの要望は全く異なるんですよね。それが意見の対立になったりもする。山の方の人からすれば、復興のことも大事だけれども、もともと震災前から課題もある。高齢化や少子化が進んでいて、高齢者の生活や交通の問題もある。
復興を優先せざるを得ないため、そういう問題は後回しになる。だから、「我々は置き去りになるんじゃないか」と住民集会の中で言われることもありました。
加藤:外から見ていると、陸前高田は全ての地域がひどい被災地だと感じますよね。その11地区に分かれている地域の内、復興フェーズにあった地区はどのくらいだったのでしょうか。
久保田氏:半分以上、8地区ですね。ニュースなどではその区画の温度差までは伝わってこないと思います。
「全然始まらないね」
加藤:復興計画を作られた後は、どのような業務をされましたか?
久保田氏:復興計画に定められた大きな方向性を具体化していく段階になります。たとえば、高台移転を進めると復興計画に書いてありますが、市内にどれくらいの戸数分、どれぐらいの面積が必要で、それを何年計画でどこから手を付けるかなど、詳細計画に落とし込むフェーズになりました。
だから、実際にダンプカーなどが入り出したのは結構遅くて、2013年ぐらいからですよ。2012年は計画を具体化するフェーズでしたので、その時期は住民の方から、「全然始まらないね」とよく言われていました。
もちろん、役所の中では高台移転をする計画地の所有者のところに足を運んで、土地を譲ってもらえるようにお願いしたり、図面書き直したりとかしていたわけですよ。でも、それは市民には見えないですから。
加藤:知ってもらうことも大事ですけど、リソースも限られています。地道にスケジュールを進め、できれば前倒しできたりするほうが大切ですよね。
久保田氏:そうなんです。いずれ始まってくれば目に見える形で分かりますから。
2,000人の地権者の同意を得る
加藤:長いケースでは、土地を取得するための説得にどのくらい時間がかかったのでしょうか。
久保田氏:1年2年かかっているところもあります。もしくはその前でもう諦めているか。ただ、諦めたということは、それまでの半年とか1年間が無駄になるわけです。
そして、地権者の数も膨大です。津波で被災した高田町では、海面高10m前後の地盤のかさ上げ工事を行いました。地権者の事情からすぐに進まなかったところもありましたが、最終的には2,000人の地権者の同意を得ました。
土地に関する日本の諸制度
加藤:人数を考えると大変ですね。時間を短縮していくような方法はありますか?
久保田氏:被災が大きいので、時間がかかるのはある程度はしょうがないと思います。ただし一つ問題があると思っているのは、土地に関する日本の諸制度ですね。
たとえば、津波で何十件も家を流された地域があります。彼らは基本的に市内の中で高台に移転したいわけですよね。その意向を受けて、市役所が移転予定地の人に話をしに行き土地を買収します。
買収する財源は国から貰えます。だけど、土地を買収するためには所有者の方と話をつけないといけません。所有者の方は、安易に「ノー」と言って断ることができる。道路とか空港だと別なんですが、防災集団移転促進事業は、土地収用法の対象外ですから収用もできない。
非常事態では土地利用権を自治体に認めるべき
久保田氏:自治体にできることは何回も足を運んで信頼してもらい、理解してもらうことしかないんですね。国のお金なので、市場価格を超えて買収金額を釣り上げることもできない。
結局、「ノー」と言われると、諦めて別の土地を探すわけです。そうすると、新たに見つけた土地の形状が悪いとか、面積が足りないという問題が出てきます。さらに、ここでも所有者に断られたりする。そうなると、時間ばっかり経っていくんですね。
それは、被災して移転を余儀なくされている住民の方にとってみれば「いつまで待たされるんだ」という話です。
所有権者の意向も大事ですが、非常事態では自治体に、土地の取得や借地権など、一定の土地利用権を認めても良いんじゃないかと思うんです。この問題は今後の災害でも必ず生じると思います。平時においても、悪質な空き家などには自治体にはもっと権限を与えても良いのではないでしょうか。現状は憲法に保障されているという理由で財産権が強すぎます。
市役所職員295人のうち68人が亡くなっていた
加藤:交渉に関わった職員の方は何人ぐらいいましたか?
久保田氏:用地専門は5人ぐらいだったと思います。ただ、用地だけでなく計画作成係など、区画整理事業担当者は十何人いました。そもそも、陸前高田は市役所の職員295人のうち68人が亡くなっていて、職員が足りていなかったんですよ。だからその用地担当の人は、外の自治体から来ている応援の職員だったりしました。
これは笑い話なんですが、人が足りないので派遣応援職員に土地の買収に行ってもらうこともあるんですよ。それで、その派遣職員が言うのは、「地権者さんが言っている言葉が理解できません」と(笑)。土地の買収交渉に行っているのに、「メモが取れませんでした」とか言って帰ってくるわけですよね(笑)。
でも、そのうちにその地権者の人も「交渉に来ている役所の人が地元の人じゃない」と気がついてきて情が移り、「あんだも大変だべな、遠くから」と言ってお茶とかお菓子を出し始め、ついにはハンコをついてくれたみたいな話もありました。
▼「地方公務員オンラインサロン」のお申し込みはコチラから
https://camp-fire.jp/projects/view/111482
全国で300名以上が参加。自宅参加OK、月に複数回のウェブセミナーを受けられます
▼「HOLGファンクラブ」のお申し込みはコチラから
https://camp-fire.jp/projects/view/111465
・月額500円から、地方公務員や地方自治体を支援することが可能です
※本インタビューは全7話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 内閣府から出向 副市長として復興を進める
第2話 2,000人の地権者の同意を得る
第3話 古本屋と組んで4000万円の財源を確保
第4話 遺族からの追及 埋まらない溝
第5話 復興時に財源とどう向き合うべきか
第6話 復興庁は被災地に置かれるべき
第7話 国はがんじがらめ 地方行政はフロンティア