陸前高田の内と外をつなぐ
加藤:初めに計画を作り、次に実行フェーズに移られました。ご自身のお仕事はどう変わっていきましたか?
久保田氏:2011年は陸前高田の地域の実情を知るのに精いっぱいでしたが、2012年には少しずつ自分の貢献できる分野が見えてきました。というのは、支援の話がいろんな企業さんから増えて来る中、役所の中にそれをうまくつなぐ部署やポジションがなかったんです。
企業さんから見た被災地という視点は、陸前高田の人にはあまりないんですね。そこで、自分が内と外をつなぐ「通訳」の役割を果たすべきだと思いました。支援する企業の立場からしても、いろんな条件とかあるわけですよね。お金の上限はこれだけで、使い道はこの分野、そして、いつまでに実行されないと困るというのがあるので、そこを陸前高田のニーズと調整しました。
200~300案件が持ち込まれた
加藤:だいたい外部から持ち込まれた案件はどのくらいだったのでしょうか。
久保田氏:そうですね。期間中で200~300はあるんじゃないですか。在任中は毎朝陸前高田のことをfacebookで投稿していたんです。それを見た企業の担当者から、メッセンジャーで相談に乗ってほしいと連絡がいっぱい入りましたので、パソコン上でやりとりしたり、実際にお会いしたりしました。
加藤:実際に実現したのは何件くらいありましたか。
久保田氏:年間でも10以上はありました。もちろん、規模が大きいものから小さいものまであります。
連携はWin-Winでなければならない
加藤:民間企業からは具体的にどのような提案があったのでしょうか。
久保田氏:スポーツメーカーのアディダス(アディダス ジャパン株式会社)さんは、「子ども向けのサッカー教室をやりたい」「サッカー部の生徒を本社のあるドイツに連れて行きたい」など、いろいろ支援してもらいました。あるいは私と同じ名前のクボタ(株式会社クボタ)という農業機械の会社がありますけど、「農業分野で支援をしたい」と。やっぱり基本的に自分の専門分野に応じて支援をしたいと。
加藤:企業としては当然PRという要素も考えていますよね。
久保田氏:もちろんあります。基本的にCSRと結びついていて、彼らもどこかで社会貢献をアピールしたいとは思います。
加藤:そこが両方折り合って話が実際に進んだっていうことですね。嫌な提案も来るのでしょうか。
久保田氏:あります。だから、持ち込まれても受けないこともあるんですよね。いやむしろ、実現まで至らなかった案件の方が多かったかもしれません。たとえ、相手が利益を得るビジネスであってもこちらにも利益がなければ、つまりWin-Winでなければいけない。向こうがWinでこっちがLoseの提案を持ってこられても困るじゃないですか。火事場泥棒みたいなものなので、それは跳ねのけました。
企業と組んで4,000万円の財源を得た
加藤:良い連携だと思う事例はどのようなものでしたか?
久保田氏:自分が関わった話でいうと、バリューブックス(株式会社バリューブックス)さんという古本ビジネスのベンチャー企業がありました。
彼らはNPOなどと組んで古本を集めてもらい、それを買い取るんですね。その買取金額は本を出した人ではなく集めたNPOにいきます。寄付の代わりに、現金ではなく不要な本を出してもらうんです。その方が寄付者は出しやすい。いらない本って自宅に結構ありますよね。
私はバリューブックスの中村大樹社長と内閣府時代から知り合いでしたので、それを被災地に応用できないかと思いました。当時、陸前高田市の図書館が被災したので再建が必要だったのですが、その費用のために本の寄贈を募集したんです。そうしたら、なんと本の買い取り金額が累計4,000万円ぐらいまで到達しました。もちろん、4,000万では図書館は建ちませんが、蔵書や備品を買ったりすることができました。
加藤:大きいですね。
久保田氏:去年までで223万冊がバリューブックスさんのところにいきました。彼らもそれを売ることで会社の利益になりますので、win-winになるわけです。
加藤:寄贈してくれた人も嬉しいですよね。まさにWin-Winです。
被災地でビジネスをしたいとしか思っていない企業もいた
加藤:逆に嫌だった提案で、具体的にお話しできるものっていうのはありますか。
久保田氏:宗教がらみとビジネスに偏り過ぎているものですね。
加藤:Win-Loseということですかね。
久保田氏:そうですね。被災者の実情を分かろうとせず、売り込もうとしているだけ。要するに、被災地でビジネスをしたいとしか思っていない提案ですね。たとえば、IT系、クラウド系のサービスも結構売り込まれました。
生ものを送られると困る
加藤:なるほど。他に困ったことはありましたか?
久保田氏:生ものを送られると困るんですよね。相談もなしにじゃがいもが山ほど送られてきたりして、処理に困ることもありました。生ものだからずっと置いておけないじゃないですか。かといって、我々が食べるわけにもいかない。そうすると引取先を探さなきゃいけないんですよ。
だから給食センターに全部持ち込んで、申し訳ないですけどおばちゃんたちに皮を全部むいてもらって配ったりしました。善意は善意なんだろうけど、送る前に一報入れたり、時期を調整させてもらえると良いんですけどね。
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※本インタビューは全7話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 内閣府から出向 副市長として復興を進める
第2話 2,000人の地権者の同意を得る
第3話 古本屋と組んで4000万円の財源を確保
第4話 遺族からの追及 埋まらない溝
第5話 復興時に財源とどう向き合うべきか
第6話 復興庁は被災地に置かれるべき
第7話 国はがんじがらめ 地方行政はフロンティア