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【四條畷副市長 林有理 #3】リクルート式の「ヨミ会」を自治体運営に取り入れる

市の経営を担う「経営ボード」

加藤(インタビュアー):行政組織の課題点について伺ってきましたが、そんな中で林さんはどこから手を付けたのでしょうか。

林氏:組織を改革する際に、最初に手を付けるべきなのはやっぱりトップのレイヤーだと思っているんです。
 当時は部長級が13名いましたが、市長と部長級が一致団結しないと何も成せないのが現実なんですね。部長は行政で長年働いてきたメンバーですが、一方で、東市長や私は初めて地方行政に入ったわけですから、ここの意思統一が必要でした。

加藤:部長級から変革を始めたのですね。

林氏:はい。部長級13名+市長+副市長、そして教育長を一括りにした「経営ボード」を作り、「ここで本市の経営を考えていくのだ」という宣言も行いました。
 この経営ボードの枠組みは、民間企業では割とあるじゃないですか。でも地方自治体においてはあまりなかったみたいで、最初は困惑された方もいたようです。

加藤:やり方を変えると、一時的には負荷はかかりますよね。

林氏:数十年前までの地方自治体は、国の指示に従うことを課されていました。でももう時代は変わっていて、地方自治体が自ら考えて動く必要があるわけです。
 例えば若手中堅メンバーが新しい提案をしても、結局途中で消されてしまう。その度にモチベーションが少しづつすり減っていく。このような現象を起こさないためにも、まずは上位レイヤーからから変えていきました。

進捗管理をする「運営者会議」

加藤:その経営ボードでは、これまで何をされて来ましたか。

林氏:まずはちゃんと機能させるための会議体を考えました。「運営者会議」と名付けたのですが、その中では本市が一年間やるべき主要な施策について進捗管理しています。ちなみに、昨年度は約150施策について確認をしていました。かなり最初はスパルタだったと思います(笑)。
 当時の頻度は毎週水曜に30分間、全ての施策についてオンスケかどうかを一問一答で答えてもらい市長や私がバンバン質問して、各部長が瞬間的に即答できるレベルを求めて行きました。

加藤:それは鍛えられそうですね。

林氏:それまでは施策のスケジュール管理自体が甘かったので、何がどこで止まっているのか全体で把握していなかったんですね。当然それを共有し合う文化もなかったようなので、それを全員で醸成していきました。
 これは、私がかつて所属していたリクルートに「ヨミ会」という場があるのですが、その考え方をベースにしています。

リクルートの「ヨミ会」とは

加藤:リクルートのヨミ会は、営業数字等の進捗管理をする会議ですよね。

林さん:そうですね。目標に対する実績のヨミを毎週確認して、足りなければ意見を出し合いながら数字を達成させていく会議です。
 私が思うヨミ会の本質は、「組織で解決すること」にあると思っていまして。次のマネージャーを育てているんだなと。

加藤:なぜ、ヨミ会によって人が育つのでしょうか。

林氏:リクルートで徹底されているのは、「ナレッジは全員のものである」という考え方なんです。ヨミ会でメンバー同士のクライアントへの営業手法や対応をお互い共有しますし、上司の判断プロセスが見られるわけです。
 値引き交渉への対応一つにしても、どのようなロジックやスタンスに則ってどれだけの値引きをするのか、そういう判断軸を学ぶ場になっているんですよね。

加藤:なるほど、しかもその時間が毎週あるんですよね。

林氏:正直、私が営業をやっていたころは、このヨミ会は本当に嫌だったんです(笑)。めちゃくちゃ嫌でお腹痛くなる時間でしたけど、やっぱり組織が成長するためにはすごく効率的なんです。なので行政組織に合わせた形で取り入れることにしました。

運用会議は褒めるポイントを作ることもできる

加藤:実際に行政組織の中でそのヨミ会をやってみて、どうでしたか。

林氏:もちろん各施策がどんどん前進するメリットもありますし、あとモチベーションの話でいえば褒めるタイミングを作れたのは良かったですね。それまではゴール設定や進捗管理が曖昧だったので、褒めるタイミングが難しかったと思うんです。
 もちろん進捗が遅れているときに指摘するのも重要な役割ですが、やっぱり「できたね!」って言えるポイントを作ることは大事だと思います。

加藤:ちなみに、その運営者会議が始まるまではどのように進捗管理をされていたのでしょうか。

林氏:各事務や事業を司る課長が、自身の課の中で進捗管理を完結していたようです。運営者会議に似た「部次長級会議」と呼ばれる会議は過去あったようで、それの議事録を過去の約3年分読んでみたんですが、そこでは事業の進捗確認をしているわけじゃなく、「こんなイベントをやるので皆さん来てください」とか、市長が次の議会に向けて何かお話されるとか、そういう内容でした。

加藤:なるほど、それを進捗管理ができる形に変えたのですね。やりながら運用体形は変わっていきましたか?

林氏:当初、半年は私のほうで提案した週1の30分というペースでひたすらやりました。半年ほど経って、この組織にあった形を参加部長たちが自ら議論し模索して、2週で1時間ずつに変わりました。今や、すっかり私の手を離れて、部長の皆さんに任せられるようになっていますし、少しずつ状況に応じて最適化されています。
 今も2週に1時間ずつ行っていますが、月の1回は、進捗管理に加えて市全体の課題についてフリートークをする時間として使っています。

「なわて前進プラン」と「部長マニュフェスト」

加藤:ここまで進捗管理の手法についてお話を伺いましたが、そのゴール設定はどのようにされたのでしょうか。

林氏:ここも四條畷市の特色だと思うのですが、経営ボードとして運営者会議を行うにも「経営方針」が要ります。市が目指すべき方向性は「総合計画」にまとまっているのですが、そこに書かれている方向を見据え、より短期的な視野で具体的な目標を置いたもの、かつ、組織の運営を含めて考えたもの、を作りました。

加藤:それは、どんなものですか。

林氏:本市の総合計画は網羅性に富んでいて、よくできています。ただ、2050年までの長期にわたる計画ですので、具体的な目標や数値などは逆にほぼ無いんです。それが着任前に読んでいても気になっていました。ですので、総合計画に手を加えるのではなく、具体的な数値目標を入れた経営戦略、経営方針が別に必要だなと市長と会話しまして。1年ほど市長や担当部長と議論を重ねながら「日本一前向き」な市役所となるためのプランとしました。「なわて前進プラン」と呼んでいます。
 基本的には、「人口の社会増」をゴール(KGI)にしたとき、まずはこんな行政組織にしたいという項目を置き、そのように組織が変われば、より市民からも信頼され、「住みたい・住み続けたいまち」になるだろう。そうすると、未来へ投資できるような財政効果があるのでは、と。そのような投資がまた「信頼される行政」になっていく、という効果の循環、いわゆるぐるぐる図を想定しています。それぞれの項目に一定の数値目標(KPI)を置きました。

加藤:市長が旗を立てたことを言語化して、戦略を描き、施策に落とし込む。そして各施策の数値目標を立てて、進捗管理をする。とても重要なプロセスですね。

林氏:それを部長級がコミットできるように意思表示してもらい、全員で進捗を見ながら達成まで持って行きます。これを「部長マニフェスト」として公開しました。

加藤:部長の皆さんはこの成果をベースに評価を受けるのでしょうか。

林氏:はい。部長級の評価の仕方も変えました。「なわて前進プラン」に基づいた部の運営方針の達成度合いと、「部長マニフェスト」の進捗状況を鑑みて決めます。
 評価の変更でいうと、課長の賞与(ボーナス)の決め方も変更しました。かつては、人事が主体で決めていた賞与評価を、部長全員で「誰をMVPとするか」を審議する場を設計したんです。それぞれ自分の部から「この成果はぜひ評価したい」とか「この人は今は踏ん張りどころだから評価を」とか、そういう議論をしています。これは次の部長を自分たちの手で育てるという意識付けをすることや、組織で人を育てるというのが最大の意図ですね。

(取材=加藤年紀 編集=小野寺将人)

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※本インタビューは全6話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。

 

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