社会的な公益性の実現は、「ワーク・ライフ・コミュニティ」の3つで実現したい
後藤氏:私の中で大事なことをまとめて、「ワーク・ライフ・コミュニティバランス」という言葉を使っているんですけど、その中で一番大事なのはライフ、つまり家庭なんです。
これに順番付けるならライフ、ワーク、コミュニティとなるんですけど、よくコミュニティが一番初めにくる人がいるじゃないですか。そうなっちゃうと、家庭と職場で浮いちゃうと思うんですよ。いくらコミュニティで良い活動をして対外的には評価は得られたとしても、自分の周辺では全く評価をされない活動になっちゃうんですよね。
それは勿体ないと思うので、そこは履き違えないようにして、やっぱりコミュニティで得たものは必ずライフとワークに還元する意識を持つことが、自分がやっているコミュニティを活かす一番大切なことだと思います。
加藤:ご家族があって、職場があって、その下にオフサイトミーティングがあるんですね。
後藤氏:そうですね。かける時間は重要度と違うとは思うんですね。いくら仕事が2番目だからといって、忙しい時に仕事をしないで帰ることはちょっと違うことなので。意識としてライフ、ワーク、コミュニティの順なんですけど、かける時間のバランスは意識を持ちつつ、その時の状況に合わせてうまくバランスを取ることが大事なのかと思います。
僕は基本的にはそういう姿勢なので、ライフもコミュニティも充実させようと思うと、如何に仕事の時間をコンパクトにしていくのかと考えています。なので、極力時間外勤務はしないようにしていますし、無駄なこともやらないようにしています。最高を目指さずに、限られた時間の中で最適を目指すという考え方で仕事をしていますね。
ただ、最高を目指すスーパー公務員のような人もいますので、それはそれですごいなと思いますね。家庭とか自分の時間を潰してすごく大きい成果を出す方もいらっしゃるので、それを否定するわけじゃないですけど、自分の人生の生き方として仕事は最高ではなく最適を目指す。社会的な公益性の実現というのは、この「ワーク・ライフ・コミュニティ」3つで実現していけるように考えていますね。
加藤:それが良い悪いではなくて、それぞれの価値観があってお互いが尊重できれば良いですよね。ちなみに、市役所には定年までお勤めになられるおつもりですか?
後藤氏:今のところはその予定です(笑)。予定は未定ですけど(笑)。次の仕事が見つかれば辞めても良いんですけど(笑)。
人や地域の幸福度を上げるために、人が繋がるための場を作りたい
加藤:元々、人とコミュニケーションをとるのは得意だったんでしょうか?
後藤氏:いえ、人見知りなんですよ(笑)。初対面で顔を出したりするのが得意ではないんです(笑)。人前で話すのはだいぶ慣れたので大丈夫ですけど、勉強会の夜に飲み会があるじゃないですか。意外と知らない人のところに行かないですからね(笑)。仲間内をぐるぐる回るような(笑)。
でも来てもらえると、全然普通に喋るんですよ。なので、大体講演とかさせてもらう時は、「今は普通に喋っていますが、懇親会では人見知りで受け身なのでよろしくお願いします」って言っています(笑)。ただ、人と繋がるのは昔から嫌いではなかったんですよ。東北の人はそうなのかもしれないですけど、一歩境を越えるとすごく親しくなれるんですけど、それまでは構えちゃうという性格なので。
でも、人と繋がることって本当に大事だと思います。繋がることによって自分の可能性がすごく広がるんですよ。さっきの、普段入らないような情報が手に入るということだけではなくて、自分の持っていないスキルやノウハウを持っている仲間がいれば、その人たちと組むことによって自分一人だけでは出来ない活動を始められたりするじゃないですか。
そのスキルやノウハウを自分で得ようと思うとすごいお金や時間がかかるのに、その人と活動するだけですぐに取り組めるというのはすごいメリットで、それはつまり可能性が広がっていることだと思うので、特に若い人にはいろんな人と繋がって欲しいなと思っています。やっぱり生きているからには、自分の関わっている人や地域の幸福度を上げたいと思うじゃないですか。そのための手段の一つとして、繋がるための場を作りたいと思っています。
加藤:それによって、後藤さんのように活躍される人がもっと増えると良いですね。
後藤氏:いえいえ、私はどちらかと言うと繋ぎ役で良いなと思っているので。徹底的に繋ぎ役になりたいなと。自分で努力しなくても済みますからね(笑)、場だけ作ればいいですから(笑)。でも、だからこそ、例えば主催する勉強会とかで自分が紹介した人たちが何かの成果を生み出していることが見られると、そういうことが嬉しいんですよね。
地方自治体職員にも経営感覚が求められる時代
後藤氏:これから求められてくる職員っていうのは、基本的に民間の人とそんなに変わらないと思うんですよ。やはり経営的な感覚がないと、地方創生とかそういうことをやっていけない時代なので。
だから、昔ほど民間との垣根はなくなってきていると思うんですね。民間企業も利益だけでは成長できない時代で、CSRとか社会的な貢献を求められていることがあるじゃないですか。そういういろんな土壌が出来上がってきているので、民間企業と自治体がいろいろなものごとで手を組んで、いろいろなことをやっていくということが、そこの地域や自治体も伸びるし、その職員も伸びるかなと思います。
今後も地方自治体と民間企業の連携は進んでいく
加藤:実際に民間と地方自治体が共同で仕事をする機会は増えているじゃないですか。それは、後藤さんもお仕事される中でそういうチャンスは増えてきたなと思いますか?
後藤氏:いえ、あるようで、まだまだないなと思います。人事交流とかはありますけど、互いにリスクを取って何かをするってところまでは、まだまだないですよね。
加藤:そこの障壁になっているのは何でしょうか?
後藤氏:お互いだと思うんですけど、心のどこかに距離があるんだと思います。自治体からみれば「結局、利益優先だよね」と感じることがあったり、あとは「なぜ、あそこの会社なの?」という話を進める際の根拠づけの煩わしさ。逆に、民間企業から見れば「最近役所も変わってきているけど、結局、役所は役所だよね」と感じていて、本当の意味での相互理解が深まっていないと思います。
加藤:今後は、やはり民間と地方自治体が一緒に仕事していくという流れは今以上に進んでいきますよね?
後藤氏:そうでないと自治体が生き残れなくなってくると思うんですよ。少子高齢化でどんどん人は少なくなってくるので、そういう中で地方の生産性を維持する仕事をしようとすると、今までよりも生産効率を上げる努力をしていかないといけないんですけど、そこで民間企業と連携をして経済的な利益と、経済的なものだけではない、その地域全体の益を生み出していくということが大事だと思いますけどね。
加藤:地方自治体が、公職としてバランスをとりながら連携を進めていくというイメージですよね。
後藤氏:どんなに良い取り組みでも、「なんでそこの企業と組むの?」という軸がぶれたり、民間企業さん側も自治体と組んでいるんだっていう意識をしっかり持って、少し収益は上がらなくても公益的な部分の益を意識してもらうとか。
そういうところがないと、周りから足を引っ張られちゃうことはあるのかなと思います。そこを慎重にやりつつ、やることは今までの価値判断にないような、大胆なことをやっていくということが大事だと思います。
役所がやらない方が良いと感じることを民間がやればいい
加藤:民間企業と自治体が一緒に何かをやる時に、どの産業やお仕事であれば現実的だと思いますか?
後藤氏:そこはですね、役所がやらない方が良いなって感じるところからやっていくのが効率的かなと思いますね。例えば図書館だってそうじゃないですか。
「市民目線で役所がやらない方がうまくいきそうだな」ってところを、民間と一緒にやることが大事なのかもしれないなと思ったりします。もしかしたら学校なんかがそうだったのかもしれないですね。「なんで私立の高校があるのに、私立の小学校がないの?」とか。そういうところにピンときたのが樋渡さん(前佐賀県武雄市長)なんでしょうけど。
「こういうものがあったら良いな」というところを例えばアンケートとか対話で聞いて、これは面白いなというものも出てくるのかもしれないです。もしかしたら、「市民課の窓口は民間企業にした方が良いんじゃないの?」とか「福祉のサービスを民間企業さんに考えてもらった方が良いんじゃないの?」とか。
でも、それを役所の中の人に言うと「いやいやいや、介護保険とか役所がやらなきゃいけないでしょ・・」って従来の考え方にしかならないので、視点を変えることでいろんなアイデアを出して、そういう時に、先ほど言ったような法律を上手に解釈して出来ることを考えていくということに行き着くのだと思いますね。
ポジティブに目的を持って入ってくる民間出身者は地方自治体の力になる
加藤:今は、企業としての連携の話でしたが、民間企業出身の個人はどうでしょうか。最近私の周りにも会社を辞めて地方自治体で働く人もいます。山形市役所の中でも民間から来る人はいますか?
後藤氏:今年からなんですけど、社会人枠とかが出来ています。一昨年辺りから受験の上限が34歳まで上がったこともあり、民間を辞めて入ってきている方も多いですね。
逆に、新卒が少なくなっているような気もします。うちの市役所はまだそんなに多くないですが、逆のパターンもいますね。自治体を辞めて民間、もしくは起業するとかですね。
さっきの話と繋がるんですけど、求められている人材が同じようになってきているので、役所できちんと仕事が出来る人は、逆に言うとどこでもやれるので、例えば民間企業がやっていることがやりたいと思えば民間企業に行きますし、自分で縛りなくやりたいことをしたいと思うと起業する人もいます。
加藤:そうすると役所を辞める人っていうのは仕事の出来る人が多いという印象ですか?
後藤氏:まぁ・・辞め方も2種類いますからね(笑)。精神的に病んで辞めたり、本当にやる気がなくなって辞める方もいますけど、今は前向きに辞める人も増えていると思います。
「役所を辞めたらどこにも使われない」と世間で言われていましたし、実際昔はそうだったと思うんですよ。昔は役所に求められている人材が経営型の人間ではなくて管理型の人間、目の前の作業をきちんとやっていることが求められていたと思うので。
そうなると、やっぱり民間ではなかなかその風土に合わなかったりするでしょうし、ましてや起業なんてできないと思います。
加藤:民間出身の方が市役所に入ってきているのは、5年10年前に比べて増えてきているんですよね?
後藤氏:増えていると思いますね。
加藤:実際に入ってくる方は良い効果を生んでいると思いますか?それとも組織風土の違いもあって機能していないということもあったりするんでしょうか?
後藤氏:山形市役所では民間出身者が増えてはいますけど、そこまでの数はいないのでまだちょっと見えてない部分がありますが、他の自治体で聞いた話でうまくいかないケースもあると聞いています。
例えば、民間でついていけなくなって、役所だったら少し安定しているとか、ノルマがないとか、楽だという理由で入ってくる場合です。そういう人ってモチベーションがそもそも高くないですからね(笑)。ただ、その一方で、社会人枠という形で特定のスキルを持っている人は活躍していることが多そうですね。
例えば情報系の方とか、SEさんとか、コンサルさん。コンサルをしていた人が公共施設の管理とか、まさにただの管理になってしまっていたところを、きちんと現実的で合理的な計画書を作っているような良い効果も確かにあります。なので、ポジティブに目的を持って役所に入ってくる人を採用出来れば地方自治体の力になると思います。
加藤:今後民間出身で本当にやる気のある人の応募が増えてくると思うので、地方自治体が今よりも良い人をより選べるような環境に変わっていきそうですね。
「地方自治体」「民間企業」「地域」間で人の循環が生まれれば相互理解が進む
後藤氏:私は民間から自治体に来てもらうだけではなくて、循環した方が良いと思うんですよね。さっき、民間と自治体がまだまだ相互理解できていないとお話ししましたけど、それだけではなく「地域と自治体」とか、「地域と民間企業」もそうなんですけど、いろんな意味で立場が違う人同士が理解し合えていない部分があると思うんです。
それっていうのは、今まで人の流れが循環していなかったことが大きいと思うので、そういった意味では「民間から自治体へ」、「自治体から民間へ」みたいなことが増えればそれなりに人の循環と相互理解が進んで、「役所ってこういう考え方だからね」っていう認識を民間の中で広めてもらうとか、そういう良い方向に向くのかなと思うんですけどね。
▼「地方公務員オンラインサロン」のお申し込みはコチラから
https://camp-fire.jp/projects/view/111482
全国で300名以上が参加。自宅参加OK、月に複数回のウェブセミナーを受けられます
▼「HOLGファンクラブ」のお申し込みはコチラから
https://camp-fire.jp/projects/view/111465
・月額500円から、地方公務員や地方自治体を支援することが可能です
※本インタビューは全5話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 ボトムアップで地方自治体を強くするスーパー公務員
第2話 世の中のための『したたかさ』
第3話 頼まれごとは試されごとだから断っちゃダメ
第4話 地方自治体職員にも経営感覚が求められる時代
第5話 スーパー公務員として活躍する人は基礎的な仕事を疎かにしない