すでにマスコミで話題となっているフレデリック・ワイズマン監督の『ボストン市庁舎』。
その面白さと公務員の方におすすめしたいポイントを元四條畷市副市長・林有理さんに伺いました。
4時間を飽きることなく、まずは「ああ、同じだ」と引き込まれて。
4時間を超えるドキュメンタリーと聞いて、最初は不安だったんですが、見始めたらかなり引き込まれ、飽きることがありませんでした。最初の率直な感想としては、非常によく現場感を表していると感じました。ボストンは人種において多様性があり、日本と背景は違いますが、人種に限らず考え方や暮らし方はどこでも多様で、多様な意見や問題にいかに職員が立ち会えているかという点が「ああ、同じだな」と共感した部分です。
ただ、それらの諸問題に対する解決の姿勢にはアメリカ民主主義の深さ、市民社会の懐の厚さも感じました。行政の現場で民主主義の発露というものをどのようにしていくのか――ボストンでもそこに悩んでいるということに勇気づけられ、かつ、半歩先、一歩先を行っているような示唆に富む映画だと感じました。
「市で働くことは市民を助けること」という市長の言葉を一職員にまで。
映画ではマーティン・ウォルシュ市長にかなり割合が割かれ、「日本にはそういう市長がいない」というマスコミのコメントもあるようですが、市⻑の役割などは大差ないように思います。でも、そういうコメントが出るのは「まだまだ首⻑や行政の仕事が、市⺠にまで知られていない」表れだと痛感しました。ウォルシュ市長は市で働くことを「市民を助けること」と繰り返しメッセージし、それを一職員にまで、市民にまで自らの言葉で伝えようとする姿勢には敬意を感じます。しかしそれもウォルシュ市長だけが素晴らしいのではなく、彼を選んだボストン市民と、その市長の考えを率先して市民に伝える市役所職員が素晴らしいのだと思いました。
市民社会と行政とがどのように連携ができているのか、お互いが信頼しあうことができているのか、ということにおいては、どちらから先に歩み出すのか、ということはあるかもしれませんが、アメリカの民主主義の懐の厚さというか、市民を巻き込んだ深さは見るべきポイントだと思います。
「できたこと」も「できなかったこと」も率直に発言できるからこそ。
もう一点、私が感銘をうけたのは、行政の多くの現場では、例えば最近であればコロナ感染などが発生し、どうしても計画通りに進まないことがあります。もちろん努力が足りなければ批判されるべきだとは思いますが、努力してできなかったことについては、その結果を冷静に振り返り、次につなげるために、その結果に胸を張っていいんだと思いますが、実際の現場ではそうはなっていません。
それが、この映画の中では市民ミーティングなどで市長や職員が「私たちはここまでできた。でも、ここまではできなかった」と率直に発言しています。「私たちの役割」に対して、やったことはこうだった、できなかったことはこれだと職員たちが市民に語っている。すると市民はそれを聞いて、「それなら私たちは何をすればいいのか」と議論を返し、ともに市政を運営する一員となっていく。私はこういう組織が作りたかったと思った点でした。
市長や職員が市民の中に出向くこと。
市役所では窓口業務も非常に重要ですが、来てもらう課題に応対するだけではもうダメな時代に入っていると感じています。高齢者の介護、福祉、虐待、空き家問題など色々な課題が地方自治体には噴出しているわけですが、ボストン市役所の職員はかなり軽々と課題の現場に赴き、問題があっても“縮こまる”わけでも言い訳をするわけでもなく、その事実を受け止め、先ほどいったように「分かった、ここまでは聞く」「これは一旦持ち帰って市長に話す」と、その場で一職員が自分で考え、何がしかの解決策を市⺠に伝えることができていました。
ウォルシュ市長は私がお仕えしていた東市長にすごく似ていると思いました。28歳で当選されて、現在30代前半。コロナ禍でできなくなりましたけども、以前は住民との対話会を年間約40回はやっていました。市長が住民の課題を最も分かっている。市長が具体的なプランを掲げて、どれくらいしっかり顔を見せていくか。もちろん、市長が出ることが100%の解決策ではないですが、ウォルシュ市長ができるだけ市民に顔が見えるように参加するミーティングを戦略的に選び、効果的なワードを分かりやすく発信している点は、日本の首長や行政マンにとっても参考になるのではないでしょうか。
映画によって“比較対象”ができる、映画は“思考停止解除のキー”になる。
一般的に公務員・職員は、自身の職場以外の自治体のスタンスや働き方などを比較して見られる機会は少ないと思います。他ではどのように市民と会話をしているのか、どのように仕事を進めているのかというリアルについてはなかなか見ることがない。そういう意味で、この映画によって、自身がどんな働き方、どのように市民と対話ができているのかを振り返って考えられるのではないかと感じています。
日々、公務員は多くの判断を迫られます。福祉現場やコロナ対応など、市⺠の暮らしに直結する重い決断が続くこともあります。法や条例等は、そうした判断の拠りどころとなりますが、日々の現場の課題は、それだけでは判断できない場合も多々あります。そうしたときに、思考停止に陥ることなく、真の課題の発見と解決に立ち向かうため、現場に出ていこうとするボストンの姿勢はとても参考になりますし、そうでありたいと思わせるものでした。
映画は、そうした “思考停止解除のキー”にもなると思います。こうした点からも、ぜひ映画をご覧になってみてください。(2021年11月5日取材)
映画『ボストン市庁舎』
監督・製作・編集・録音:フレデリック・ワイズマン 2020年/アメリカ映画/274分
原題:City Hall 後援:アメリカ大使館 配給:ミモザフィルムズ、ムヴィオラ
© 2020 Puritan Films, LLC – All Rights Reserved
公式HP: https://cityhall-movie.com/
11月12日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ他全国順次公開
市役所などで働く職員が特別料金で見られる「市役所割」決定!
*当日料金¥2,200(通常当日¥2,800の処)にてご鑑賞いただけます。
*都道府県・区などの職員・公務員を含みます
*都内3映画館他、「ボストン市庁舎」公開劇場で実施
(割引実施の有無は公式サイトでお近くの映画館をご覧の上、直接映画館へお問い合わせください)
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