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地方自治体で働く若者たちへ 第6回:アイデアを形にしていくための実践力とは【後藤好邦】

 6回シリーズでお届けしてきた「地方自治体で働く若者たちへ」も、いよいよ最終回を迎えることになった。後半戦では「仕事上で必要なスキル(実務能力)」についてお話ししてきたが、最後にお届けするテーマは「実践力」だ。いくら良い政策(アイデア)を考えたとしても、それを形にしなければ意味がない。そして、政策を形にしていくためには事を起こす、つまり行動する必要がある。言い換えれば、何らかの行動を実践することでしか、新しい価値は生み出されないということである。
 実践力でまず大事なことは「“できること”からはじめる」ことだ。新たなチャレンジに取り組むことや、今までと違うやり方を改善していくことは大きな困難を伴う。それだけに最初から高い理想を掲げ、難しいことから取り組み始めると、それだけ失敗する確率は高まってしまう。そのため、まずは、できることから始め、小さな成功体験を積み重ねていくことが大切だと私自身は考えている。そして、そうしたプロセスを経ることで周囲からの理解も深まり、描いたゴールに向け着実に前進することができるのではないだろうか。
 このことに関して、1つの経験談をお話ししよう。入庁して6年目、私は初めて人事異動を経験した。異動先は高齢福祉課で、それまでの納税課における滞納整理とは大きく異なる予算や経理の仕事に加え、老人クラブの支援なども担当することになった。今から20年ほど前のことだが、すでに老人クラブの会員数は減少傾向で、何かしらの対策を講じなければならない状態だった。
 一方で、各老人クラブに対する補助金の交付業務に関しては、高齢者が手続きをすることもあり、申請書の内容に不備が多く、申請を受理してから交付までにかなりの時間を要する状況だった。このように、老人クラブ関連の業務だけでも、異動直後からすぐに取り組まなければならない課題が実に多く、経験不足の私にとっては、正直、何から手を付けていけば良いのか、分からない状況だった。しかし、今までの仕事のやり方を漫然と繰り返し行っていても、これらの課題を解決することができない。そう考えた私は、まず「“できること”からはじめよう」と考え、手始めに補助金の申請から交付までの時間短縮に取り組むことにしたのである。
 その時、私が取り組んだ改善は実に単純なことだった。補助金の交付事務で最も時間を要していた原因が、印鑑の押し間違い、つまり補助金の申請書で使用している印鑑と補助金の振込先となる口座の届出印が違うことによるものだったため、思い切って補助申請時の必要書類に通帳の写し(届出印が確認できるページ)を加えることにした。これにより、受付時に印鑑の違いを確認することができるようになり、また、何より申請者自身が申請書の作成時に印鑑の重要性を意識するようになると考えたのである。
 この改善により、それまで全体の1割以上もあった書類の不備件数が5%以下に減少し、また不備があった場合も早期に発見することができるようになったため、迅速に対処することができるようになったのである。そして、この改善が、老人クラブの取りまとめを行っていた山形市老人クラブ連合会事務局との距離を縮めるきっかけとなり、その後の様々なチャレンジへと繋がっていったのである。
 
 また、「実践力」向上にとって重要なことは、Give & Giveの対応である。現在、自治体に求められていることは多様であり、それだけに一つのセクションだけで解決できる課題は少なくなってきている。言い換えれば、他課の協力を得なければ解決できない課題が以前よりも増えてきているということである。そのような時に、Give & Takeを期待しても、なかなか相手は思うような対応をとってくれない。自分たちができ得ることをやり切ってこそ、はじめて何らかの対応をとってくれるのである。そうした意味でのGive & Giveなのである。
 私は行革推進課に在籍していた時にGive & Giveの対応の大切さについて気付くことができた。当時、オープンデータの公開について、情報企画部門と一緒に検討を行っていた。当初、私は役所で管理している情報やデータを公開する取組みであれば、基本的には情報管理部門がイニシアティブをとり、進めてくれると期待していた。しかし、最初の数ヶ月、まったく動きがない状況だった。そこで、少しでも動き始めるように、オープンデータの利用規約や取扱基準など、他自治体の事例などを参考にしながら導入にあたり必要な各種文書の作成から手始めに取り組んでみた。そして、その後も、オープンデータ可能な情報の有無を全庁的に調査するなど、行革部門ででき得ることを立て続けに実施していった。そうしたところ、情報企画部門の重たい腰がようやく動き始め、各課が持ち合わせているデータの加工や、公開後のメンテナンスなど、さらに面倒なことにも積極的に取り組むようになったのである。この経験から、自分たちができることをGiveし続けることによって相手の気持ちを動かし、そのことで実現可能性が広がっていくことを知ったのである。
 若手職員の頃には、経験もスキルも、そして人脈も、まだまだ少ない状況である。そのため、できることも限られている。しかし、その中でも「実践力」を発揮し、自分に求められていることに挑戦し結果を残していかなければならない。是非、今回ご紹介した“できること”から、まずははじめてみること、そして、相手の立場にたって行動するGive & Giveを意識した行動に心がけて欲しい。きっと、そのことで実践力が高まっていくはずである。
 連載コラムの最後にあたり、若手職員の皆さんにメッセージを送りたい。
今後、自治体を取り巻く環境は年々厳しさを増し、一方で、自治体職員に求められることはより大きなものになっていくだろう。こうした状況のなか、これまでの総量としてのマンパワーから、個としてのマンパワーが重要視される時代になっていくと私自身は考えている。つまり、自治体職員一人ひとりのスキルや意識の高まりが組織のパフォーマンスに多大なる影響を与えるということである。そうした時代のなかで、若手職員の皆さんには、是非、自己を高める意識を持って日々過ごして欲しいと感じている。きっと、そのことが地域を良くする第一歩になるとともに、皆さん自身の豊かな人生につながっていくだろう。

【後藤好邦氏の経歴】
1994年に、山形市役所にて勤務開始。納税課、高齢福祉課、体育振興課冬季国体室、企画調整課、都市政策課、行革推進課、そして現在では再度企画調整課に戻り、係長として交通政策を担当している。自治体職員が横のつながりを持つ機会を生み出すために、2009年に「東北まちづくりオフサイトミーティング」を3名で立ち上げ、会員を900名になるまで拡大させる。現在、雑誌『月刊ガバナンス』で「『後藤式』知域に飛び出す公務員ライフ」を執筆している。

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