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著者が語る『こうすればうまくいく 行政のデジタル化』(グラファー・石井大地)

石井大地さん

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(文=株式会社グラファー 代表取締役CEO石井大地 )

 私が経営する株式会社グラファーは、数十もの自治体において多数の行政サービスのデジタル化を手掛けてきました。自治体で働く方なら誰でもご存知のように、この手のプロジェクトでわかりやすい成果を上げるのは非常に難しいです。
 新しいシステムを作ってみたのはいいものの、思っていたより使われなかったり、業務の効率化につながらなかったりすることは多いものです。「新しい取り組みをやった」という成果はあっても、「投下した費用や人的リソースに対し、十分な効果をあげられているか」という観点でみると、自信を持って「うまくいった」と言えるプロジェクトは実はそれほど多くないのではないでしょうか。
 そんな現実を痛いほど理解している(つもりの)私が、わざわざ本書のタイトルに「こうすればうまくいく」などといういささか安直な言葉を使ったのはなぜでしょうか? 

「いやぁ、ちょっと魔が差しちゃってさ。売れればいいのよ、売れれば」

 ……というわけではもちろんありません。
 そうではなくて、「こうすればうまくいく」という言葉はむしろ、現実の困難さを伝えるためのアクセントなのです。

 どういうことでしょうか。
 様々なプロジェクトを請け負う際、私やグラファーの経営陣は従業員に、「できること・できないことをしっかり伝え、適切な期待値を持ってもらうこと」の大切さを繰り返し説いています。「いま流行りのGovtech(ガブテック)ですべてが解決!」みたいな抽象的な期待をふくらませるのではなく、「Aという課題に対し、Bというアプローチを適用することで、Cという効果を出す」といったように、常に具体的かつ明快に、課題とその解決のために行動し、結果を出すことを至上命題と捉えているからです。
 社内では、このことを示すモットーとして、『ブラック・スワン』や『反脆弱性』といった著作で有名なナシーム・ニコラフ・タレブ氏の次の言葉をよく使います。

「大事なことは議論に勝つことではない。勝つことである」

 我々は「良さそうに見えること」ではなく、「実際に良いこと」をしたいと思っています。「成果につながりそうなこと」ではなく「実際に成果につながること」を、「住民にとって便利そうなこと」ではなく、「実際に住民に利便性を提供すること」を追求したいのです。
 私はかつて純文学作家としてプロデビューしましたが、その際に取り組んだ作品のテーマは、「もっともらしく見える現実と、本当の現実の違いとはなにか」ということでした。よりわかりやすく言えば、「言葉と、言葉が語ろうとしていることの間には、必然的な結びつきはない」ということです(※ここでチョムスキーやソシュールの名前が思い浮かんだ方もいらっしゃるかもしれませんが、本稿ではそのあたりの哲学的な議論には触れないでおきます)。
 どういうことでしょうか。
 人間は言葉を操る生き物です。言葉というのは便利なもので、様々な概念を多くの人が効率よく共有することができる、文明の基盤をなす重要な機能です。しかしその言葉には一つだけ大きな欠陥があります。
 それは、「言葉には、必ずしもそれに対応する具体的な現実がなくてもよい」ということです。
 言葉は第一義的には、現実を描写し、情報を共有するためのツールです。「あそこの川のそばで熊を見た」「昨日は雨が降った」というような言葉がそれに当たります。このように現実を具体的に描写する言葉は、日々の生活を営む上で欠かせません。
 しかし、現実を具体的に描写する言葉を使うのは、案外難しいことです。「私はこうだと思います」と意見を述べるためには何の調査も必要ありませんが、「現実に起きていることはこれです」と指摘するためには、丁寧な調査や観察を通じて事実を知らないければならないからです。
 その反面、現実に基づかない虚構の言葉というのもの広く普及しています。それを人々は「物語(ストーリー、あるいはナラティブ)」と呼びます。例えば、ある起業家が会社を立ち上げ、どんな紆余曲折を経ながら成功への道筋をたどったか、といった話は、実際に起きたことを時系列で網羅的にまとめた事実の羅列とは異なり、受け手に特定の印象を与えるために構成された物語にすぎないわけですから、これは虚構なのです。
 物語は事実を指摘することではなく、物事の「因果関係」を訴求することを重視します。事実がどうである、ということではなく、こうだからああなった、という論理を語っているわけですね。世の中には、事実を語るための描写や叙述のための言葉と、因果関係を語るための物語の言葉が混在しているわけです。
 では、「Govtech」とか「AI」とか「DX」といった言葉は、どちらに属する言葉でしょうか。言うまでもなく、これらは何か特定の現実に対応した言葉ではなく、物語的に生成された概念です。
 例えば「DX」という言葉の背後には、「デジタル技術が普及し、人々の行動が大きく変容するなかで、これまでとは異なる業界のあり方が求められている」といった物語があるのでしょう。ただ、この命題そのものは事実を描写したものではなく、「こうすべきだ」という一種の規範的な物語にすぎません。
 考え方によっては、「いかにデジタル技術が普及しても、結局、ホモ・サピエンスの遺伝構造が1万年前と大きく違うわけではないのだから、人間の本性は変わらないのだ」といった物語をベースに「デジタルは人間を変えない」といった主張をすることも簡単にできると思います。
 これらの話は、どちらも一定の説得力を持つ物語であって、どちらが正しいかを判定することはできません。私が言いたいことは、物事をどう語るかには、みなさんが思っているより多くのパターンがあり、同時に物語をもっともらしく思わせるテクニックが存在するということです。
 厄介なのは、人の脳は現実を具体的に描写した言葉よりも、得てして抽象的な物語を読み解くことに快感を覚えるようにできている、ということです。小説や映画などは「フィクション」と呼ばれるように、対応する事実のない純粋な虚構ですが、そんな虚構が何十万人、何百万人に楽しまれることから、物語の快感がいかに強いかが分かります。
 これは私なりの推測ですが、具体的な事実の描写を大量に記憶するには人間の脳は小さすぎたため、起承転結がはっきりした物語を楽しむことで、生存のために必要な様々な教訓を効率よく学べるようになっているのだと思います。

 さて、ここまでの話をご理解いただいた上で、本書のタイトルにある「こうすればうまくいく」という言葉を見てみましょう。
 私が本書を通じて書いたことは、「こうすればうまくいく」という言葉に説得力を与えるためのそれらしい虚構の物語ではありません。そうではなく、デジタルプロジェクトで成果を出すために考えなければならないこと、やらなければならないことを可能な限り現実に即して具体的かつ網羅的に取り上げたものです。
 1冊の本を構成するためには、必然的に物語として読めるような文章構造にはしてありますし、読みやすさにはこだわりました。しかしそれらの物語の1つ1つに対し、自分やグラファーのメンバーたちがぶつかってきた具体的な現実が必ず対応するように書きました。今回の本は小説と違ってフィクションではないので、具体的な事実や経験に照らした話以外は書かないように気をつけました。
 ですから本書は、何か突飛な概念や面白そうな概念を提示して、「すごい!」と読者を唸らせることはないと思います。しかし、取り上げた1つ1つの内容については、必ずそれに対応する具体的な現実や経験があるように書いています。読み終わったあとに、全く新しい視界がひらけるような快感は得られないかもしれませんが、読み終わった直後から皆さんの作業や意思決定が具体的に変わるように書いています。
 デジタルプロジェクトは、単にシステムを作って導入すれば良いというわけではなく、システムの導入に合わせて、既存の業務を見直すことも必要ですし、その前提となる条例や規則を変える必要が出てくることもあります。導入後も、利用者のフィードバックを得ながら継続的に改善していかなければなりません。そしてプロジェクトを進める過程で関わる様々な部署の様々な人たちから理解を得て、効率よくコミュニケーションをしていく必要もあります。そのようなたくさんのポイントをクリアしていって、初めて成果につながります。
 もうおわかりでしょう。「こうすればうまくいく」という言葉は、決して安請け合いの言葉ではないのです。そうではなくて、「ここまでやらないとうまくいかない」という意味だったのですね。読者を鼓舞するどころか、軽い脅迫ですよね(笑)。

 ぜひとも本書をお手にとっていただき、タイトルの「ひとひねり」を体感していただければと存じます。

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