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新型コロナウイルスが僕に教えてくれたこと

ビレッジプライド

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(文=邑南町 商工観光課長 寺本英仁)

 3月13日 青天の霹靂である。
 なんと、人事異動の内示により商工観光課長昇格の内示を受けた。

突然の出来事

 2月まで、僕は、にっぽんA級(永久)グルメ連合加盟自治体の支援や全国の自治体や商工会、教育機関などから講演の依頼で、日本中を飛び回っていた。
 しかし、その頃、世界中で新型コロナウイルスの感染が猛威を振るい始め、2月末からはすべての依頼をキャンセルし、僕は、出張を自粛して、役場で町のコロナウイルス対策や、通常業務をこなしながら普段の生活を過ごしている矢先のことだった。

 僕は、この内示を受けて、正直、驚きを隠せなかった。なぜなら、役場での僕の役職は調整監だったので、その上の役職である課長補佐を経験しないと、課長にはなれないと思っていたから、まだその段階を踏んでいない僕にとっては、あるはずもないことだと思っていたからだ。しかし、役場のシステムはどうやらそうでもないらしい。

暗闇からのスタート

 邑南町役場の管理職制度は、部長制はないので、課長になると議会対応を中心にやらないといけないのでかなりの重責である。そのうえ、今回は、誰も経験したことがないようなコロナウイルス感染症の蔓延により、社会全体で自粛ムードが強まり、世界経済は混沌としているさなかだ。この先、世界はどうなっていくのだろう・・・と世間のニュースはコロナ一色の中、商工観光課長としての役職に就くことになった。2020年4月1日、新体制での商工観光課が走りだした。

 2008年のリーマンショックの時も相当な経済の落ち込みがあったというが、邑南町に住んでいる僕たちにとっては、あまり実感がなかった。今回のコロナウイルス感染症においては、4月7日に国から全国に緊急事態宣言が発令されて以降、都市部だけでなく、邑南町でも明確に町内の人の出入りが少なくなっていた。この状況下のもと、町内で大打撃を受けたのは、宿泊事業者や飲食事業者である。
 通常なら3月、4月は送別会や歓迎会、お花見シーズンで、飲食事業者はかきいれどきのはずだが、どの店も閑古鳥が鳴いている状況である。

A級グルメの成果

 邑南町は平成23年度から農林商工等連携ビジョンを策定し、『A級(永久)グルメのまち』づくりに取り組み、(これについては僕の著書『ビレッジプライド』(2018年11月出版)を読んで頂ければ、理解が深まると思う。)全国に先駆けて『食と農』をキーワードに地域循環型の経済の町づくりを目指している。
 その成果として、全国的にみて、地方の飲食店では高齢化に伴い店舗数が減少していく中で、本町では、このプロジェクトが開始した平成23年以来、それまで約20店舗しかなかった飲食店の数が急増し、令和元年までの8年間で新たに23店舗の飲食店がオープンしたのだ。
 これは、『中山間地域の軌跡』と言っても過言ではないと思っている。この成果こそ、無名だった『邑南町』という地名を全国的にした最大の要因のひとつであると思う。

町の基盤を救え

 ようやく『A級(永久)グルメ』が浸透しはじめた今、コロナ禍で大打撃にあっている飲食店や宿泊事業者をなんとか救済したいと考えた。この業種は人との接触がいちばん多い職種でもあるので、町内の感染源になってはならないことも懸念し、同時並行に考えていた。
 この2つの懸案事項をクリアするために、県内ではいち早く、4月8日に『宿泊・飲食サービス業感染予防対策補助金』を打ち出した。
 この支援策は、飲食・宿泊事業者が感染予防や新しい生活様式に対応した新サービスを実施する事業者に、最大20万円を補助する制度であり、約60店舗のうち8割程度の事業者からの申請があり、好評を得た。この事業は、後に業種の幅を広げ、島根県の『商業・サービス業感染症対応支援事業』のモデルとなり、県内の事業者の多くの救済につながった。

地域にお金を回すしくみ

 ここで、循環型経済を復習して行くうえで意識しないといけないのは、この補助金の対象は『宿泊・飲食サービス事業者』であるが、その一方で恩恵を受ける業種があることだ。この補助金の使途で多かったのは、感染予防対策のための空気清浄機やデリバリーの食材をストックするための冷蔵庫などの電化製品だった。ということは、補助対象者だけがメリットがあるわけではなく、地元の電気店も販売促進という効果につながるのでる。『地域にお金を回す』と言う意識で補助金を策定しないと、効果が半減してしまうのだ。そして、矢継ぎ早に飲食店に手を打ち続けた。
 次に行動に出たのは、役場職員約250人の昼食を、地元の飲食店にお弁当を注文、配達してもらうことで賄う「邑南町職員弁当プロジェクト」だった。普段、職員は自宅から弁当を持参したり、自宅が近い職員は食べに帰ったりする習慣があったが、今回は商工観光課から、全職員に協力をお願いした。
 この動きに町職員組合にも協力してもらい、なんと2ヶ月の間、1日に100〜150食近い注文を毎日頂き、飲食店の支援をすることができた。
 毎日、何軒かの飲食店に交互で600円という統一した価格で弁当をもってきてもらい、職員は、その中の弁当を自由に選べるということで、「今まで行ったことがなかった飲食店のお弁当を食べることができて嬉しい」とか「複数のお店のお弁当が役場にいながら選べるのは楽しい」など、概ね好評の意見を頂いた。
 また、飲食店自身もこのプロジェクトで、従来の売り上げには到達するものではなかったが、役場職員の熱意は感じてくれたと思う。
 さらに、この役場内での「弁当プロジェクト」は、町内の病院や社会福祉協議会など他の事業所にも浸透し、「A級グルメのまち」邑南町の飲食店を町全体で支える動きになっていった。
 唯一個人的に残念だったことは、僕のズボンのベルトを緩めないといけなくなったことだ。(笑)

 緊急事態宣言により、飲食店は大打撃を受けたことは間違いないが、新型コロナウイルスは、日が進むにつれ深刻化を増し、日に日に飲食店や宿泊事業者だけでなく町内の全業種に影響が及んできた。そこで、この対応に国は持続化給付金を早々に打ち出した。企業が最大200万円、個人事業主が100万円とかなり給付金額は大きかった。条件が前年同月比と比較して50%の半減が条件となっていたため、僕は、これは厳しすぎると感じ、この対象にならなかった事業者を支援するために、町独自で前年同月比と比較して20%~49%減少した事業者に対し、一律20万円を給付する補助金、総額5千万円を6月議会に提案した。
 議会では、町内の中小企業の支援策だと熱弁を振るったものの、議会承認後、8月末現在で申請数は10%程度と、僕の予想は大幅に外れた。

修正する力

 僕は、自分の仕事の流儀として3本の柱を決めている。
① 問題発見能力 ②仮説を立てる能力 ③修正力(リカバリー能力)だ。
 この補助金の提案は、僕なりに問題発見をし、仮説を立て、補助金のスキームを構築して議会に提案し承認してもらったが、結局、執行率は、今のところ相当低い。でもこれからが一番重要なのである。要するに修正(リカバリー)する力だ。
 修正力(リカバリー能力)は再度問題発見することで、真の課題が発見でき、それに仮説を再度たてて実践すればよいのだ。とにかく、失敗を恐れず前に進むことを諦めなければ、いずれ答えは出てくる。そう、『答えは地域にある』のである。
 僕は、担当者に、なぜ事業者が申請をだしてこないのか、その理由としては、告知不足なのか、申請要件のハードルが高すぎて該当していないのか、もしくは、僕たちが考えていた以上に地域経済は深刻で、国の持続化給付金の方に申請をしたのか、調査する必要がある。僕は、行政に足りないのは、この修正力だと思う。計画を策定すると、KPIに向かって手法を変えないことが課題なのである。
 KPIを達成するためには、もう少し、あの手この手を使ってゴールに到達することが、町のため、引いては住民のためになるのにと感じることが少なくない。今回のコロナ対策も、住民ニーズに応えるために次々と手を打つことが必要だ。

地域で取り組む効果

 次に手がけた事業は、「新型コロナウイルス感染症対策取組み宣言店」の取り組みである。地元の公立病院の名誉院長で、町の医療対策アドバイザー石原晋氏と邑南町食の学校の川久保陽子マネージャーに、民泊業・飲食サービス業事業者向けに町独自の感染予防マニュアルの作成を依頼して、対象業者に3回の研修会を開催した。研修修了後には、各店舗でマニュアルに沿った感染予防対策を実施していただき、町が発行した『新型コロナウイルス感染症対策取組み宣言書』を店内に掲げることで、来客者に安心してサービスを受けてもらえるスキームだ。
 この事業は、民泊業・飲食サービス事業者60件のうち、36の事業者の受講があった。これから『新しい生活様式』に転換していくことで、感染予防の意識は『当たり前』になってきているし、一軒だけ取り組んでも意味がなく、地域(エリア)で取り組んでこそ意味があると感じている。お客様から『邑南町の民泊業・飲食サービス事業者は感染予防の対策がしっかりできている』と話題になると、やがてブランド化をして町全体の誘客に繋がるのである。

新型コロナウイルス感染症対策取り組み宣言店

住民からの声

 このように、コロナ感染予防対策に奔走しているとき、小売店の事業者から忠告を受けた。『町はA級グルメを推進しているから、宿泊・飲食事業者ばかり支援している。小売り事業者は町民が外出を控えているから、食品関係は売上が上がっている業種もあるが、大半は、15%~20%くらい売り上げが落ちている。事業所として雇用をして給料を毎月支払うとなると、このくらいの減少率でも大変なんだ。』と。この声を聞けば、前にあげた持続化給付金の対象にならなかった事業者への補助要件を15%にしていくべきだったと反省した。しかし、今更、要件を変更すると逆に不公平感が出てしまう。手だてとしては、新しい対策が有効だと感じた。それは、修正力(リカバリー能力)を積み重ねていくしかないのである。

課題から生まれるアイデア

 議会や町民、事業者の声を掘り下げて聞くことで、アイデアは生まれるのである。そして7月、商工観光課でいきついた考えは、邑南町民約1万人に対して1万5千分の商品券を配布する『もらって幸せおおなん商品券』である。

おおなん商品券 これは、プレミアム商品券のように20%程度増額する商品券ではなく、全ての金額を商品券として配布し、12月15日までに転入及び出生した住民に対しても配布する。この金額は、もちろん島根県内最高額である。
 緊急事態宣言後、国は特別定額給付金として一人あたり一律10万円を配布した。平常時は、自治体それぞれのアイデアが大切であるが、緊急時の支援は『わかりやすさ』が大切だと思う。そういった意味では、特別定額給付金は、国全体ではかなり景気の底支えにはなったが、現金は町外でも使用できるため、町の経済循環に繋がったかと考えるとそうでもない。この反省を生かし、住民の生活支援だけでなく、町内事業者の支援、特に売り上げが下がっている小売店の支援にも繋がると考え、『もらって幸せおおなん商品券』を考案したのだ。

スピード感とタイミング、そしてチームワーク

 この商品券の総額1億6千万円の事業のスキーム構築から事業実施まで、7月後半から8月のお盆までの約3週間しか時間を要しなかった。もちろん、これだけの予算を町が動かすとなると、臨時議会を開かないと、予算化することは到底できない。
 臨時議会は7月22日に開かれた。僕たち商工観光課が考えたのは、なんとかお盆までに商品券を配布したい。なぜなら、商品券もタイミングだと考えたからだ。出費の多いお盆前に配布しないと効果が半減してしまうのだ。
 どうしても7月22日の臨時議会で予算を承認してもらわないと、商品券の印刷の発注などの契約を伴うものは執行できない。それだけでなく、取り扱い事業者の募集、当日配布の事務に従事する町職員へのレクチャー、引換券の封入作業など業務量を考えると時間的には大変厳しいものになる。
 僕は、4月からの数か月、一緒にコロナ対策をやってきた商工観光課の課員に感謝をしなければならない。彼らは、この数か月、コロナの経済対策に奔走し疲れ果てているにも関わらず、平日の時間外、そして土日に課員全員が出勤して作業を進めてくれた。そして、お盆前の8月11日、町内の12公民館を受け付け窓口として、商品券を配布することができたのだ。この日に受け取りにこれなかった方については、8月末までに全ての方に郵送した。このことを予め広報していたにも関わらず、約7割の住民の方が受け取りに来られたことを考えると、この事業の関心の高さがうかがえた。『もらって幸せおおなん商品券』は住民にも事業者にも評判はよかった。

飲食店の底力

 一時的な経済対策と言う人もいるかもしれないが、短い期間でこれだけの金額が町内を循環すると活力が生まれることは間違いない。
 この活力こそが、コロナ対策に向かう力になると思う。その力は、飲食店事業者から生まれてきた。
 A級グルメ構想の仕掛けは、平成23年以来、行政が行い、民間事業者がそのあとを動いてきた。悪く言えば、事業者にとっては『やらされ感』を感じている人もいたに違いない。しかし、この全世界が動揺したこのコロナウイルス感染で、邑南町の飲食店は『A級(永久)グルメのまち』を看板に、飲食店自ら基準を設け、地域(エリア)での取り組みをはじめた。基準の内容は次のとおりである。

① 美味しい料理を提供する。
② 地産地消を推進する。
③ 真心のこもったサービスを提供する。
④ 衛生管理(コロナ感染予防対策を含む)を徹底する。
⑤ ビレッジプライドを持つ。

 この基準をクリアした店舗には、『A級グルメ宣言店』として地域商社ビレッジプライド邑南が宣言書を発行するスキームになっている。そして、この宣言加盟店で食事をされたお客様には、1回につき1個のスタンプがもらえ、3個たまったスタンプカードを事務局に送ると、年2回邑南町の特産品が抽選でプレゼントされるという特典付きである。この宣言店の取り組みは、事業を始めて2週間で20店舗の加盟があったそうだ。
 町がA級グルメの推進をして行くうえで、10年かかった町内飲食店への周知が、事業者自らがいざ動き始めると、恐ろしいくらいのスピード感で事業が進むと痛感させられた。

邑南町A旧グルメ宣言店

暗闇から見えたこと

 要するに、僕たち行政マンの仕事は、いかに民間事業者が動きやすくできるかが仕事のポイントになると再認識した。あくまでも主役は住民である。
 それを感じることができる地方公務員の仕事は、最高に面白いとコロナが僕に教えてくれた。

 寺本英仁さんの著書「ビレッジプライド 「0円起業」の町をつくった公務員の物語」はコチラ

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