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総務省消防庁コラム1

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ウォーターカッター車を活用した消火戦術について[札幌市消防局]

(記事提供=総務省消防庁 広報誌『消防の動き』

1 はじめに

 札幌市は、北海道の政治・経済・文化の中心都市であり、人口197万人を超える全国5番目の都市で、日本最北の政令指定都市です。
 札幌市消防局は、1局10消防署41出張所で組織され、救助隊は、市内10の各消防署に1隊が配置されており、中央消防署の救助隊については、平成18年4月から「特別高度救助隊(愛称:スーパーレスキューサッポロ)」に位置付け、救助車のほか、総務省消防庁から無償貸与された、特殊災害対応自動車、ウォーターカッター車、大型ブロアー車、大型除染システム搭載車の計5台の車両を運用し、災害等に対応しています。

2 経緯

 ウォーターカッター車は、高圧で噴射する水に研磨剤を混合し、鉄板やコンクリートの切断が可能な車両で、平成17年のJR福知山線脱線事故を契機に、平成19年に総務省消防庁から、当局を含めた5つの政令指定都市に配備され運用しているところです。
 当局では、可搬式ブロアーの活用をはじめとした新たな火災防ぎょ戦術について検証、導入を進めるなかで、多くの活動実績や検証調査が進んでいる海外の取組みに着目し、平成26年に札幌市内部で行っている「海外事例調査助成事業」を活用して、スウェーデンにおける火災防ぎょ戦術の取組みについて調査研究を行いました。
 スウェーデンでは、火炎・熱・煙を積極的に制御する理論と技術を研究し、ブロアーを活用した排煙技術と屋内進入での高圧フォグ注水技術などを駆使して、効率的に火災の早期制圧を図っているほか、ウォーターカッターユニットを活用した消火戦術を火災現場で実践していることが分かりました。
 当局では、ウォーターカッターユニットの特徴である、水ミストによる冷却・窒息効果に着目し、当局の消防科学研究所と、建物火災におけるウォーターカッターの活用方法について実験・検証を重ね、実火災においてもその効果を確認し、効果的な活用について調査・研究を進めてきたところです。

3 消火実験検証

 検証では、研磨剤を混合せず水のみで放水した場合の各建築部材の破壊損傷の検証、小規模区画内や室内の死角部分(屋根裏、壁体、ダクト内)など有効注水が困難な空間への放水、フラッシュオーバー等の抑制を目的とした放水など、様々な条件下でウォーターカッターによる放水(以下「ミスト放射」という。)を実施した場合の有効性(冷却効果・窒息効果等)について実験等を実施しました。

⑴小規模区画(吸排気同一:開口部一箇所)での検証実験

 小規模区画内(燃焼実験ユニット)でイソプロピルアルコールを燃焼させ、内部温度が400℃に到達した時点で、ドア一箇所を開放しミスト放射を行い、区画内の温度変化及び火勢の状況を検証しました。(写真1)

写真1 小規模区画での検証状況

写真1 小規模区画での検証状況

【実験結果】
 ミスト放射が正面の壁に当たり拡散し、放水後約30秒で、最大400℃以上あった区画内を100℃前後まで急激に低下させることができたほか(図1)、窒息効果により、火炎も急速に衰え消火に至りました。

図1 小規模区画内の温度変化

図1 小規模区画内の温度変化

 小規模閉鎖空間内での火災においては、ウォーターカッターの水ミストの充満と循環の効率が良く、室温の低下を容易にし、フラッシュオーバーの抑制が期待できます。
⑵室内死角部及び屋根裏等を想定した検証実験
 室内の死角となる場所への放水や、屋根裏内の火災など燃焼実体に直接有効注水が困難な状況を想定し、ウォーターカッターとガンタイプノズルによる放水により燃焼部分の温度変化及び火勢状況等の変化を検証しました。(図2・写真2~6)

図2 室内死角及び屋根裏等を想定した検証状況

図2 室内死角及び屋根裏等を想定した検証状況

写真2 2×6材の設置状況と燃焼状況

写真2 2×6材の設置状況と燃焼状況

写真3 放水開始から10秒後(ウォーターカッター)

写真3 放水開始から10秒後(ウォーターカッター)

写真4 放水開始から10秒後(ガンタイプノズル)

写真4 放水開始から10秒後(ガンタイプノズル)

写真5 放水開始10秒後の赤外線画像(ウォーターカッター)

写真5 放水開始10秒後の赤外線画像(ウォーターカッター)

写真6 放水開始10秒後の赤外線画像(ガンタイプノズル)

写真6 放水開始10秒後の赤外線画像(ガンタイプノズル)

【実験結果】
 ウォーターカッターの水ミストが室内全体に拡散・対流し熱を吸収したことで、火点周辺に対し大きな冷却効果が得られました(図3)。ガンタイプノズルでは、水粒子が大きく十分に拡散されなかったことから、ウォーターカッターに比べると、温度低下が緩やかであり、十分な冷却効果が得られませんでした(図4)。このことから、室内の死角や屋根裏等、直接燃焼実体に放水が困難な場合は、完全消火には至らないがミスト放射により、火勢拡大を防止し延焼を遅らせ、フラッシュオーバーの抑制効果も期待できます。
 また、放水開始から放水終了までの約3分30秒間の放水量を比較すると、ミスト放射が105L、ガンタイプによる放水が840Lと水損防止の効果も期待できます。

図3 温度変化(ウォーターカッター)

図3 温度変化(ウォーターカッター)

図4 温度変化(ガンタイプノズル)

図4 温度変化(ガンタイプノズル)

4 現場活動事例

 各消火実験検証により、一定の条件下においては、ウォーターカッターによるミスト放射が有効であることが証明され、実火災においてもその効果を検証しています。
 そのうち特に有効であった火災事例について、2件紹介します。

事例1 事例2

5 検証結果のまとめ

 前述した各消火実験検証や現場活動事例などから、比較的密閉された空間など一定の条件下においては、室内の死角となる部分、屋根裏や壁体内など、直接、燃焼実体に有効な放水が困難な場合であっても、ミスト放射が「火災室内の早期冷却」、「火勢拡大防止」、「フラッシュオーバーの抑制」に効果を発揮することが確認できました。
 なお、大規模倉庫などの大区画火災、火災区画で開放されている開口部が多数存在する場合や開口部の面積が大きい場合、火災建物の屋根が崩落している場合など、ミスト放射が火災区画に充満されない条件下においては、ウォーターカッターによる消火効果を期待することはできないと考えます。

6 おわりに

 これまでの検証や現場活動事例などを基に、火災現場においてウォーターカッターを有効活用するためのモデルケースや留意点をまとめた資料により、各部隊への周知を図るとともに、ウォーターカッターの更なる効果的な活用について検討・検証を重ねているところです。また、今後もより効率的、かつ効果的な消火戦術を調査・研究し、市民の負託に応えていくことが我々の使命であると考えています。

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