主張・意見

1日あたり450件。中絶という選択の実態【若年妊娠特集】

NPO法人ピッコラーレ代表理事の中島さん。

(引用元=リディラバ・ジャーナル

2019年6月7日に厚生労働省が発表した人口動態統計(概数)によると、2018年の出生数は91万8397人で過去最低を更新した。

一方で、国内では年間約16万件の人工妊娠中絶(以下、中絶)が行われている。

中絶件数自体は減少傾向にあるが、それでも1日あたり約450件に上る。また、10代の妊娠の場合は、出産よりも中絶を選択する割合が高い。

意図しない妊娠による中絶は“自己責任”と言われることもあるが、中絶に至る背景には社会的な要因もある。

また関係者の話からは、産みたいと思っていても中絶を選択せざるを得なかったり、中絶を希望しても手術を受けられなかったりと、女性の自己決定権が阻害されている実状が浮かび上がる。

構造化イラスト(若年妊娠)

産みたくても産めない理由

妊娠にまつわる相談・支援を行うNPO法人ピッコラーレ(旧・一般社団法人にんしんSOS東京、東京都豊島区)代表理事の中島かおりさんは、産みたいと思っていても中絶を選択する事情について次のように話す。

「女性のほうは好きな相手との子どもだから産みたいと思っていても、男性の側はそんなつもりじゃなかったということもありますし、不特定多数の人と関係を持っていて誰の子どもか分からない人もいます。そういう場合は、産みたいけれど、ひとりで育てていけるのか、子どもが大きくなったときに父親についてどう伝えたらいいのか、自分の気持ちだけで決めていいのかと、誰にも言えず葛藤した結果、中絶を選ぶことがあります」

NPO法人ピッコラーレ代表理事の中島さん。

NPO法人ピッコラーレ代表理事の中島さん。

ただし、産みたい気持ちがある場合は、子育てのサポート体制さえ整備されていれば、産めるケースもあるはずと中島さんは指摘する。

「産みたいと思っていても産めないのは、子育ての責任をすべて親が負わなければならない環境によるところが大きいと思います。そうなると、仕事や学業と子育てとの両立は難しいからと、出産を諦めてしまいますよね」

政府は少子化対策を掲げているが、妊娠して子どもを産みたいと思っている人が、出産を諦めざるを得ない現実がある。

シングルマザーとして子育てをしたり、仕事や学業と子育てとの両立ができたりする支援体制の整備などが求められている。

「高校生だから中絶」と決めつけないで

また若年妊娠の場合、若いからというだけで中絶を前提とされることもあるという。

中絶について研究する産婦人科医の遠見才希子(えんみ・さきこ)さんは、ある妊娠した高校生の保護者から「産婦人科に行ったら、医者がきちんと話も聴かずに、中絶の日程を決めようとした」と相談を受けたことがある。

「その方は産むか中絶するか悩んでいるところだったのに、高校生というだけで、中絶すると決めつけられたと気を悪くされていました」

産婦人科医の遠見さん。

産婦人科医の遠見さん。

こうした医療従事者の対応について、遠見さんは意図しない妊娠をして悩んでいる場合の選択肢がきちんと提示されるべきだと強調する。

「妊娠した場合には大きく3つの選択肢があります。一つは母親が出産して自ら育てること。もう一つは、出産して里親や特別養子縁組に出すなど、他の人に育ててもらうこと。そして中絶です。選択肢がなければ、本当の意味での自己決定はできないですよね」

どのような選択肢があって、それぞれの道を選ぶと本人と子どもはどうなるのかという情報があってこそ、自己決定ができる。そして、その決断が納得いくものになるようには、周囲の支援が欠かせない。

パートナーから中絶を阻まれることも…

しかし産みたくても産めない人もいれば、周囲の対応によって、中絶を望んでいても阻まれるケースもある。

中絶を行うにあたって障壁となるのは、配偶者の同意を得ることだ。

中絶を合法的に認める「母体保護法」においては、配偶者の居場所が分からない場合などをのぞき、配偶者の同意書が必要となる。

<母体保護法第14条>

都道府県の区域を単位として設立された社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。

一 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
二 暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの

2 前項の同意は、配偶者が知れないとき若しくはその意思を表示することができないとき又は妊娠後に配偶者がなくなったときには本人の同意だけで足りる。

だが、女性がドメスティック・バイオレンス(以下、DV)によって妊娠してしまうこともある。

中島さんは「避妊したくても夫が避妊に協力してくれないという相談もあります。それから、離婚を認めてもらうために、望まない性行為を受け入れなければならなかった人もいます」とその実情を明かす。

そうした場合、妻側が中絶を望んでいても夫側が認めてくれないことがあるという。中島さんは、現行の制度の問題点をこう指摘する。

「配偶者の同意を必要とする要件は、DVなどを想定してないと言わざるを得ません。避妊に協力してもらえなくて、暴力で押さえつけられて妊娠したのに、中絶できないのは問題だと思います。医師によってはDVによる妊娠だと説明すると、同意書を免除してくださる場合もありますが、パートナー間の性暴力の場合は証明が難しいことも課題です」

親に迷惑をかけたくない子どもたち

また未成年の場合は、中絶にあたって親の同意を求められることが多い。その理由について、中島さんは次のように説明する。

「法律には中絶にあたって親の同意が必要という記述はないのですが、日本では親の同意書を求められることが多いのです。中絶手術で何か問題が生じたときに、訴えられる可能性もあるので、医療者側は自分たちを守るために同意書を求めるんです」

しかし、親に言いたくない、言えないという場合も多いと中島さんは語る。

「両親と一緒に住んでいて、親との関係性が悪いわけではないけれど、心配かけたくないとか、親の期待を裏切ることになるから言いたくないという子もいます。それから虐待されていて、妊娠したことを親に言ったら殺されると言う子もいます……」

NPO法人ピッコラーレ代表理事の中島さん。2

「親の同行が求められる場合もありますが、親に妊娠したと伝えたからといって、一緒に来てくれたり、お金を出してくれるとは限りません。『そんなの知らない、ひとりで行きなさい』と言う親もいます……。それで子どもが中絶を望んでいるのにできなくなると困るので、病院と交渉をすることもあります」

このように家族やパートナーなど周囲の対応によって、女性の自己決定権が左右される現実がある。

そうした現状について、中島さんはこう警鐘を鳴らす。

「中絶をする人に対して、『避妊せずにセックスしているのが悪い』と思う人もいるかもしれません。ですが、中絶を選択する事情はいろいろあります。避妊をきちんとできていないこと自体も、その人の責任だけではなく、性教育が不十分だったり、その人がいる環境において選択できる避妊法が限られていたりといった社会の側の責任もあるんです。なので、男女共に様々な選択肢を知り、実際に選ぶことができる環境を整えることが必要です」

▶︎若年妊娠にまつわる社会問題について詳しく知りたい、その構造を知りたいという方は、コチラの特集をご覧ください。

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