(引用元=リディラバ・ジャーナル)
さまざまな社会問題が集積していると言われる「地域」。とくに年々人口減が加速し、どのように財源を確保するかという問題に直面している地域自治体は少なくない。
異なる立場から地域で活躍する3者が、苦境にあえぐ地域自治体の「稼ぐ」を根本から問い直す。
※本記事は、株式会社Ridilover(リディラバ)主催の社会課題をテーマとするカンファレンス「R-SIC(アールシック)2018」のセッションを記事にしたものです。2019年7月27、28日に開催される「R-SIC2019」については文末をご覧ください。
地域に新たな財源を生む事業
吉田雄人(以下、吉田):まずは3人の自己紹介からということで、私は今回モデレーターなんですが、2017年7月まで横須賀市長をしていました。
現在はガバメント・リレーションという業態を立ち上げようとしています。PRというとパブリック・リレーションズで「世間との関係」を指しますが、ガバメント・リレーションズは(GR)は「政府との関係」です。
ただ私はより広義な意味で捉えていて、民間の技術やサービスをマッチングさせることにより、地域の課題解決をしていこうと考えています。
森新平(以下、森):私が取締役COOを務めている株式会社ホープは「自治体に特化したサービス会社」をスローガンにしています。広告、マーケティング、メディア、エネルギーといった大きく4つの事業を展開しています。
林篤志(以下、林):僕は地域で「Next Commons Lab」というプロジェクトをやっています。
僕らが掲げている未来は、いわゆるポスト資本主義社会。資本主義の「次」はどういった形で到来するのかを考えながら、社会構造=オペレーティングシステムそのものを新たに発明することを目指しています。
Next Commons Labは、それぞれのプロジェクトを通じて地域社会と交わりながら、 ポスト資本主義社会を具現化する議論と実行の場です。
吉田:まずホープの森さんに、今回のテーマである「地域が稼ぐ」ことを踏まえて事業のお話をしてもらっていいですか。
森:はい、主に広告事業の話になるのですが、どの自治体にもホームページや広報紙がありますよね。そのなかのさまざまなスペースを広告枠として販売する事業を展開しています。
具体的には、広告枠を年間1000万とかで買い取り、その広告枠を私たちが民間企業に販売するというビジネスモデルです。自治体側からすると、それまで使っていなかったスペースを広告にするだけで1000万円といった財源が確保できる。
民間企業からすると自治体のメディアを活用して地域住民にリーチができる。自治体が発行している広報紙は、その地区に住民票を登録しているお宅全戸に配布されると言っても過言ではないくらい、すごいメディアです。
にもかかわらず、広告マーケットは200~300億ぐらいと言われています。もったいないし、もっと拡大できるのではないかと思っているんですよね。
吉田:なるほど、自治体が持つリソースを金銭的価値のあるものとして開拓し、それによって自治体は新たな財源を確保できるということですね。
自治体が存続し続けることはマストか
吉田:林さんのNext Commons Labを始めようとされた際には、どんなきっかけがあったんですか。
林:僕自身はもともとエンジニアなんですが、2011年から高知県土佐山田という人口1000人くらいの村に移り住みました。
1000人の村を丸ごと学校のようにして、都市部から人を呼んできて起業してもらったり、地域資源を活かしたいわゆる地方創生をしたり……そういったプロジェクトをずっとやってきたんですが、その経験を通じて感じたのは、結局、地域社会は何も変わらないんじゃないかということでした。
でも、そもそも変わらないんですよね、社会なんて。変えようとするよりも、社会の構造そのものをつくり直すアプローチをしたほうがいいのかなと考えたんです。
それで、僕らが実現したい社会が無数に生まれるような分散型の第三層のレイヤーを作っていこうと。そんな思いで、Next Commons Labを始めました。
吉田:Next Commons Labでは、どんなことをされているんですか。
林:いま具体的に動いているのは、たとえば、全国各地10ヶ所ぐらいNext Commons Labの拠点があり、1エリアごとに10~15人の起業家を集団移住させることをしています。
そこにある地域資源を活かして新しいビジネスの立ち上げや社会の仕組みづくりの支援をする。そうすることで、停滞している地域資源や地域の仕組みをどんどんアップデートしていくんです。
近年は「地域が消滅する」と言われて久しいですが、そもそも消滅するのは、地域ではなく税収が足りなくなる自治体です。ただ自治体というものが存続し続けることは果たしてマストなのだろうかとも思うんです。
むしろ、これからは地縁や血縁で成り立っていた地域よりも、価値観や共感をベースにした新しい共同体になっていく。そう考えると、より「アップデートされた共同体」の形を探求したほうがいいと思っていて。
吉田:面白い考え方ですね。それぞれ大変ユニークな事業ですが、林さんにより詳しい内容を聞く前に、森さんの場合は自治体の休眠している資産に着目したということで、初期はさまざまな苦労があったのではないでしょうか。
「自治体が稼ぐべき」という風潮の是非
森:創業してから約2年は自治体にほとんど相手にされなかったですね。
ホープは代表の時津が学生時代に起業した企業なのですが、当初は自治体に営業をしても話すら聞いてもらえなかったそうです。そもそも「自治体が税金でつくる広報紙に、広告を入れてお金を稼ぐとはどういうことなのか?」というクレームもあったりして。
でも、そんな時に前・横浜市長の中田さんが「行財政改革!」と旗を振りはじめたり、タレント知事と言われるような東国原(英夫・元宮崎県知事)さんや橋下(徹・大阪府知事/大阪市長)さんが出てきて、テレビで地方自治体のあり方が取りざたされるようになってから一気に空気が変わったのです。
「自治体がお金を稼ぐ」という意識が芽生えたと言いますか。
吉田:たしかに「自治体はお金を稼ぐべきだ」といった世論が一時期盛り上がりましたね。
でも、元市長ということでそれについて言わせていただくと、私は少し違うんじゃないかと思っているんですね。これはホープさんの事業を否定するわけでは決してないですけど。
自治体が税収をどう確保するのかを工夫する必要があることは否定しません。地価を上げる努力をしたり、企業誘致をしたり、定住政策を考えたり。
ですが、「お金を稼がないといけない」となってしまうと、たとえばそれまで無料で開放していた施設の利用料も取ったほうがいいといったことをはじめ、「どう稼ぐか」といった議論が次々に出てくるようになります。
でもそうじゃないと。そもそも自治体職員で金儲けが上手い人はいないし、そういう人が必要だとも思いません。自治体職員として求められるのは、市民の痛みに寄り添える人とか、お金の使い道についてきちんと判断ができる人じゃないですか。
なので「自治体がお金を稼ぐべき」という風潮は払拭していけないとも思っているんです。
森:おっしゃる通りですし、私も本来自治体の職員は本業に集中すべきだと思っています。
「自治体はお金稼ぐべきだ」という世論が盛り上がったときに、自分たちで広告を獲得するところまでやりたいという自治体もありました。でもそれはやはり違うのではないかと思っていて。
自治体職員の方がやるべきは、広報課であれば、自治体がやっていることを発信していくことです。広告枠をつくり、広告主を獲得することは私たちのような代理店にアウトソースしてくれればいい。
だからお金を稼ぐことが目的になってしまうのは違うなというのは同感です。
▶︎「定住」にとらわれない地域自治体の新たなモデルとは?続き(後編)はコチラからご覧いただけます。
年に一度の日本最大級の社会問題カンファレンス「R-SIC 2019」
「R-SIC(Ridilover-Social Issue Conference)」は、株式会社リディラバが2013年から開催している社会課題をテーマにした日本最大級のカンファレンスです。
教育界、自治体、NPO・企業と各界最前線で課題解決に取り組む、圧倒的な熱量を持った登壇者を100名以上お呼びし、45ものセッションを開催します。
社会課題の最先端を行く人たちの考えを知ることができる上、社会課題に関心の高い参加者の皆さま同士で新たな繋がりが生まれる場となっていますので、奮ってご参加ください。
【R-SIC2019開催概要】
日時 :7月27日(土)、28日(日)
場所 :三井不動産BASE Q(東京都千代田区有楽町1丁目1−2 東京ミッドタウン日比谷 6F)
セッション内容、登壇者など詳しくはこちらから▼
http://r-sic.com/
お申し込みはこちらから▼
https://rsic2019.peatix.com/
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https://camp-fire.jp/projects/view/111482
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