山ちゃんは 日本一の特別地方公共団体の職員なんだよ
山田氏:明治大学の牛山先生には「松本広域連合っていうのは、もともとは松本広域消防局だったもので、それは1993年に日本で初めて広域消防局としてスタートした特別地方公共団体なんだよ」って言われたんですよ。
名古屋までで止まっていた中央道を延伸するために、長野中央道ができて、1993年に松本の麻績(おみ)インターというのができることになった。麻績インターというのは麻績村というところが所管で、インターができる自治体には常備消防として、消防本部がないといけない。でも、当時、麻績にはそれがなかったんですよ。
その時に、どうも麻績が松本市の市長に相談に行ったんですって。そしたら、「19市町村が協力して、広域でやろうよ」というのを、松本市、塩尻市が中心になってやったというんですよね。
それはすごいことだから、「その話をしてくれ」って言われたんですよね。「山ちゃんは、日本一の特別地方公共団体の職員なんだよ」って、価値を見出してくれたんです。
「一歩踏み出している」という感覚はすごく大事
山田氏:「松本広域連合は日本一で、私は既に一歩踏み出している」ということを外から言っていただいた。この、『自分が一歩踏み出している』という感覚はすごく大事なんです。
これは、『スイッチ!』に書いてあるんですけど、ガソリンスタンドのスタンプカードで、スタンプを溜めると無料で洗車してもらえるとした時に、6回行くと1回タダになるものと、8回行くと1回タダのカードがあると。ただ、8回の方には既に2回押してある場合、回収率が高いのは8回なんですって。それはやっぱり、既に一歩を踏み出しているから。
加藤:面白いですね。
山田氏:そうそう。心理としてね。
「もう一歩踏み出していますよ」
山田氏:私自身、いろんな自治体に呼ばれてお話をする時に言っているのは、「一歩踏み出せ」ではなくて、「もう一歩踏み出していますよ」と。「だってこの場に来ているじゃん。モヤモヤしているからでしょ?」「私の講演、わざわざ仕事ではなく、自分の時間を使って、勤務時間外で来ているじゃないか?」。そういうことを、自分も言える存在になれた。
ひとりずつしかナンパはできない
山田氏:もっと言うと、『nanoda』のスペースで何かイベントをしたければ、「ちょっとやってみようよ」と。「最初の1人は、誰を呼びたいの?」って、いつもイベントやりたい人に聞く。「その1人だけでもいいから呼んでやろう、(自分を入れて)3人で」って声をかけるんですよ。
最初のひとりとして誰を呼びたいっていうのが、明確に決まっていれば、同じような境遇の人がいるから、その人たちに向けてイベントページ作ったりとか、私も似たような子を呼べるかもしれない。そうやって、「一人ひとりが呼び合うんだよ」、「みんな来て!」じゃ誰も来ないでしょ、と。元ナンパ師的にはね、「ひとりずつしかナンパできないよ」って言うんです(笑)。
記録しないと やったことにならない
加藤: 山田さんが『MICHIKARA』の規模のプロジェクトを進めることができるまでに、重要だったアクションはありましたか?
山田氏:『Shiojiring』というアートイベントをやっている時に、アーティストの方から「山ちゃんさ、何をやったかを記録をしないと、やったことにならないよ」って言われたんですよ。それから、やり始めたことの記録をするようにしたんです。
加藤:確かにアクションを記録することで、その実績から新たに声をかけてもらえることもありますよね。
目に見えない『信頼』という資本がある
山田氏:5年やってわかったのはね、目に見えない資本ってあるんです。
田坂広志さんがいうところの『信頼資本』になるんですよ。過程を公開して、5年振り返ってみると、「いろんな人が山田さんとつながっている」という資本が目に見えるようになった。これはやっぱり記録に残しているからなんですよね。
取り組みを真似されてから 活動が広がった
加藤:山田さんに持ち込まれるプロジェクトが増えて来るような転換期はありましたか?
山田氏:『nanoda』を他の人が真似してから、活動が急激に広がっていった気がします。
私が『nanoda』をやったのも、実は真似なんです。坂倉杏介さんが『三田の家』という、田町の商店街の空き家で大学の仲間たちとゼミをやるようになったんです。その場所を作るために1万円を払う人が100人いた。
私はそれをローカライズ、要はパクったんですよね。でも、リスペクトしてパクる。必ず「慶応義塾大学の坂倉さんたちがやっていたから」と言うようにしている。何が良いかと言うと、良い前例をたとえとして言うと、私がやることも権威付けされるから、協力してくれる人を集めやすくなるんですよ。
「小京都」という京都の戦略
山田氏:「小京都」という京都の戦略。小京都っていうのは、京都の良い部分だけをいろんなところに作っているんですよね。そうすると、京都のプロモーションになる。
私自身もローカライズしたり、三田の家をリスペクトして真似しているから、「どんどん真似してやったらいいよ」と言っています。
それを、隣の岡谷市や岡崎、岩倉、豊明、いろんな自治体でやり始めてくれたんですね。信州大学の学生たちもやってくれました。要は小京都のような効果が生まれて、広がっていった気がします。
加藤:他人とシェアすることで、自分自身の活動が広がっていく。情報をオープンにする人に情報が集まるのと似ているのかもしれません。
属性を持たせないから 生まれるものがある
山田氏:私自身では、「偶然をデザインする」と言っていますけど、『nanoda』ってよくわからないものなんですよ。
要はね、何かしたいっていう意思を持った人が、「○○なのだ」って名前をつけたら、明日から千円でも、その場所を利用できるっていうコンセプトなんです。だから例えば、イベントスペースだとか、建物の属性を持たせてないんです。もし、「ここはイベントスペースだ」って言ったら、イベントしかできなくなっちゃいますよね。
そうじゃないからこそ生まれてくるものがあって、坂倉さんは「よくわからない現象や事象に人が向き合うと、その人が勝手にそれぞれ理解をする」と言っていて、「山田さんはそれを許容しています」と言うんです。
余地があることで メディアに取り上げられることが増える
山田氏:記者にとっても、一人ひとり別の解釈ができる余地があることは、『nanoda』がメディアによく取り上げられる要因のひとつだと思うんです。
たとえば、ひとつのイベントに何人か記者が来ると、それぞれいろんなことを言うんです。「空き家の活用をしている」、「商店街の賑わいにつながっている」、「新しいコミュニティスペース」、「市職員の人材育成じゃないか」、「塩尻市職員のひとりである山田さんの挑戦」とか。
記者は取材が終わった後、会社に戻ってからは、一面の取り合いが始まるんですよ。自分が記者だとしたら、カラーで一面に載りたい。その時に、自分が書きやすいように書いた方が、一面に載るじゃないですか。
それを、「いやいや、違います。これは市職員の人材育成の場なんですよ」って言ったら、記事は小さくなるんですよ。思い切り感じた通りに、書いてもらえばいいんですよ。
いろんな見方があっていい
山田氏:『nanoda』で朝に夏野菜を売った時に、日本農業新聞に大きな記事を載せてもらったんですよ。その時に、スムージーの機械をその場に置いておいたんです。農家が野菜直売するのはオッケーじゃないですか、私はレタス農家の息子だし。そこで買った野菜を、たまたまそこにある機械でスムージーにしてもらうこともできた。
加藤:面白い。
山田氏:だから、自分で野菜買って、自己責任で飲む。その時に、日本農業新聞の人はこうやって書いたんですよ。「美味しいものは人を結びつける。農業の力にあやかり、地域を元気にしたい」。
その時、「山田さんは農家の息子で、空き店舗を活用した地産地消を進めている人ですよね」って聞かれたんですよ。僕はね、「そうです」って答えたんです(笑)。
加藤:(笑)。
山田氏:何か挑戦するっていう人は一人ひとり思いがあって、その思いが違って当たり前。それに対して、いろんな見方があっていい。記者もそうだし、『nanoda』で何かしたいっていう人でも、自分なりに咀嚼してもらえればいいと思っています。
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※本インタビューは全7話です。facebookとTwitterで更新情報を受け取れます。
第1話 元ナンパ師公務員が進める 新しいシティプロモーション
第2話 いろんな媒体に出ているから 何かを始められる
第3話 昔は公務員のことをナメていた
第4話 ひとりずつしか ナンパはできない
第5話 カタナを抜いている公務員は 見たことがない
第6話 上司は5年もすればいなくなる
第7話 公務員という後ろ盾があるから挑戦ができる