昭和43年生まれ。松山大学経済学部を卒業後に愛媛県の砥部町役場にて勤務。「税務課」、「会計課」、「介護福祉課」、「企画財政課」、「会計課」と長く会計に関わってきた会計のスペシャリスト。「地方公会計の整備促進に関するワーキンググループ」の委員に抜擢されたことを初め、総務省が取り纏めた4つの公会計に関するワーキンググループで委員を務めた。
様々な雑誌に寄稿をする傍ら、日本公認会計士協会シンポジウムのパネリストや早稲田大学公会計改革推進シンポジウムのパネリストとしても活動実績がある。
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加藤(インタビューアー):本日はよろしくお願いします。砥部町の特産品にはどのようなものがありますか。
田中弘樹氏:やはり名前にも入っている砥部焼ですね。あとは、自然薯やみかん等も有名です。
加藤:砥部焼は誰でも聞いたことがあるぐらい有名だと思います。また、愛媛県という括りでは、柑橘系の果物の生産量は日本一だそうなので、普段知らずに砥部町のフルーツを食べていることも多いのかもしれません。
現在の仕事
加藤:では、早速ですが、今のお仕事を教えて頂けますか。
田中弘樹氏:会計全般、それと公会計の仕組みを作っています。
加藤:今、多くの地方自治体が公会計の取り組みをされていらっしゃいますが、そもそも公会計の取り組みというのはどういうものなのでしょうか。
田中弘樹氏:砥部町の公会計は10年ぐらい前から進めてきているんですけど、来年度中には新しい統一の基準で作りましょうとなったので、去年今年とずっと形にしてきているところです。内容としては、固定資産台帳の整備、単式簿記から複式簿記の移行というところが大きいところだと思います。
現在、地方自治体の財政状況が悪化している中、今後さらに厳しくなっていくと予想されていますが、公会計を整備することで、それぞれの自治体が持っている不動産等の資産が可視化されるようになり、首長、議員、職員、民間企業、大学、住民等が議論をする為のインフラが完成します。
公会計先進モデル砥部町が生まれるまで
加藤:公共施設の老朽化ということが言われています。その中で砥部町はこの公会計、特に資産台帳の整備というところで先進事例となっています。その経緯を教えて頂けますか?
田中弘樹氏:丁度、2006年に財政課に異動となり、公会計の担当となりました。その時は全く何もない状態から始まりました。当時は、「総務省方式」という会計モデルがあり、私が異動してきた年には、そのモデルで「決算統計」という統計資料集から、財務諸表を作りました。
その翌年、私が財政2年目の時に新しく「改訂モデル」や「基準モデル」というものが出て来て、「そのどちらかで作って行きましょう」という動きが全国で起こりました。その時に砥部町は「改訂モデル」というもので財務諸表を作ることにしました。
加藤:「改訂モデル」や「基準モデル」についてもう少し詳しく教えてもらえますか。
田中弘樹氏:「改訂モデル」とは、既に役所が単式簿記で作っていた「決算統計」を組み替えれば作れる為、大きなお金がかからないという利点がありました。
一方、「基準モデル」は複式簿記化や固定資産台帳のデータ整備が必要で、システム改修等にもコストが掛かると考えていました。そのような理由から、負荷の小さい「改訂モデル」を選択しました。
加藤:単式簿記である「改訂モデル」だと資産の把握が難しいですね。
田中弘樹氏:当時、どちらのモデルであっても「保有している公共資産を管理して行きましょう」というポリシーがあったのですが、結果的に「改訂モデル」を選んだ多くの自治体は、資産自体やその資産の状況把握が遅れていました。
ただ、砥部町の場合、私が2006年に人事異動があったその時から、マイクロソフトのデータベースソフト「アクセス」を使って資産台帳の整備を始めていました。
この時は、まだ2007年ぐらいで公共施設の老朽化の話はほとんど誰も口にしていなかったんですが、なぜ私が資産台帳の整備に早く着手したかと言いますと、施設の老朽化の話というよりも施設や事業単位で切り分けた情報を作る為でした。
施設や事業のマネジメントや優先順位を考える為には、今後絶対に必要になると考えたからです。
加藤:凄く早い取り組みですね。
田中弘樹氏:資産台帳を整備した後は、最初のうちは複式簿記の基準モデルへの移行も考えた時期がありました。しかし、それよりも改訂モデルのままで良いから資産台帳を整備し、アセットマネジメントをもっと推進していかなければならないと感じました。
基準モデル移行はとりあえず置いておいて、資産管理アセットマネジメントを一気に推し進めていく方向に舵を切ることになります。
加藤:「最初の時点では、老朽化は気にしてなかった」と、つまり、固定資産台帳を作る過程で、老朽化について対策をとらないといけないとお感じになられたんでしょうか。
田中弘樹氏:はい。そうです。セグメント情報をつくることが最初の目的でしたが、資産台帳を整備していくうちに、アセットマネジメントが今後の自治体運営の生命線になるという感じを持ちました。
そして、資産台帳整備後に、3つのシナリオによる中長期の財政計画を作ることになります。これまでの中長期財政計画とは全く違う形で3つのシナリオを用意して説明することとしました。
1つ目のシナリオは今後新しい事業を何もしなかったらどうなるかというシナリオ。2つ目は「上限シナリオ」と呼び、公共施設は耐用年数が来た時点で更新していったと仮定したシナリオ。
最後のシナリオは、2の上限シナリオでは財政が成り立たない為、公共施設の更新優先順位が低いものをどんどん諦めていき、なんとか予算が組めるライン、目標ラインというか採算ラインというイメージのシナリオをつくりました。これを順当シナリオと呼んでいます。
加藤:最後のシナリオは現実的な落としどころということですね。
田中弘樹氏:このシナリオを出してみると、このままの税収では全ての公共施設を維持することはできないということを数字ではっきりと示すことができ、さらに上限シナリオと順当シナリオとのかい離幅が行財政改革の幅であるということを示すことができます。
加藤:可視化するということで、田中さんの感じていた危機感を伝えやすくなるわけですね。
田中弘樹氏:内部職員はもちろん、首長、議会議員、住民にも伝えることができます。この幅を見せるというのは大きなことかと思います。また、順当シナリオによる推計から将来バランスシートもつくりました。個人的には結構面白いものなんじゃないかと思っています。
加藤:資産として管理することによって、初めて長期展望が把握できるようになったんですね。
田中弘樹氏:はい。本当に必要な公共施設は必ず維持したい、そうすると、その足りないお金をどうにか捻出しなければいけない状況を、皆の目に見えるようにしたんです。担当職員の頭の中にあるだけではいけないということです。
さらに40年スパンで見てみると、砥部町には施設更新等のコストが大きい2つの山の時期があり、15年程度先までにある1つ目の山を乗り切れば大丈夫かというとそうではない。さらにその先の20~40年後にやってくる2つ目の山、これを乗り切る為の体力を残しながらこれからの15年間を過ごさないといけない。数字やグラフを使って伝えていきました。
加藤:そうすると、国から資産管理に関して推奨されるかなり前から、砥部町として必要だと考えたことを進めていたら、最近それが、国や自治体の中でも大事だという流れになって来たということですね。
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