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【砥部町 田中弘樹氏】会計の先駆的な事例を進め、総務省や大学からも声がかかる会計実務のスペシャリスト(2/5)

なぜ今、公会計制度が推進されているのか

加藤:そもそも、公会計制度の推進で何が良くなるのかと仰っている方もいます。それについて、田中さんはどう説明されていますか?

日立ソーシャルイノベーションフォーラム2015講演

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田中弘樹氏:はい。地方公会計の推進によって、魔法のように何かが良くなるわけではありません。まずは、将来、財政が厳しくなっていくことを覚悟する。また、将来必要となるお金を、今存在している優先順位の低い事業や施設に使わず、長期的な視点で何にどれくらいのお金を持っていけば良いか考えることができるようになります。
 それがとても大事だと思います。つまり、公会計を整備しただけではダメで、そこから皆が将来のまちづくりについて、何を考え始めるのかが大事だと思うのです。これからのまちづくりには、何をあきらめるのかという感覚も必要です。
加藤:民間企業では財務諸表の作成が義務付けられています。地方自治体が、会計上の資産管理を今までして来なかった理由はなんだったんでしょうか。
田中弘樹氏:自治体が借金をするとき、「○○分野の施設なら取得価格の7割までしか借りられない」とか、「△△施設なら5割まで」等と特有なルールがありました。そうすると、資産取得の為の費用よりも、大きな借金をすることは制度上できないということになります。結果、借金が資産を上回る債務超過という状況になることはありません。
 さらに、自治体の所有する公共施設の耐用年数が40~50年程度あるのに対して、借金を返すのは10年~20年のものが多いです。つまり、資産の償却よりも借金返済のスピードが短いという制度が確立されています。
 近年では、超長期の返済もありますが、せいぜい30年といったところです。そういう状況下では、自治体も議会も、「現金・預金」等が減少していないか、つまり資金ショートだけ注視しておけば良かったということだったのではないかと思います。
加藤:当時は自治体、議会、そして住民やメディアもあまり財政や会計というところには注目していなかったということでしょうか。
田中弘樹氏:ただ、現在のような不安定な経済による税収の増減リスク、膨大な公共施設の維持費、高齢化による社会保障関係費の増大となってくると、全てを綺麗に可視化して、それをもとに事業や施設の統廃合・複合化等を考えることが必要となってきました。
加藤:過去に比べて厳しくなっているということですね。
田中弘樹氏:はい。加えて、自治体は本来、公共施設の建設等を除いて、借金をしてはいけないというルールがあるのですが、例外的に資産形成以外にも利用できる臨時財政対策債という借金があります。
 近年、多くの自治体でこのような借金も多くなってきている状態にあり、ここに追い打ちをかけるように公共施設の維持・更新費がかさんでくると、財務諸表を綺麗に作って現況を把握しておかないと、お金を使う優先順位の話が全くできません。
 幸い砥部町は、財政的にはまだ恵まれていて、だからこそ危機感を感じづらいのですが、危険ゾーンに入ってからだと選択の余地はなくなるので、財政状況がまだ良いうちに情報発信をすることが大事だと思ったんです。
加藤:臨時財政対策債は、地方自治体の名義として借金をしていて、国が補填するという立てつけですが、この金額が丸々100%補填されるかはわからないわけですよね。
田中弘樹氏:はい、例えば借金の返済が1億円増加したとしても交付税が1億円増えるとは限らないですからね。もちろん、計算の中には入っていますけど。そのあたりをしっかり認識しておかないといけませんね。

財政健全化はどこから行うべきか

加藤:ちなみに、財政と会計に長年関わってきた田中さんは、どこに手を付けるのが財政の立て直しに効果があると思いますか。
田中弘樹氏:難しいですね。不動産等の資産活用は大きいですよね。社会保障費は、高齢化が進むとどうしても増大して、地方自治体がコントロールできないですからね。砥部町のような田舎の小さな自治体ですと、周りの自治体との連携というのもあると思います。
 例えば、ハード(施設)はあるけどそこで展開しているソフト(事業)がないという自治体もあれば、逆にソフトはあるけどハードが既にボロボロで維持費がかさんでいる等、色々な自治体があります。そういう時に他の自治体と一緒になって、広域でやるという話が進んでくると良いと思います。
田中弘樹
田中弘樹氏:また、個人的には民間企業に対して、自治体の持つ不動産の情報をもっと提供して、何か一緒にできればと思います。施設や事業単位の財務情報は、住民の人はもちろんなのですが、実は多くの企業人や近隣自治体職員にマネジメントの視点で見てもらいたいと考えています。さらに、銀行や地元シンクタンク等にも働きかけて企業と自治体を繋いでもらえると嬉しいですね。
加藤:砥部町のように資産台帳をしっかり作って管理できると、それを活用して行こうという方向性が出て来ると思います。それをもとに指定管理者制度等で、外部と動けている事例は多く生まれてきているのでしょうか。
田中弘樹氏:指定管理はあるにはあるんですけど、一部ですね。
加藤:そうですか。あと、先ほど少し「広域でお互いが協力し合って」という話がありましたが、それぞれの自治体の思惑があると、なかなか話が纏めづらい部分もあると思います。そこはうまく進められそうなのでしょうか。
田中弘樹氏:今はSNS等も有用なので、利用できるものは利用しながら多くの自治体職員が繋がっていけるといいと思います。
 また、先程もありましたが、施設別と事業別の財務諸表を作成、公表をしていくと、「隣の市町村の同じような施設はどんな経営状態なのか?」という疑問が生まれるところから交流が深まることもありますし、さらに進んで協働する動き等も出て来る可能性はあると思っています。
加藤:そこを進めて行こうと思ったら、草の根的に職員の方同士が繋がったりするとか、首長自らガンガン動いていくとか、どういう手が有効なんでしょうか。
田中弘樹氏:あと10~15年くらいで自治体の財政状況が厳しくなっていたとしたら、官官連携も考えに入れない訳にはいかなくなっていると思います。そこで、公会計の統一基準というのは大きな役割を発揮するのではないかと思うのです。
 もし、統一された会計基準で多くの自治体の同種施設や事業の経営状況が誰にでも見られるようになり、色々な人が意見を交わす場がネット上にできれば、連携の仕方がオープンに検討され、とても面白いと思っています。
 そうなった時には、首長や議員、職員がいつでも、どこでも、どの自治体のデータでも見られるというのも大きいです。さらに、それらの情報を見ながら、これなら私が立候補してこんなことをやってみようと思う若い人が増えるかもしれません。政治に携わる人、これから携わろうとする人が、適切なマニフェストをつくれるよう情報開示をしておくことも、とても重要な仕事なのではないでしょうか。
 私なら、現在の財政状況や中長期の将来戦略、そして何を諦めるか考えなければいけなくなった時は、施設や事業単位のセグメント情報、これらがないとまちづくりとか、マニフェストを作ることは難しいし、それに対して長期的に責任をもつことが出来ないと思うのです。だからこれらの会計情報は政治に携わる人達にとっても大切なものであるはずです。

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